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読書録

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本棚を見せることは、わたしにとって自己紹介のようなこと
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パラダイムシフト -『闘う操縦士』 ・ 『夜と霧』を読みつつ-

パラダイムシフト -『闘う操縦士』 ・ 『夜と霧』を読みつつ-

 サンテクジュペリの『闘う操縦士』と、かの有名な『夜と霧』とを最近、立て続けに読んだ。



 いまの世界情勢を思いながら、第二次世界大戦について考えている。1939年9月にドイツがポーランドに侵攻し、ヨーロッパで戦争が起きた。それから半年ほど、奇妙な戦争と呼ばれる睨み合いが続き、1940年5月、突如としてドイツがフランスを電撃のように攻めた。

 それが『闘う操縦士』の舞台である。瞬きをする間

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もう半分の痛み ―アレクシエーヴィチを読みながら―

もう半分の痛み ―アレクシエーヴィチを読みながら―


子どもを上手く寝かしつけられなくて、
何も書けない日が続いている。
この記事は、下書きに眠っていた。
去年の夏に書いたらしい。
なんで投稿しなかったかは、
もう覚えていない。
三冊目のアレクシェーヴィチである、
「チェルノブイリの祈り」を
まだ最後まで読みおわっていなかったなあ、
と罪悪感を覚えながら。



 わたしは痛みを知らないらしい。

 十代の頃のこと、毎年夏を過ごしたアメリカの教会

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本の虫12ヵ月 3月

本の虫12ヵ月 3月


↓2月の分

大量消費みたいな、
いまのじぶんの読み方に疑問を感じて、
すこしペースを落としている
(またはさぼっている)。
図書館で借りてきた本を、
期限内に読みきるのは良いことだけど、
こう首狩り族みたいに、
大切に読むべき本を読み飛ばすのは、
じぶんの為にならない。

 
……と思っていたのに、
後半に結構追い上げて、
今月もかなりの数を読んだ。

↓next month

読書録 『安曇野』 臼井吉見 全5巻

読書録 『安曇野』 臼井吉見 全5巻

 『戦争と平和』に匹敵するのではないか、というような膨大な質量の小説である。明治中頃のクリスチャン界、インテリ界、信州の農村から始まって、縦横無尽にあのひとこのひとが現れては、去っていく。ちらと聞き齧ったことのある名前、有名な名前、聞いたこともないような名前……

 『狭き門より入れ』

 という言葉が聖書にある。この小説に出てくる無数の思想家たちは、その狭き門の奥にある真理を、在るものは無意識に

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読書録 「ダロウェイ夫人」 ヴァージニア・ウルフ 土屋政雄訳 

読書録 「ダロウェイ夫人」 ヴァージニア・ウルフ 土屋政雄訳 

 ヴァージニア・ウルフの「ダロウェイ夫人」に挑戦するのは、これで二度目。さいしょはみすず書房から出ているハードカバーのを買ったけれど、難しくって読み終えられなかった。子どもが生まれたあと、本棚の整理をしたときに、こんな本、二度と読む機会はあるまい、と悲観して売ってしまった。

 新しい年のために、わたしがまず手始めに定めた課題図書が、「ダロウェイ夫人」「更級日記」そして英語でマクベスを読むことだっ

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信州マニアの読む堀辰雄

信州マニアの読む堀辰雄


わが心慰めかねつ更級や
姨捨山に照る月を見て
ー古今和歌集ー

 堀辰雄は、信州マニアだと思う。彼の作品の大半が信濃の国を舞台にしているだけでなく、なんだか彼には、信州の事物や雰囲気に憧れてならない、というような、信州マニアの感じがする。

 「菜穂子」には、信州と東京を結ぶ二本の鉄道が幾度となく出てくる。信越本線と中央線である。都築明が追分村に行くときは信越本線、菜穂子が富士見村のサナトリウム

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ただの読書録

ただの読書録

このあいだ買ってきた本と、読み返した本と。

「日々雑記」武田百合子
はじめて読む、泰淳が亡くなってからの、百合子さんの日記。なにか重石がとれたような、あたらしい百合子さん。娘 花ちゃんとの自由な暮らしが新鮮。
富士日記でいちばん鮮やかだったのは、百合子さんが夫婦喧嘩してすぐ山梨まで車を運転するシーンで、まるでサーカスみたいな運転をしてやった!というところ。そして助手席に息をつめて乗っている武田泰

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読書録ふたたび

読書録ふたたび

ふたたび、読んだ本について

「軍港都市・横須賀 軍隊と共生する街」高村聰史

小さい頃、横須賀の三笠教会に通っていた。優しい神父さんがいて、隣はダイエー帝国(我々はそう呼んでいた 休日の渋滞具合も、大きさも、まるでそう呼ぶにふさわしい威厳があった)があり、日曜のごとに、きょうはどこのミサに行く?と聞かれて、よこすか!と答えていた。わたしの町には高貴な別荘があるだけで、駅もモールも高校もなにもない

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わたしをすり抜けていった本たちの記録

わたしをすり抜けていった本たちの記録

海の沈黙 星への歩み ヴェルコール (岩波文庫)

 第二次大戦下のフランスのレジスタンス文学。『海の沈黙』このうつくしい、うつくしい物語に、わたしはシュトルムの『みずうみ』を思いだした。けれどシュトルムには、こんな魂を捻じ切られるような感覚は覚えない。わたしにはここに出てくる善意のナチス将校が、ロシアの兵士たちに重なってみえたから。

 『みずうみ』のように、この物語も破れた恋の物語かもしれない

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女たちの伝記 マリー・アントワネット、片山廣子、パウラ・モーターゾーン=ベッカー

女たちの伝記 マリー・アントワネット、片山廣子、パウラ・モーターゾーン=ベッカー

子どもの頃から、女のひとの出てくる本が好きだった。男ばかりの本は、色が無くってつまらない。そこに女性が出てくるだけで、色彩が溢れでるような気がしていた。

おんなが女の人生を読むというのは、じぶんの人生を考えることでもあると思う。知らない場所の知らないひとの、遠い話では終わらずに、どこかなにかを通じて我が身に思いを馳せるところがある。

だからどうぞ、この三人の女性たちの人生を、イエス・キリストを

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敵を愛すること (会津史観から自由になる)

敵を愛すること (会津史観から自由になる)

いま、明治維新について調べている。会津の血をひくわたしは、奥羽越列藩同盟側の歴史なら色々読んでいたのだが、文久年間の京都の出来事があまり理解出来ていなかった。恨み節にしかならなかったのだ。まずそもそも会津が京都に行ったことが失敗だった、なぜ守護職を受けてしまったのか、慶喜め、長洲め、薩摩め、と。

それをいま尊皇攘夷派の志士の目線から、幕末を調べなおそうとしていて、これはわたしにとって画期的なこと

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