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記事一覧

【投書】「偉人の教訓 現実に生かす」(2022-09-24山形新聞)

【投書】「偉人の教訓 現実に生かす」(2022-09-24山形新聞)

【全文】
 世を去った偉人に対し、時の政府がその功績をたたえて国葬を打診したが、遺族がそれを辞退した例がある。その偉人とは、医療衛生の改革者、フローレンス・ナイチンゲール。今から百年以上前のイギリスでのことだ。

 昔の伝記では「負傷兵の看護に尽くした聖者」と描かれていたようだが、正確には、当時の劣悪な野戦病院で命を落とす兵士の死因の統計データを取り、感染症死が多いことを明らかにして軍に衛生状態を

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【投書】「板垣退助に国を導く志」(2022-07-29山形新聞)

【投書】「板垣退助に国を導く志」(2022-07-29山形新聞)

【原文】
 遊説中に襲撃された政治家といえば、明治の偉人・板垣退助が思い起こされる。「板垣死すとも自由は死せず」の名言で知られる(実際は一命を取り留めた)。

 土佐藩(現在の高知県)出身の板垣退助は、戊辰戦争で幕府軍や東北諸藩と戦って手柄を挙げ、やがて新政府の重要人物となる。しかしその後の権力争いに敗れて地元の土佐に帰り、そこで巻き返しのため力を養うことになる。

 当時、武力で新政府を攻撃する

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【寄稿】「ワーケーションで地方の教育支援を」(2022-06-20河北新報)

【寄稿】「ワーケーションで地方の教育支援を」(2022-06-20河北新報)

【原文】
 ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を合わせた「ワーケーション」の概念が登場して久しい。それを実施したビジネスパーソンや企業の事例なども報じられているが、社会に普及したとは言えず、ワーケーション人口はごく少数にとどまる。また、多くの地域がこれによる滞在客を呼び込もうと狙っているが、その滞在地として選ばれるのは沖縄、南紀白浜、伊豆箱根などの有名リゾート地のみ、というのが現実ではないだろう

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【投書】「持続可能なラーメン目標」(2022-05-06 山形新聞)

【投書】「持続可能なラーメン目標」(2022-05-06 山形新聞)

【原文】
 先日、ラーメンの年間消費額のランキングでトップを保ってきた山形市が新潟市に抜かれたというニュースが県内を駆け巡った。首位奪還に燃える業界人や愛好家も多いことだろう。

 だが、山形県は全国屈指のラーメン県であるとともに、塩分取りすぎの県でもある。県民の塩分摂取量は国の基準を上回っており、医療界や行政は減塩を呼びかけている。高血圧とそれにより起こりうる脳卒中の予防のためだ。

 ラーメン

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【投書】「駅舎をお店にできないか?」(2022-03-26 山形新聞)

【投書】「駅舎をお店にできないか?」(2022-03-26 山形新聞)

【全文】
 このご時世、テレビの旅番組は遠方への観光気分を味わわせてくれるありがたい存在だ。中でも、各地のローカル線をたどる鉄道の旅番組をよく見る。

 ある時取り上げられた北海道の小さな駅は、かつて駅員の配置がなくなり無人になろうとしたとき、それを寂しく思った近所の人が駅舎に喫茶店を開いて今に至るという。

 ふと身近な駅を思えば、私がお世話になってきた東根駅も、昔は駅員のいる駅で、事務室が備え

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【寄稿】「民主導で『もう一つの成人式』を」(2021-08-19 日本経済新聞)

【寄稿】「民主導で『もう一つの成人式』を」(2021-08-19 日本経済新聞)

【原文】

官民共同チーム「匠」 山本泰弘

 私の住む山形市は、今年1月に予定されていた成人式を、新型コロナの影響により延期して5月の連休に実施した。県外在住者はPCR検査で陰性であれば参加できるはずだったが、市は直前に、県外在住者の参加を禁じた。市HPで公開されている市への意見には、「とても悲しい」、「ひどすぎる」、「なぜ再延期しないのか」といった悲痛な声が数多くある。

 各地の自治体の中に

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【投書】身勝手な攻撃が「政治」か(2021年11月4日 山形新聞)

【投書】身勝手な攻撃が「政治」か(2021年11月4日 山形新聞)

【全文】
 選挙期間前のこと。ある政党が、モンテディオ山形の試合会場近くの公道で街頭活動をしていたことを知った。普段政治に縁遠い人にアプローチする取り組みとして、評価すべきことだと思う。
 しかし、私がそれを知ったのは、その行動を「チームを政治利用している」と曲解して攻撃するツイッターの投稿によってであった。その投稿は一定数拡散されており、私の知人もその投稿に影響され、その政党がルール違反をしてい

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【投書】「休校策に見る自治体の心」(2021-06-23 山形新聞)

【投書】「休校策に見る自治体の心」(2021-06-23 山形新聞)

 昨年春の安倍政権による「一斉休校ショック」から一年余りが経った。
 大多数の自治体が無理を押して国の要請どおりに休校した一方で、茨城県つくば市をはじめとした一部自治体は、子どもたちと家庭の実情に基づき、児童・生徒の学校での受け入れを続け、希望に応じ給食を提供するなどの策を講じた。この差はなぜ生じたのか。改めて考えたい。

 つくば市長は、40代で子育て中の父親である。加えてつくば市は、宅地開発と

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【寄稿】「成人式を人材獲得のチャンスに」(2020-05-13 河北新報)

【寄稿】「成人式を人材獲得のチャンスに」(2020-05-13 河北新報)

 地方の企業は人材難である。
 山形県の場合、高校卒業者の約7割が県外に進学する。彼らは多くの場合、進学先の大学等で大手就活サイト運営企業による「就活セミナー」を受け、会員登録し、そこから続々と供給される情報に基づいて就活をスタートする。その情報の発信源は多大な出稿費を払える巨大企業が中心であり、地方出身の若者たちは自ずと大都市への就職へと進むこととなる。

 人材難という地域経済の死活的課題には

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学校は誰のものか? ―生徒が主役の新設校を―

学校は誰のものか? ―生徒が主役の新設校を―

〔※著者註:2016年執筆の記事です。〕
 山形県初の中高一貫校として期待を集める東桜学館。輝かしいイメージの裏で、入学予定の児童とその保護者らの間には懸念が生じているようだ。入学説明会において、昭和の管理教育を想起させる厳格な方針が打ち出されたというのだ。児童からの独自の部活を作りたいという希望も拒まれたと聞く。
 確かに政策決定者の立場からすれば、万策尽くしてこぎ着けた開校であるからには高い学

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空席の多い演奏会

空席の多い演奏会

 街の市民ホールや公民館などでは、しばしば学校部活動や市民サークルによる各種のコンサートが開かれている。吹奏楽、管弦楽、ピアノ……私はよく足を運ぶのだが、気になるのは空席の多さだ。アマチュアとして上々の演奏で、入場料は無料かたいへんお手頃なのにもかかわらず客席にたいへん余裕があるのは、もったいない気持ちになる。

 さて、昨今の世の中では「文化的資本」というキーワードが認識されるようになった。この

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