知の学びを創造する者

頭の中を整理する創作の場としてnoteを始めました。 頭に浮かんだこと、短編小説(作…

知の学びを創造する者

頭の中を整理する創作の場としてnoteを始めました。 頭に浮かんだこと、短編小説(作品はフィクションです)などを書きたいと思います。

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【超短編小説】 消しゴム

俺は急いでいた。アカネが転校する。 今日は引っ越しの当日だった。 俺は坂道を走り、家の前に辿り着いた。 引っ越しのトラックが停まっている。 「ハアハア、間に合っ…

【ポエム】 だから、ここにいる

できないことだってある。 理解できることばかりで世界を見て、 顔が見えなければ何でも言える。 そんな世界で生きている。 でも、それは一部にしか過ぎない。 まだ知…

【超短編小説】 饅頭を齧る女

これは旅先で会った女の話だ。 その女は右手に饅頭を持ち、こちらを見ながら饅頭を一口齧った。 まるまるとした白い饅頭であったが、小さい口を器用に動かし、運んでいく…

【超短編小説】 夜中物語

夜の静けさが好きだ。 真っ暗で何の音も聞こえない。 でも、だんだんと空は青になっていく。 わたしたちは笑った。 声はガラガラで、 すぐにでも眠りたい。 「明日、…

【超短編小説】 形成

人間はこれまで生きてきた中で経験したことを元に形成されていく。 過去にしがみつき、そして、また新たなものを取り入れ、形成していく。 そう、形成なくして生きていけ…

【ポエム】 静かに消える。

消えた。 音も立てずに。 そこにあったものは、すぐに消える。 存在したのかさえ分からず。 静かで、 夢のように見えて、 白い紙には10行ぐらいの文字が並ぶ。 消え…

【超短編小説】 リセット

俺は横断歩道で車にはねられたはずだったが、 「リセット」という女の声がした。 気が付くと、いつもの交差点にいた。 母さんは5年前に亡くなった。 母子家庭だった俺…

【ポエム】 海底に沈む世界

起きている現実 それを取り巻くもの その渦中にいるもの 明日には変わってしまうかもしれない未来を 私たちは見過ごしているのかもしれない 照らされた明かりは、まぶ…

いつもお読み頂き、ありがとうございます。超短編小説ももうすぐ100作目に近づいて来ました。

100作目に向け、また一つ、日々小説を考えたいと思います。

【超短編小説】 エルト

下降して、横に移動する。 私を乗せた"それ"という物は目的なく、 上下に動いては並行移動した。 到達点は何もない。 誰かの指示で動いているというより、 その日の感…

【超短編小説】 桜でジャンプ

「ウチらの記念。桜の前でジャンプしよう!」 桜が舞い散る4月、入学式のあの日。 同じ中学に入ったミナと校門にある桜の木の前で写真を撮った。 写真はひどくブレてい…

【超短編小説】 GETS

特急列車に乗っている人を視認できるほど、私の視力は良くない。 凄まじいスピードで通り過ぎる列車の中から、たった1人の人間を判別するなんてことは到底できるはずもな…

【超短編小説】 またひとつ

「知りたいんだ、君のことが気になるから」 そう言ったものの、僕は何ら分かってはいなかった。 なぜなら、僕は君にはなれない。 どんなに君のことを分かろうとしても、…

【超短編小説】 透明人間

「もしも透明人間になったら、何をしますか?」という質問に思春期の頃の俺なら、邪な考えがいくつも浮かんでいたはずだ。 男子同士で盛り上がり、周りの女子からは《変態…

【超短編小説】 留守録

「悲しいこともあるわ、生きていたらね」 母さんはそう言った。 「だってそうでしょ。今日も誰かが誰かを思う。涙が溢れることも。どうすることも出来ないことも、仕方が…

【超短編小説】 1分45秒後

君が気付いた頃、僕は君の携帯に電話をかけるだろう。 何度も着信音が鳴り、そして、静かに音が止まるだろう。 そう、あの頃はまだ僕は君のことが好きだった。 僕が君に…

【超短編小説】 消しゴム

【超短編小説】 消しゴム

俺は急いでいた。アカネが転校する。

今日は引っ越しの当日だった。

俺は坂道を走り、家の前に辿り着いた。

引っ越しのトラックが停まっている。

「ハアハア、間に合った」

ダンボール箱を抱えたアカネが玄関から出てきた。

「どうしたん?そんな慌てて」

「お前にさ、渡し、渡し忘れてたから」

俺はポケットから消しゴムを取り出した。

「それ、うちが貸した消しゴムやん。もう無くしたんかと思ってた

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【ポエム】 だから、ここにいる

【ポエム】 だから、ここにいる

できないことだってある。

理解できることばかりで世界を見て、

顔が見えなければ何でも言える。

そんな世界で生きている。

でも、それは一部にしか過ぎない。

まだ知らないことだってあるんじゃないか。

こうしている間にも誰かは悩んでいて、

夜の静けさの中で泣いている。

だから、ここにいるんだろう。

だから、遠い場所でもすぐに来てくれるんだろう。

「待たせたな」って、顔出してくれよ。

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【超短編小説】 饅頭を齧る女

【超短編小説】 饅頭を齧る女

これは旅先で会った女の話だ。

その女は右手に饅頭を持ち、こちらを見ながら饅頭を一口齧った。

まるまるとした白い饅頭であったが、小さい口を器用に動かし、運んでいく。

それは頬張るというよりは齧るが適当であった。

まるで私に見せつけるかのように饅頭を美味そうに食べた。

女は饅頭を食べ終えると「ふー」と息を吐いた。

もう腹が一杯になったに違いない。

そう思った矢先、女は鞄から赤い饅頭を取り

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【超短編小説】 夜中物語

【超短編小説】 夜中物語

夜の静けさが好きだ。

真っ暗で何の音も聞こえない。

でも、だんだんと空は青になっていく。

わたしたちは笑った。

声はガラガラで、

すぐにでも眠りたい。

「明日、声、出ないかも」

「もう、今日だよ」とツッコまれながら、

飲みすぎて、歌いすぎて。

冷たい空気が身体を纏い、意識を保たせる。

こんな日常が続けばいいのに。

「じゃあね」と手を振ったら、

「おやすみ」と返したようだった

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【超短編小説】 形成

【超短編小説】 形成

人間はこれまで生きてきた中で経験したことを元に形成されていく。

過去にしがみつき、そして、また新たなものを取り入れ、形成していく。

そう、形成なくして生きていけぬ。

それが私の生き方だった。

積み上げたものを簡単には壊すことなど出来やしない。

そういうジレンマの中にいる。

私を形成するもの。

それは一体、いつから芽生えたのか。

それが私を蝕むようになったのはいつ頃の出来事なのか。

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【ポエム】 静かに消える。

【ポエム】 静かに消える。

消えた。

音も立てずに。

そこにあったものは、すぐに消える。

存在したのかさえ分からず。

静かで、

夢のように見えて、

白い紙には10行ぐらいの文字が並ぶ。

消えて、また新しいものが現れる。

理由なんか分からないだろう。

分からない時点で、終焉を迎える。

油性ペンより水性に近い。

一瞬にして、文字は消えた。

そしてまた、ペンは動く。(完)

【超短編小説】 リセット

【超短編小説】 リセット

俺は横断歩道で車にはねられたはずだったが、

「リセット」という女の声がした。

気が付くと、いつもの交差点にいた。

母さんは5年前に亡くなった。

母子家庭だった俺は、母さんがある日、用事もないのにどこかに出掛けて行くことがあった。

ご飯は用意してあり、「夕方には帰るから」と言ったきり、どこに行くのか何も教えてはくれなかった。

母さんが亡くなって以後、不思議なことが起きた。

それは不慮の

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【ポエム】 海底に沈む世界

【ポエム】 海底に沈む世界

起きている現実

それを取り巻くもの

その渦中にいるもの

明日には変わってしまうかもしれない未来を

私たちは見過ごしているのかもしれない

照らされた明かりは、まぶしく

その裏側にある影を

分かったふりして頷いた

でも、そうじゃない

そうじゃなかったのかもしれない

君が教えてくれた

もう一度、時間をくれないか

考えてみるから

海底に沈む世界について(了)

いつもお読み頂き、ありがとうございます。超短編小説ももうすぐ100作目に近づいて来ました。

100作目に向け、また一つ、日々小説を考えたいと思います。

【超短編小説】 エルト

【超短編小説】 エルト

下降して、横に移動する。

私を乗せた"それ"という物は目的なく、

上下に動いては並行移動した。

到達点は何もない。

誰かの指示で動いているというより、

その日の感覚を頼りにとりあえず動いているという印象である。

乗せられている側からすればひどく迷惑な訳だが、

アルファベットのLの字や片仮名のトに近い形で動いていることだけは分かった。

私はそれを「エルト」と名付けた。

エルトはどこ

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【超短編小説】 桜でジャンプ

【超短編小説】 桜でジャンプ

「ウチらの記念。桜の前でジャンプしよう!」

桜が舞い散る4月、入学式のあの日。

同じ中学に入ったミナと校門にある桜の木の前で写真を撮った。

写真はひどくブレていたが、そこには笑顔の二人が映っていた。

3年後、卒業式。

私は、桜の木の前にいた。

ミナは生徒会長になり、クラスも2年生まで一緒だったが、なんとなく遠い存在になった。

校門の前で桜を眺めていると、ミナがこっちにやって来た。

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【超短編小説】 GETS

【超短編小説】 GETS

特急列車に乗っている人を視認できるほど、私の視力は良くない。

凄まじいスピードで通り過ぎる列車の中から、たった1人の人間を判別するなんてことは到底できるはずもなかった。

しかし、警察組織によって極秘に開発された「カメラ機能付き逃走対象者捜索用眼鏡(Glasses for Escape Target Search with camera function)通称:GETS(ゲッツ)」を用いれば、

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【超短編小説】 またひとつ

【超短編小説】 またひとつ

「知りたいんだ、君のことが気になるから」

そう言ったものの、僕は何ら分かってはいなかった。

なぜなら、僕は君にはなれない。

どんなに君のことを分かろうとしても、

僕というフィルターを通してしか理解できないからだ。

それは、”解釈”という言葉で表現されるものと等しかった。

そう考えた時、僕は君のことを本当は理解できていないじゃないかと思った。

知ったかぶりをして本質は見えていないのかも

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【超短編小説】 透明人間

【超短編小説】 透明人間

「もしも透明人間になったら、何をしますか?」という質問に思春期の頃の俺なら、邪な考えがいくつも浮かんでいたはずだ。

男子同士で盛り上がり、周りの女子からは《変態》と白い目で見られていたことだろう。

それがどうだろう。

30代半ばになった俺はそういうものにほとんど興味を示さなくなり、

「透明人間になったら豪華客船に乗って、世界中を旅してみたい」というフリーライダーに成り下がった。

そもそも

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【超短編小説】 留守録

【超短編小説】 留守録

「悲しいこともあるわ、生きていたらね」

母さんはそう言った。

「だってそうでしょ。今日も誰かが誰かを思う。涙が溢れることも。どうすることも出来ないことも、仕方がないことも」

「悔しいことも、不甲斐ないこともあるわ」

「そうやって何かを感じながら、また明日が来るのを待つしかないのよ。すぐには消え去らないことでも、誰もがどうにかやり過ごしているのよ」

「私はね、日常にあるそういう言い表せない

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【超短編小説】 1分45秒後

【超短編小説】 1分45秒後

君が気付いた頃、僕は君の携帯に電話をかけるだろう。

何度も着信音が鳴り、そして、静かに音が止まるだろう。

そう、あの頃はまだ僕は君のことが好きだった。

僕が君に電話をかけて、君はだいたい1分45秒後にかけ直す。

その繰り返しだったし、それが楽しかった。

若さゆえの幸福と甘酸っぱい想いに満ち溢れていた。

でも、君はもうここにはいない。

随分と理性ばかり働いてしまった僕は君と一緒には居ら

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