箱男

小説やエッセイ、漫画を描いています。 好きな作家は江戸川乱歩、安部公房、楳図かずお、古…

箱男

小説やエッセイ、漫画を描いています。 好きな作家は江戸川乱歩、安部公房、楳図かずお、古谷実など。

マガジン

記事一覧

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もみじ饅頭自販機

箱男
7時間前
37

代理告白(ゴールデンウィークの思い出)

中学生になると井本くんと一緒に登校するようになった。 毎朝、井本くんが家に迎えにきてくれたが、もともとは田島くんも入れた3人で登校していた。3人ともクラスは別だ…

箱男
5日前
105
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変わり種もみじ饅頭

箱男
7日前
109

月の光(藤崎くんのPHS)

たしかあれは高校最後の日のことだ。先生から臨時ボーナスが配られ、教室はいろめき立った。 ボーナスというのは校友会の出資金のことで、3万円が返還された。 もちろん…

箱男
12日前
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プリンシェイク大人買い

箱男
2週間前
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神龍ーーかぐや姫と願いごとの行方

押入れを整理していると、古い写真が見つかった。幼い私が『西遊記』の孫悟空になりきっている写真だ。 座卓の上に羊の毛皮の敷物をかぶせ、筋斗雲に見立てていた。私はそ…

箱男
2週間前
127

【自己紹介】
黒瀬と申します。広島県出身。大学院修了後、設計事務所に勤務。第20回ボイルドエッグズ新人賞を受賞した『別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや』(早川書房刊)でデビュー。

noteではエモい青春エッセイを書いています。よろしくお願いします。(毎週木曜・土曜更新)

箱男
3週間前
130

十七歳の地図ーー模範的新聞少年のたそがれ

中上健次に『十九歳の地図』という小説がある。主人公は19歳の予備校生だが、とっくに大学進学をあきらめており、ほとんど予備校にも通っていない。 主人公は新聞少年でも…

箱男
3週間前
149

力水神と秘密の修行(私がコーラを飲めない理由)

犬の散歩をしていると、久しぶりに自販機で「力水」を見つけた。 「力水」とはキリンビバレッジから発売されている炭酸飲料であり、1994年の発売当時、頭がよくなる成分と…

箱男
4週間前
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ええかっこしい(伯父さんの思い出)

父とトラックで大型ごみを業者のところに持ちこんだ。 荷おろしを手伝っていると、業者のお兄さんが「これ、ブランド家具ですよね。捨てるんならいただいていいですか?」…

箱男
1か月前
177

マイ・スイート・ホーム(公園の桜と引っ越し代の行方)

大学生のころの話だ。塾講師のアルバイトをはじめて実入りがよくなったので、築20年のアパートから新築予定のマンションに引っ越すことにした。 家賃は4万円台から6万円…

箱男
1か月前
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タイムトラベルーーウド鈴木とスペースワールドのないスペースワールド駅

押し入れの整理をしていると、ふと段ボールのなかの1冊のアルバムが目に入る。パラパラめくってみると、小中学校のころのアルバムだった。すえた香りとともにたちまち懐か…

箱男
1か月前
139

一人暮らしデビュー(洗濯物は自動的に畳まれて戻ってこない)

私がはじめてひとり暮らしをした街は所沢だった。大学のキャンパスがあったからで、進学とともに引っ越した。 部屋は家賃4万5000円のアパートの1階。間取りは1Kで、ロ…

箱男
1か月前
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my graduation(カテキョのお姉さん)

「え? いま中学3年じゃろ。っていうことは、尾崎の『卒業』も知らん世代なんじゃ。カワイソ」と言ってきたのは、当時、家庭教師だった大学生の男である。 その年のお正…

箱男
1か月前
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「旅館」ーーおばあちゃんと真っ白なシーツ

家の近所に小学校から一緒だった女の子がいた。教室でからかうと、「うっさいねえ。あんたに関係ないでしょ」と叩かれ、いつも夫婦漫才のような掛け合いをしていた。 中学…

箱男
1か月前
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ミュージック・アワー(フォークダンスの思い出)

高校生のときの話。体育の授業が終わって教室の席につくと、私はふり返り、 「ええのう、お前は1番上で。俺なんか小学校のときから1番下の土台で」 ななめうしろに座る…

箱男
1か月前
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代理告白(ゴールデンウィークの思い出)

代理告白(ゴールデンウィークの思い出)

中学生になると井本くんと一緒に登校するようになった。
毎朝、井本くんが家に迎えにきてくれたが、もともとは田島くんも入れた3人で登校していた。3人ともクラスは別だった。

井本くんと一緒に田島くんのマンションに行くと、田島くんはいつも準備ができておらず待たされた。
井本くんとは小学校のころから仲がよかったが、田島くんとは家が近所というだけだったので、しだいに井本くんと2人で登校するようになった。

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月の光(藤崎くんのPHS)

月の光(藤崎くんのPHS)

たしかあれは高校最後の日のことだ。先生から臨時ボーナスが配られ、教室はいろめき立った。
ボーナスというのは校友会の出資金のことで、3万円が返還された。

もちろん親に返すのが筋だろうが、3年前の入学のときに出資したことなど覚えているとは思えない。お小遣いとしてもらっておこう。考えることはみんな同じだった。

ホームルームのあと、仲間うちで話し合った結果、3万円で携帯電話を買うことにした。当時私たち

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神龍ーーかぐや姫と願いごとの行方

神龍ーーかぐや姫と願いごとの行方

押入れを整理していると、古い写真が見つかった。幼い私が『西遊記』の孫悟空になりきっている写真だ。

座卓の上に羊の毛皮の敷物をかぶせ、筋斗雲に見立てていた。私はその上に立ち、如意棒がわりの姉のバトンを握っていた。
赤いトレーナーを着て、頭に金の折り紙でつくった輪っかをつけている。壁にはカレンダーの裏にクレヨンで描いた牛魔王の絵が貼ってあった。

たしかこの写真は、『ドラえもん のび太のパラレル西遊

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【自己紹介】
黒瀬と申します。広島県出身。大学院修了後、設計事務所に勤務。第20回ボイルドエッグズ新人賞を受賞した『別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや』(早川書房刊)でデビュー。

noteではエモい青春エッセイを書いています。よろしくお願いします。(毎週木曜・土曜更新)

十七歳の地図ーー模範的新聞少年のたそがれ

十七歳の地図ーー模範的新聞少年のたそがれ

中上健次に『十九歳の地図』という小説がある。主人公は19歳の予備校生だが、とっくに大学進学をあきらめており、ほとんど予備校にも通っていない。

主人公は新聞少年でもあり、新聞を走って配って生計を立てている。
配達員の寮で暮らしており、日中そとの光の入らない週刊誌や食べかすの散らかった部屋で、寝汗と精液で湿気たふとんで眠っている。

少年は物理のノートに配達地区の地図を描いて、贅沢な家で温かいふとん

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力水神と秘密の修行(私がコーラを飲めない理由)

力水神と秘密の修行(私がコーラを飲めない理由)

犬の散歩をしていると、久しぶりに自販機で「力水」を見つけた。

「力水」とはキリンビバレッジから発売されている炭酸飲料であり、1994年の発売当時、頭がよくなる成分として注目されていたDHAを配合したことで話題を集めた。

「力水」は毎年のように名前が変わり、95年に「超力水」、96年に「最強力水」へと進化をとげると、98年の再々リニューアルにむけて、前年に新しい名前を募集していた。

当時、中学

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ええかっこしい(伯父さんの思い出)

ええかっこしい(伯父さんの思い出)

父とトラックで大型ごみを業者のところに持ちこんだ。
荷おろしを手伝っていると、業者のお兄さんが「これ、ブランド家具ですよね。捨てるんならいただいていいですか?」と訊いてきた。

伯父の遺品の書き物机のことだった。私が長らく使っていたが、大きな書斎机を買ったので、置き場所に困って処分することにしたものだ。

「ぜひもらってください」と二つ返事で答えたが、机は運びやすいよう一部分解しており、ねじをすで

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マイ・スイート・ホーム(公園の桜と引っ越し代の行方)

マイ・スイート・ホーム(公園の桜と引っ越し代の行方)

大学生のころの話だ。塾講師のアルバイトをはじめて実入りがよくなったので、築20年のアパートから新築予定のマンションに引っ越すことにした。
家賃は4万円台から6万円台へと跳ねあがったが、オートロック付きでバス・トイレも別だった。

入居の契約をすませ、あとは建物の完成を待つばかりというときに、不動産屋から電話がかかってきた。4月に完成予定だったが、工事の遅れで完成が1カ月ほど延びるという。

そんな

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タイムトラベルーーウド鈴木とスペースワールドのないスペースワールド駅

タイムトラベルーーウド鈴木とスペースワールドのないスペースワールド駅

押し入れの整理をしていると、ふと段ボールのなかの1冊のアルバムが目に入る。パラパラめくってみると、小中学校のころのアルバムだった。すえた香りとともにたちまち懐かしさに引きこまれた。

スペースシャトルの前で撮った写真が目にとまる。小学校の修学旅行で北九州のスペースワールドに行ったときの写真だった。

スペースワールドは宇宙をテーマにしたテーマパークで、ディスカバリー号の実物大のモデルが飾ってあった

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一人暮らしデビュー(洗濯物は自動的に畳まれて戻ってこない)

一人暮らしデビュー(洗濯物は自動的に畳まれて戻ってこない)

私がはじめてひとり暮らしをした街は所沢だった。大学のキャンパスがあったからで、進学とともに引っ越した。

部屋は家賃4万5000円のアパートの1階。間取りは1Kで、ロフトがあるのを気に入って選んだ。築10年だが、リフォームしたばかりできれいだった。

3月下旬、私は姉と一緒に広島から出てきた。姉は引っ越しの手伝いで来てくれた。

からっぽの部屋につぎつぎと段ボールが運ばれてくる。私が荷物を受け取っ

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my graduation(カテキョのお姉さん)

my graduation(カテキョのお姉さん)

「え? いま中学3年じゃろ。っていうことは、尾崎の『卒業』も知らん世代なんじゃ。カワイソ」と言ってきたのは、当時、家庭教師だった大学生の男である。

その年のお正月のSMAPドラマ『僕が僕であるために』や、小学6年のころの野島ドラマの主題歌『OH MY LITTLE GIRL』で尾崎豊は知っていたが、それ以外の曲は知らなかった。

のちに高校生になってからいっとき尾崎にハマったが、好きだったのは『

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「旅館」ーーおばあちゃんと真っ白なシーツ

「旅館」ーーおばあちゃんと真っ白なシーツ

家の近所に小学校から一緒だった女の子がいた。教室でからかうと、「うっさいねえ。あんたに関係ないでしょ」と叩かれ、いつも夫婦漫才のような掛け合いをしていた。

中学生になったころのある日、学校から帰っていると、彼女がラブホテルから出てきた。彼女の家はラブホテルを経営していた。

「お前、ラブホテルでなにしよったん?」とからかうと、彼女は傷ついたような顔で横を通りすぎた。
いつもと違うリアクションに私

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ミュージック・アワー(フォークダンスの思い出)

ミュージック・アワー(フォークダンスの思い出)

高校生のときの話。体育の授業が終わって教室の席につくと、私はふり返り、
「ええのう、お前は1番上で。俺なんか小学校のときから1番下の土台で」

ななめうしろに座る友人に膝をさすりながら言った。
体育祭のピラミッドの練習をしたばかりだった。小柄な友人は「バカ、1番上に立って手ひろげるのも怖いんで」と言い返す。

「フォークダンスのステップ覚えた? あたし、ぜんぜん覚えられん」

友人のとなりの席の堀

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