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エッセイストになりたいねん

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自分の人生や日々の生活に起きたことをエッセイにしています。
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#小説

喪失の響き

わたしには文学の才能ってものがない。自分で書いていて虚しいほどにわかる。語彙は少ないし、小説も数えるほどしか読めたことがないし、コツコツと地道な作業を続けるのも苦手だ。

それでも、書かないと生きられない瞬間があったから、これまで書き続けてきた。

わたしが本当にやりたい芸術は音楽だ。音楽でなら、どんな言いたいことだって表現できる。音は血肉となってわたしの中を流れている。こどものころからずっと、記

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4月3日(金)線維筋痛症とCFS/MEによる二年間の寝たきり生活を経て庭に出られた時の話

4月3日(金)線維筋痛症とCFS/MEによる二年間の寝たきり生活を経て庭に出られた時の話

今日というこのなんでもない日におめでたいニュースである。

一昨日、自宅の中庭に出るためのバリアフリー工事が整い、今日、二年ぶりに戸外に出るに至ったのだ。

私はずっとこの時を待ち望んでいた。二年前を境に、「線維筋痛症」と「CFS/ME(慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎)」が悪化して自分の足で歩けなくなり、実家で寝たきり生活を送ってきた。家族に看病され、車椅子を押され(手が痛いから車輪を漕ぐこともで

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3月30日(月)うちのジャンバルジャン

3月30日(月)うちのジャンバルジャン

夕方頃になると毎日廊下に出て庭越しに遠くの空を眺めるのが習慣になっている。コレをするとしないとでは密室に居続けることによる心身の閉塞感や平衡感覚の狂い、三半規管のバグの発生率などが全然違う。

わが家の間取りはかなり特殊な造りをしているため一般的感覚では伝えにくく、しかも機密情報保持の観点から伝えるわけにもいかないのだが、とにかくハハに脱衣場から廊下まで椅子をよっこらしょと持ってきてもらい、私はえ

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3月8日(日)なんも悪いことしてへんで

3月8日(日)なんも悪いことしてへんで

【読みもの】

エストロゲンとプロゲステロンの分泌配分がそういうふうになる時期なんやろうけど、どうにも落ち込みと苛立ちの上がり下がりが激しく、そのこと自体にもがっかりしてしまう。

こういうときは大天使アカシヤ(さんまさん)の出ているトーク番組を観るに限る。安心と安定の明石家印とはよく言ったもので、さんまさんはいつなんどき見ても常に「明石家さんま」をやってくれている。

なので、「ああ、今日もさん

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一番きれいだった日(振り袖の話)

一番きれいだった日(振り袖の話)

今日は成人の日だそうだ。なんだって!?知らなかった。日にちの感覚も曜日の感覚も消失しているから、1月下旬くらいかと思っていた。まだ1月って始まったばかりなんだ……お正月って終わったばかりなんだ……あ、そう……

成人式といえば振り袖である。日本中が色彩に溢れ、華やかさ晴れやかさに満たされる日。布団に横になり続けるアラウンド80のような暮らしを送っていると、若い人たちの元気な姿が光に見える。テレビに

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音楽の力があるとして

音楽の力があるとして

この世にはどうにもならないことがある。たくさんある。それを知っている。

自分の力、人の力、どんな力を持ってしても、合わせても、無力な瞬間がある。時がある。日々がある。

苦しさ、悔しさ、悲しさ、虚しさ、寂しさ、切なさ、いろんな「さ行」が心の中で影を潜めている。顔を出さないように釘をさしても、ほんの僅かな出来事で弾け飛んで、心の内壁が傷付いて、癒える日が遥か遠くに見える。

どうしようもないことを

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人の孤独を笑うな

人の孤独を笑うな

言葉にするのも憚るくらい、寂しい時間が毎日ある。

一人が怖い。

誰もいない家。動かない物質。このまま世界が滅んでいても気付かないくらいの静けさ。

私は一人が好きだと思っていた。
本当の一人になるまでは。

この一年と八か月の間に行った場所は、自分の寝室と、すぐ隣のトイレ、そこから目の前の階段を下って、脇にある和室。長く伸びる廊下と、その先の脱衣所、お風呂場、真横にあるトイレ。

どんなに多く

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分身

分身

私のもとにぬいぐるみのぴよちゃんがやってきたのは去年の6月頃のことだった。突然の奇病になって打ちひしがれている私のために家族が近くのショッピングセンターから買ってきてくれた。ぴよちゃんが来る前に何匹かのぬいぐるみがやってきたけど、抱き心地、触り心地、その両面を満たしていたのはぴよちゃんだけだった。私は毎日ぴよちゃんを抱いて過ごすようになった。寂しいから、だけの理由ではなくて、横向きに寝る時にクッシ

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小芋の揚げたん【#夜更けのおつまみ】

小芋の揚げたん【#夜更けのおつまみ】

関西の料理は名前が可愛い。なんでも最後に「たん」が付いて、語感が良いしゆるキャラっぽい。焼いたん、炊いたん、和えたん、揚げたん。調理方がそのまま名前に活かされるので、素材そのまんまの料理も立派な一品としてメニューに載る。

とりわけ私の心を掴んで離さないのは「小芋の揚げたん」。と言ってももう何年も食べていない。最後に食べたのは中学生の頃だっただろうか?

子どもの頃はよく外食に連れて行ってもらった

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『蛙の恩返し』

『蛙の恩返し』

朝食を食べてくつろいでいると、家族がやって来て嬉しそうに「お庭に蛙ちゃんが来てるよ!」と教えてくれた。慌てて一階の和室に向かい、窓から覗くと、いた。淡いグリーンの大きな蛙が。

想像していたよりずっと立派だった。ぽっちりと指先に乗る大きさかと思ったら、なんのなんの、片手にどっしりのしかかりそうな重量級が木の枝に停泊している。

「すごいねぇ、かわいいねぇ」
「綺麗な色してはるねぇ」
「ほんまやねぇ

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エッセイ「あんぱんを食べる女」

エッセイ「あんぱんを食べる女」

あんぱんの美味しさに気が付いたのは今年に入ってからのことである。もちろん「あんぱんは美味しいなぁ」と感じたことなどそれ以前から幾度もあったが、そういうことではなく、「本当にあんぱんは美味しい。あんぱんよありがとう。あんぱんに幸あれ」級の感動・感謝・感慨を伴った美味しさに気が付いたのが、今年、ということだ。

あんぱんは牛乳と相性が良い。刑事ドラマの張り込みシーンでも定番の組み合わせだが、考えてみれ

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残像スライドショー(寝る前にいろいろ見えたり聴こえたりする現象の話)

残像スライドショー(寝る前にいろいろ見えたり聴こえたりする現象の話)

あれは4度目のイギリス旅行から帰る飛行機でのことだった。シートベルトをして離陸するのを待って、さあ3週間の滞在よ、愛しのイギリスよさようなら。なにか映画でも観るか……と、座席前のモニター画面を、スーファミのコントローラーと固定電話の子機のキメラみたいなリモコンでポチポチ操作して見つけたのが、『ブリティッシュベイクオフ』という番組だった。

イギリスBBCの人気料理番組で、アマチュアのベイカー(Ba

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「腸のふるさとブルガリア」 #ヨーグルトのある食卓

「腸のふるさとブルガリア」 #ヨーグルトのある食卓

人には「心のふるさと」とか「第2のふるさと」があると思うのだが、あまり「腸のふるさと」については語られることがない。心にはふるさとがあるのに腸にはふるさとがないとはこれいかに。私はつねづね臓器には平等でいたいと思っているので(どういうこと?)、この機会に「腸のふるさと」に想いを馳せてみたいと思う。

さて、ありとあらゆる国の食べものを日々飲み込んでいく腸ではあるが、やはり「何が本当に腸に良いのか」

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「腸のごきげんを伺う人生よ、さようなら」 #ヨーグルトのある食卓

「腸のごきげんを伺う人生よ、さようなら」 #ヨーグルトのある食卓

振り返ればいつも腸のごきげんばかり気にしてきた人生だった。いつだってそうだ。腸にお伺いを立て、腸の意の向くまま欲するまま、口にするものを選択してきた。腸の怒りを買えばトイレに籠もって懺悔の時を過ごし、眼前に幾度となく押し寄せる大波小波に、我が人生もこれまでか、と覚悟を決めてきたものだ。

正直に言おう。今も私は腸の支配下にある。お腹がぶっ壊れているのだ。「ピーヒャラピーヒャラ」などとのん気なBGM

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