さや

絵を描いています www.instagram.com/sayakaisozumi/

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記事一覧

やさしくなる

母がどんどん優しくなっていく。 わたしはそれを、日々かなしく見まもるしかない。 やさしい人には、優しく接する。ずっと怒ってばかりだったわたしは、苛立つことすらほと…

さや
4日前
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展覧会のお知らせ

いつも読んでくださりありがとうございます。 この頃はなかなか更新ができていませんが、つねにnoteのことは心にあります。 まもなく1年1ヶ月ぶりの個展です。 今回は初…

さや
2か月前
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庭のこと

庭師さんが来てくれた。 今年はもう決まっちゃってて無理ですね、来年、と言っていたのに、キャンセルでも入ったものか、2023年もあと3日という日に来てくれた。 庭の手入…

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4か月前
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揺れるな、ゆれるな、心。 ふとしたことで感情がすぐに揺さぶられてしまう。 なぜ私にはこうも自由がないのか、と、 人との何気ない会話をきっかけに一度そう思ってしまう…

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5か月前
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11月22日

疲れすぎて、何か喋っていないとだめで、わたしは母を責め立て続ける。あらゆる方向から責める。なぜ私はこう口ばかりたつようになったのだろう。 父のベッドサイドに立っ…

さや
5か月前
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10月20日ごろ

ヘルパーさんの手を借りないと、父をベッドからおろすことはできない。ヘルパーさんは夕刻に帰るから、それ以降の夕食はテーブルではなく、ベッドサイドに小さな机を置き、…

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5か月前
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10月7日

これはビーグルか?いやダルメシアン。 101匹ワンちゃんのあの犬の置き物、それもかなり精悍な風貌のそれ二頭が、仮面をつけてポーズを決めている。例の黒く先端の尖った帽…

さや
6か月前
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9月8日

何から書けばいいのだろう。 いま、私は医師の話を聞きに病院へ向かうところだ。19日前の日曜日に、母は都内の大学病院に入院した。前々日、否、そのさらに前の日から、母…

さや
6か月前
13

たしかまだ梅雨明け前だが、夕空には夏の終わりのような雲が浮かんでいる。こまごまとした鱗雲のような、澄んだ水底でさっと魚が砂を撒き立てた一瞬のような、ふわふわとし…

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10か月前
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背広

歯医者に行かなくちゃいけないんだ、と少し不安そうな様子に、大丈夫、いっしょに行くよ、と言ってわたしは父と出かける。新幹線のような、列車で行く。 父は背広姿で、ま…

さや
1年前
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細い指

洗面所と脱衣室が工事中だから、洗濯機をガレージに置いて洗濯している。 工事業者からそれを提案された時には、そんなことできる訳ないと思っていたのに、外に置いた洗濯…

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1年前
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展覧会のお知らせ

いつも読んでくださりありがとうございます。 空気の揺らぎや潤いの中に、微かな春の兆しを感じられるようになってきました。  東京、銀座で個展をします。 月光荘という…

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1年前
22

野うさぎ髪

髪の色が日に日に明るくなっていく。 2週間ぶりにお会いした方に、あら、髪色を変えたんですねと驚かれたけれど、わたしは何もしてはいないのだ。髪を染めたり、脱色したり…

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1年前
31

りんごと修道士

自分は今、人生のどのあたりにいるのだろうと考える。こんな考え自体が、今はまだ中間地点だという前提に基づくもので、そもそも無意味であるかも知れない。今はまだ給水ポ…

さや
1年前
40

火星の人

火星の人 朝の寒さと呼応するように庭の満天星が色づいていく。 織部色の葉は柳色になり、蒲公英色から鬱金色となって、徐々に朱みを帯びていく。発光するようなイエロー…

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1年前
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ピアノ

最寄駅にストリートピアノが置かれてしばらくになる。 ほの暗い地下鉄駅の構内に、象牙色のグランドピアノは突如として現れた。それがその場所に似つかわしいかどうかなど…

さや
1年前
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やさしくなる

やさしくなる

母がどんどん優しくなっていく。
わたしはそれを、日々かなしく見まもるしかない。
やさしい人には、優しく接する。ずっと怒ってばかりだったわたしは、苛立つことすらほとんどなくなった。

11年ぶりに、大阪の地を踏んだ。
あれ以来だ。もう来ることもないと思っていた訳でもないし、すぐまた来るだろうとも思ってはいなかった。そんなことを考える隙間もないままに、11年は過ぎた。あの時と同じように、先生と呼ばれる

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展覧会のお知らせ

展覧会のお知らせ

いつも読んでくださりありがとうございます。
この頃はなかなか更新ができていませんが、つねにnoteのことは心にあります。

まもなく1年1ヶ月ぶりの個展です。
今回は初めて銀座・京橋を離れ、早稲田にある煉瓦造りの建物、スコットホールのギャラリーで展示をします。
こどもの頃から親く仰ぎ見ていた建物に、自分の絵を並べて何が見えてくるのか、半ばひとごとのように想像しています。

日々は心波立つことが多く

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庭のこと

庭のこと

庭師さんが来てくれた。
今年はもう決まっちゃってて無理ですね、来年、と言っていたのに、キャンセルでも入ったものか、2023年もあと3日という日に来てくれた。
庭の手入れに来ていただくのは3度目だ。この方にお願いしてから、庭が広くなった。家の歴史とともに半世紀近くを経た、小さな庭。
なにしろきれいになる。木々は姿を整えて、落ち葉や雑草の降り積もった地面は履き清められ、どちらも嬉しそうに見える。その状

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波

揺れるな、ゆれるな、心。
ふとしたことで感情がすぐに揺さぶられてしまう。
なぜ私にはこうも自由がないのか、と、
人との何気ない会話をきっかけに一度そう思ってしまうともう駄目だ。自由がない?ならば今のわたしはどうなのだ、自由だからこそこうして一人でいる。今日の仕事は終わった。まだ親のご飯の仕度をするには間がある。であるのに、一度胸を突いた悲しみは深く疼いて、わたしは涙ぐまんばかりになっている。

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11月22日

11月22日

疲れすぎて、何か喋っていないとだめで、わたしは母を責め立て続ける。あらゆる方向から責める。なぜ私はこう口ばかりたつようになったのだろう。
父のベッドサイドに立ったまま、父の足の先に佇む母に向かって、私は半ば叫ぶように言う。

もう無理だ、お父さんをプロに託したい
私身体中が痛いんだよ
精神も壊れてしまうよ

と、父が
そうか、それはいかんな
と言った。

父は、もうこの頃はほとんど喋らない。時折、

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10月20日ごろ

10月20日ごろ

ヘルパーさんの手を借りないと、父をベッドからおろすことはできない。ヘルパーさんは夕刻に帰るから、それ以降の夕食はテーブルではなく、ベッドサイドに小さな机を置き、そこにお膳を据えて父に食べさせる。
私は椅子に腰掛けて、父はベッドを起こして、私たちは斜めに対峙しながら食事をする。
母が突然入院して父と二人暮らしとなった期間も、それは同じだった。
夜、父はお膳を挟んで私と向かい合いながら、時々わたしの背

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10月7日

10月7日

これはビーグルか?いやダルメシアン。
101匹ワンちゃんのあの犬の置き物、それもかなり精悍な風貌のそれ二頭が、仮面をつけてポーズを決めている。例の黒く先端の尖った帽子を被って、念入りなことにはオレンジ色のマントを着せられている。
ここは父のいる老人保健施設だ。今わたしは父の出迎えにここにやってきた。母が退院してきて24日目の今日、父も家に戻る。

初めてここにきた時には、夏祭りの飾り付けがしてあっ

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9月8日

9月8日

何から書けばいいのだろう。
いま、私は医師の話を聞きに病院へ向かうところだ。19日前の日曜日に、母は都内の大学病院に入院した。前々日、否、そのさらに前の日から、母の様子はおかしかった。ヘルパーさんに同行してもらって父を別の医大附属病院へ連れていき、暑さの中の帰り道、最寄り駅に着くと母は歩けないと言い出したのだ。
父を伴っての外出は、(いや私やヘルパーさんを伴っての父の外出、だが)いつも大変なストレ

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雲

たしかまだ梅雨明け前だが、夕空には夏の終わりのような雲が浮かんでいる。こまごまとした鱗雲のような、澄んだ水底でさっと魚が砂を撒き立てた一瞬のような、ふわふわとした雲だ。
わたしは畳んだ日傘をゆらゆらと振りながら、その空を眺めて駅までの道を歩く。
この雲と類似する自然現象は何か。

大学のとき、自然科学概論という授業をとっていた。先生は、うつり気な美大生たちを授業に集中させるべく、ややこしい解説はせ

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背広

背広

歯医者に行かなくちゃいけないんだ、と少し不安そうな様子に、大丈夫、いっしょに行くよ、と言ってわたしは父と出かける。新幹線のような、列車で行く。
父は背広姿で、まだそれが似合う年頃だ。背広というのは働く人の衣装だから、リタイアして時の経つような人にはもう似合わない。
わたしは父が40代の時に生まれた。わたしにとっての父は常に壮年というような年頃で、贔屓目でもあろうがわりと若く見える人ではあったけれど

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細い指

細い指

洗面所と脱衣室が工事中だから、洗濯機をガレージに置いて洗濯している。
工事業者からそれを提案された時には、そんなことできる訳ないと思っていたのに、外に置いた洗濯機を使うのは、なんだかそういう国の人になったみたいで思いの外愉しい。ご近所の方は、玄関からガレージへ洗濯物を運ぶわたしや、白いホースの伸びたガレージスペースを不審に思っているのか知ら。いや、きっとたいして気にも留めていないだろう。今朝も洗濯

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展覧会のお知らせ

展覧会のお知らせ

いつも読んでくださりありがとうございます。
空気の揺らぎや潤いの中に、微かな春の兆しを感じられるようになってきました。 

東京、銀座で個展をします。
月光荘という画材店の左手から、階段を降りたところがギャラリーです。

今回はこれまで以上に、noteに載せてきた文章と、絵とが強くリンクしているのを感じながら展示の準備をしています。

観に来ていただけましたら幸せです。
お目にかかれますことを、楽

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野うさぎ髪

野うさぎ髪

髪の色が日に日に明るくなっていく。
2週間ぶりにお会いした方に、あら、髪色を変えたんですねと驚かれたけれど、わたしは何もしてはいないのだ。髪を染めたり、脱色したり、マニキュアしたり、はしていない。むしろこれ以上の褪色をくいとどめようと、カラートリートメントなるものをせっせと使っている。これは髪がアッシュカラー、言うなれば灰色になるというものだけれど、私の髪は落ち着いたグレーなどにはならずに、どんど

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りんごと修道士

りんごと修道士

自分は今、人生のどのあたりにいるのだろうと考える。こんな考え自体が、今はまだ中間地点だという前提に基づくもので、そもそも無意味であるかも知れない。今はまだ給水ポイント手前の上り坂に差し掛かったところで、まだまだ先がある。だから今はこんなスピードでしか走れなくても大丈夫。そう自分に思わせるためにそんなことを考える。
本当にそう?と問いかける声も、窓の向こうから聞こえてくる。

昨年末、りんごを沢山送

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火星の人

火星の人

火星の人

朝の寒さと呼応するように庭の満天星が色づいていく。
織部色の葉は柳色になり、蒲公英色から鬱金色となって、徐々に朱みを帯びていく。発光するようなイエローにバーミリオンが少しずつ加わり、やがてスカーレットになりローズマダーになる。
植木屋さんを頼むタイミングを間違えたせいか、今年は千両に全く実がつかないから、満天星の橙色はよけいに眩しく暖かい。

火星の人、という本を読んでいる。
ひとり火

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ピアノ

ピアノ

最寄駅にストリートピアノが置かれてしばらくになる。
ほの暗い地下鉄駅の構内に、象牙色のグランドピアノは突如として現れた。それがその場所に似つかわしいかどうかなどを考えさせる間も与えないまま、それは生の音色を深く響かせて、心を揺さぶりはじめた。

朝も夕も、ほぼ途絶えることなくピアノを弾く人がいる。そのいずれもが玄人はだしの演奏を聞かせ、こんなにもピアノを弾けるひとがこの町にいたのかと驚かされる。足

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