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MyTreasureBox

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私の宝箱。共感するって思ったnoteのアーティクル達、勝手にまとめさせて頂きます。迷惑だったら言ってね。 週に2、3個くらい発見したいなって思ってます。なお、もっと好きだと思った… もっと読む
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#小説

【小説】 たった一人で泣いていた 【ショートショート】

【小説】 たった一人で泣いていた 【ショートショート】

 32型の液晶パネルが映す平穏な暮らし。食卓を囲む家族の会話。学資保険とリスクマネジメントされた資産形成。快くすべてを受け入れてくれる隣人。優しさを欠かすことのない母親。暖かく理解のある父親。月に二回の家族ドライブ。見栄を抑えた新車のアウディ。スマートウォッチに委ねる心拍数。データ化された健康。朝に響くスムージーを作る音。
 そんなものが誰にでも、当たり前に手に入れられる世の中。
 隔たりもなく、

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【鳥吹雪】

【鳥吹雪】

 わたしの町には鳥が降る。木に留まる雀が降る日もあれば小屋の鶏が降ることもある。もちろん季節に渡る異国の鳥が降る日もある。

 鳥たちは丸い目をして地べたに降り落ちる。それは生きている鳥で、落ちてくると言うよりも降ってくる。降って地にしばし横たわり目を開けたまま数秒を過ごす。近くを誰かが歩く音、乾いたバイクのエンジン音、時に雷の音で目を開けたまま目を覚まして再びそれぞれの好む場所に帰っていく。

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線と色彩論争とは|プッサンvsルーベンス、アングルvsドラクロワの話

線と色彩論争とは|プッサンvsルーベンス、アングルvsドラクロワの話

昨日、友だちの友だちを紹介してもらって、民俗学でいう「境界」についてのお話を伺った。いや、これがめちゃんこおもろおもろ祭りだった。精神的にはもうハッピ着て太鼓打ちまくってた。どんどこどんどん。

「あちらとこちらの境目」って、あらためて認識すると、すごい。白い紙に黒い線を一本すーっと引くと、あちら側とこちら側に分かれる。あの世とこの世とか、男と女とか。そんな区分けが生まれる。区分けがはっきりしてい

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チェーホフ「犬を連れた奥さん」(再録)

チェーホフ「犬を連れた奥さん」(再録)

家にあったチェーホフの全集の中で、中学生の時に最初に読んだのがこれ。
もっと桜の園とかを先に読めばよかったのかもしれないが、短編でサクサク読めるのが良かった。

奥さんが、まだ若い時にそれが当たり前~の流れで結婚した夫と、今頃になって距離感が微妙だなと感じている。
彼女は感じやすくて繊細な人で、夫はそういう所を全く理解しない。
心の隙間に、男は当然のように付け込む。

男の方の嫁さんも事務的で冷た

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生きることが仕事だから

生きることが仕事だから

先日のGW、この状況下ではあったが少しだけ外に出かけた。

相も変わらず体調が悪い日々が続いていた。いちばん過ごしやすい季節なのに、家にこもって申し訳程度の掃除や洗濯をし、昼はめしと味噌汁、真空パックされた煮魚といったものをもそもそと食べる。その間も二十分のトイレや服薬をしながら。

夕方、相方が仕事から帰ってくると、やはり昼と似たようなおかずで夕めしを、相方の仕事の愚痴に頭半分だけ付き合いながら

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水族館で鬼ごっこ(1)

水族館で鬼ごっこ(1)

 電話をかけるとき、わたしはいつも死んでいる。耳の穴に響くコール音が、そのときのすべてでなければならなくて、集中してるんだか、ぼんやりしてるんだかも分からなくて、頭はくらくら、体のほうはまたマイペースで、水槽に肩でもたれて、指揮でもするように人さし指で三角を描いている。ああ、あ、あ、あ、左の首筋が痛い。首筋から、肩にかけて、だるくて痛くて、ぱんぱんにはっていて、あいかわらず、なんて言えるくらいにお

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ことりとねこと(喧嘩の歌)

ことりとねこと(喧嘩の歌)

小鳥が7匹おりました
ぱっぽーぱっぽーぱっぽっぽー

子猫がことりをつかまえに
にゃーんにゃーんにゃんにゃんにゃん

あっという間ににげました
ばっさばっさのばっさっさ

そのうち三びきつかまって
一生懸命逃げました

ははどりおこってなきました
こけこっこけこっこけこっこっ
·
めんどりこねこをおいまわし
こねこはおびえて母ねこに

母ねこめんどりひっかいて
フーッフーッシャーシャーシャー

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宇宙人襲来の日はベランダで君と遊ぶ

宇宙人襲来の日はベランダで君と遊ぶ

小学生の時に、訳もわからず学校が休みになったことがあった。

大抵は学校の創立記念日だったり、振替休日だったりしたが、僕が聞き逃しただけで先生も言ってたよと友だちに言われた。でものほほんとした僕としては、休みの前にそうやって教えてくれる友人たちがありがたかったから、すぐにまた真面目に話を聞くのを忘れてしまった。

しかし社会人になって早数年、散りかけの桜を眺めながら帰路についていた。時刻は午後三時

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文字が消えた世界 (音楽つきショートショート)

文字が消えた世界 (音楽つきショートショート)

このお話のために作ったピアノ曲の再生ボタンを押してからどうぞ。5分以内で読めます。(サウンドクラウドに飛ばない方のボタンにて♡ ヘッドホン🎧推奨)

彼からのメッセージを読もうと思ったら、画面が文字化けしていた。

……じゃなくて、漢字だけなのかも。その他の文字が歪んでいて、よく読めない。

「前  会……今 」?

慌てて他のメールやインターネットも見てみたら、漢字と数字とアルファベットばか

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女子会なんて抜け出して、給湯室でキスがしたい

女子会なんて抜け出して、給湯室でキスがしたい

男社会の周縁で夜な夜な繰り広げられる無法者たちの宴、いわく「女子会」ですらゆきずりの愛は肩身がせまい。



「A子、自分のことは大事にしなよ。」

「…わかってるよ。」

ガラスの天井を見上げながら入社後平行線の報酬を噛み締めて若さを消費するわたしたちの味方は白いサングリア。

社会の中心に居てはおれないわたしたちだからわざわざこんなところに集ったのに、だからこそなのか中心のはしっこにくらいに

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一瞬だけの時間旅行 (音楽つきショートショート)

一瞬だけの時間旅行 (音楽つきショートショート)

このお話のために作ったピアノ曲の再生ボタンを押してからどうぞ。2分ほどで読めます。(サウンドクラウドに飛ばない方のボタンにて♡ ヘッドホン🎧推奨)

うたた寝をしていたら、好きなひとの夢を見た。

もう真夜中。紅茶でも淹れよう。わたしはいつもの魔法瓶を温めるために、シュンシュン沸いたお湯を注いで蓋をした。

今夜はお湯を入れすぎたのだろうか。しばらく置いて蓋をねじったら、蒸気が爆発して水滴が飛ん

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積み上げた情熱の重みで全身麻痺の様相 ¥100

積み上げた情熱の重みで全身麻痺の様相 ¥100

自作の自由律俳句を表題に短編を書く。
五作目。約5400字。

「積み上げた情熱の重みで全身麻痺の様相」

セックスなんて大嫌い。
なんてことを考えるのはセックスをしている時だけで、つまり今は事の最中だ。ここは都内のラブホテルの一室で、私は硬くて変な臭いのするベッドの上で男に全身を揺すぶられている。ベッドはぎしぎしと耳触りな音をたて、男の動きは段々激しくなっていく。私はこの苦痛な時間が早く終わるこ

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