マガジンのカバー画像

短編集 ~温~

20
単発小説とかそういうのの置き場です。あたたかみのあるお話(作者による主観)が置いてあります。
運営しているクリエイター

記事一覧

一杯のかけそば 広島死闘篇  #パルプアドベントカレンダー2022

一杯のかけそば 広島死闘篇  #パルプアドベントカレンダー2022

 ◆◇◆◇◆

 これは、広島のある町であった、心あたたまるお話です。

 今から何十年前も前の、昭和のある年の暮れ、大晦日の夜のこと。
 昨日の晩から降った雪が、家並みを真っ白にしています。

 暗い町をトボトボと歩く、三人の影がありました。
 真ん中にいるのは背を丸めた女性、年は三十歳ほどでしょうか。
 その両の手につないでいるのは、小学校低学年と高学年ほどの男の子です。
 女性は小脇に、風呂

もっとみる
【短編小説】 俺 vs 読書感想文(下) 実践編 そして…… 

【短編小説】 俺 vs 読書感想文(下) 実践編 そして…… 

 まずは題名だ。これはもうそのままでいい。
 改行して、2行目に学年と名前、ほらもうこれで残りたった98行……まだそんなにあるのか……。

 俺は本編1行目を書き出そうとした。

 手が止まった。
 何も浮かばない。

 こういう時は姉貴のメモだ。

1.ごく簡単なあらすじや説明、あるいはこの本を読むに至るまで

 これは難しくない。子供の頃に読んだ本なので、「子供の頃に読んだ本です」というのを適

もっとみる
【短編小説】 俺 vs 読書感想文(中) 学科編

【短編小説】 俺 vs 読書感想文(中) 学科編

 読書感想文の簡単な書き方。
 そんなものは学校で習った記憶がない。教科書にもなかったはずだ。毎年「はい、読書感想文は5枚ね」と言われるだけだ。
 いや、もしかしたら女子だけは教わっているのではないか? 保健体育で、男女が分かれて授業を受ける時……

 それはさておき、俺は前のめりになった。
「あるんですか、そんなものが」
「近い」
 俺は身を引いて、絨毯の上に正座した。
「教えていただけますか?

もっとみる
【短編小説】 俺 vs 読書感想文(上) 準備編

【短編小説】 俺 vs 読書感想文(上) 準備編

 もうだめだ。助けてくれ。ついに追いこまれた。もう逃げ場がない。大変だ。困った。
 10年ごまかし続けたがもう限界だ。どうしようもない。カネもない。おしまいだ。

 俺は机に置かれた原稿用紙5枚を見つめながら頭を抱えていた。
 俺は高校2年生。今は夏休み。しかも最終日。
 目の前にあるのは、読書感想文用の原稿用紙だ。

 問題集やらドリルやらは巻末についている答えを丸写しすればいい。というか昨日し

もっとみる
【創作怪談】トイレの花子っくりさん

【創作怪談】トイレの花子っくりさん

 バカな思いつきを実行に移す人というのは、いつの世にもいる。 
 Nさんはそんなバカな女子のひとりであった。昭和の時代、小学5年の頃の体験だそうだ。

 放課後、当時流行っていたオカルト本を友達3人で回し読みしていた時、Nさんはすごいことを思いついた。
「ねぇねぇ……『こっくりさん』を、『花子さん』を呼び出しながらやったら、どうなるかな?」 

 こっくりさんとはご存じの通り、大きな紙に平仮名の五

もっとみる
【短編】2月2日、夜、鬼やらい

【短編】2月2日、夜、鬼やらい

「それで、息子さんが外に出ようとしたら、足の指先が切れたんですね?」
 その青年は玄関の外から声をかけてきた。
「えぇ。そ、そうなんです」
 母親は震えながらそう言った。平屋の一軒家、上がりがまちに敷いた絨毯の上にへたりこみながらも、腕には息子を強く抱きしめている。
「さっきも電話で伺いましたが、スッパリ綺麗に切れていて? もう血は出ていない?」
「えぇ、はい。あの」戸惑いながら母親は続ける。「数

もっとみる
【短編小説】 異物

【短編小説】 異物

 その青年が私の医院にやって来たのは、12月25日の昼のことだった。
 彼は不自然な姿勢で、よちよちと歩いて診察室に入ってきた。
 私がどうぞ、と椅子を勧めると、いえ、椅子は、と言いよどんだ。丸眼鏡の奥の目が泳ぐ。 
「ちょっとあの、諸事情ありまして、座るのが」
 自宅からここへの電車も、ずっと立ったままでやって来たという。
 よく見れば下半身、それも前でなく後ろの方を、しきりに気にしている。
 

もっとみる
【田舎恐怖小説】さあばさま

【田舎恐怖小説】さあばさま

「それと、いちばん奥の間ァは、開けちゃなンねぇぞ」
 障子戸を開けようとした直前、ヨシエさんは云った。
「さあばさまが、おらっしゃるでな」

 その言葉に、興味を引かれた。
 戸にかけていた手を離して、囲炉裏ばたに座るヨシエさんの方に向きなおる。
「ヨシエさん、『さあばさま』って、何です?」
 尋ねると、小さな老婆は首を横にゆっくりと振った。
「わがらねェ。オラにゃ、詳しいごだぁわがらねェぢゃ」

もっとみる
【完全版】 青森の救世主 (上)

【完全版】 青森の救世主 (上)

☆はじめに☆

 本作は、カクヨムにて開催された個人設営のコンクール「草食信仰森小説賞」への応募作の完全版です。応募テーマは「信仰」でした。
 このような感じの内容にも関わらず、応募規定の最大値・1万字を軽く越えてしまったため、2000字ほどを削りました。
 今回、主催者の方に転載の許可をいただき、若干の手直しをしてここに掲載するのがその全長版=完全版となります。それではお楽しみください。

◆◆

もっとみる
【完全版】 青森の救世主 (下)

【完全版】 青森の救世主 (下)

【青森の救世主(上) に戻る】

 会計の際に「……ワインを頼まれたんですか?」と店員と一悶着になったり、車に乗る前に彼を撮ろうとして「写真」の概念を伝えるのに苦労したり、幾つかの騒動はあったが俺たちは車に乗り込んだ。  
「えぇっと……狭い海と広い海とがあるんですが、どっちに行くんですか」
「広い方です。おっきぃ方さ行ってくだせぇ」
 俺は胸をなでおろした。もし狭い海、日本海へ行くと言い出したら

もっとみる
【短編】ビジュアル系バンドが、心霊スポットで、熱々のおでんを食べて、呪われる話【三題噺】

【短編】ビジュアル系バンドが、心霊スポットで、熱々のおでんを食べて、呪われる話【三題噺】

 ビジュアル系アマチュアロックバンド・艶夜華~adeyaka~は、いま危機に直面していた。
 結成して2年目、もはや崖っぷちとも言ってよかった。

 86回。

 これが彼らの新曲の、1週間の再生回数である。

「なぁ、こんなにいい曲なのに、なんで伸びないんだろうな?」
 ボーカルのkyoが、動画の再生回数を見て誰に向かってとでもなく呟いた。 
 八畳の和室、kyoの自宅アパートである。整頓されて

もっとみる
【超短編】ショートショート [本文の前に注意書きを必ずお読みください]

【超短編】ショートショート [本文の前に注意書きを必ずお読みください]

★★★注意★★★
★★以下の文章を必ずお読みください★★

No.1
本ショートストーリー(以下SS)はフィクションです。実際の事件や出来事とは関係ありません

No.2
類似のアイデアを用いた作品が先に存在しているかもしれませんが、盗作ではないことを先にお断りしておきます

No.2-補
本SSのような断片的なアイデアは誰の頭にも思い浮かぶものであり、またこれに類するアイデアは日本においてほぼ普

もっとみる
「頭をむしり取る男(Man tearing off the head)」についてのレポート[抄訳]

「頭をむしり取る男(Man tearing off the head)」についてのレポート[抄訳]

【はじめに】
 本記事はアメリカのユタ州立総合大学 Utah State Organized university に勤める知人から、私に送られてきたレポートの抄訳(=ダイジェスト版の翻訳)である。
 レポートそのものにも序文がついていたが学術的で長いため、それに代わって私(訳者)による簡単な解説を、ここにまとめておきたいと思う。

 その知人は、ごく最近の欧米の怪奇・心霊体験/都市伝説を研究して

もっとみる
【恐怖譚】ひっくり返る家

【恐怖譚】ひっくり返る家

「俺も当時はヤンチャしてたんで、廃屋なんて、って馬鹿にしきってたんスけど」
 この体験をしてからすっかりマジメになったというAさんは、そう語った。
「本当に、すごい体験をしました……」

 山奥にポツリと建つ一軒屋。平屋建ての、和風建築の屋敷。
 そこに入ると、「とんでもない目に遭う」という噂が地元で広まっていたという。

 ところが。
 その「とんでもない目」というのが、どういう目なのか皆目わか

もっとみる