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HOTEL J【短編小説】
ある夏の暑い日、男はホテルの一室でワイングラスを傾けていた。中身はイタリア産の赤ワインと錦糸町の哀愁が五対三の割合で入っている。残りの二割は『 』である。名前はまだない。
男がその液体Aを飲み干し、液体Bを催したためにソファを立ち、床に置いてあった液体A{C}の瓶に躓いたところで、ドアがノックされた。
狐、狐。間違えた。コン、コン。
男は足元を濡らしながらも平然としたニヤケ顔で鍵を開け
東京云景 第一景 代官山
その日、代官山は湿っていた。
初めて行く街は、電車の中で幾度も地図を開いて閉じて開いて閉じて、開いて閉じても駅から降り立ったら全てが無駄になる。
GPSほどあてにならないものはないね。あたしとあなたみたいに。
とりあえず看板が見えたスタバ(幼少期から慣れ親しんでいたから敢えて、ね)の方角に進めば良い。画用紙を切るとき、端にチョンとえんぴつで印をつけるくらいの頼りなさで、歩いてみる。
ラ