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【植物SF小説】RingNe【第3章/⑤】《完結》
《第一章は下記より聴くこともできます》 第3章/④はこちら #渦居 朝。まず、光があった。その後に、卵が焼ける香り、包丁がまな板を叩く音。一杯の水を飲み、居間に行…
【植物SF小説】RingNe【第3章/④】
《第一章は下記より聴くこともできます》 第3章/③はこちら #佐藤 ③ 祝祭は夜通し三日三晩続いた。足が棒になるまで踊って、笑い皺が消えなくなるまで笑って、あるも…
【植物SF小説】RingNe【第3章/③】
《第一章は下記より聴くこともできます》 第3章/②はこちら #佐藤 ② 三人はこれからの自分の選択を考えながら、言葉も交わさずに駅まで歩いていた。電車で待っていた…
【植物SF小説】RingNe【第3章/②】
《第一章は下記より聴くこともできます》 第3章/①はこちら #佐藤 葵は今日三度目の目覚めだった。PE事件以降長時間眠ることができず、中途覚醒を繰り返す癖がついて…
【植物SF小説】RingNe【第3章/①】
《第一章は下記より聴くこともできます》 第2章/③はこちら #葵田葵 暗闇。上下の黒い大地に色とりどりの花が咲いている。キキョウ、スミレ、ヤエザクラ、タンポポ、…
【植物SF小説】RingNe【第2章/③】
《第一章は下記より聴くこともできます》 第2章/②はこちら #渦位瞬 ② 会場は土還の儀で使われている森を選んだ。世界中の会員に届くように、式の模様はオンラインで…
【植物SF小説】RingNe【第2章/②】
《第一章は下記より聴くこともできます》 第2章/①はこちら #三田春 講演の帰り道、合成樹脂の網目でできた橋を渡る。イタドリやメマツヨイグサなどの植物達が網目に…
【植物SF小説】RingNe【第2章/①】
《第一章は下記より聴くこともできます》 第1章/⑥はこちら #渦居 あの日の夢を見ていた。或いは、思い出していた。どこまで現実で、何が創りものだったのか判然とし…
【植物SF小説】RingNe【第1章/⑥】
《第一章は下記より聴くこともできます》 第1章/⑤はこちら #田中 研究室に戻り、PCを開いた。アルビジアのタスクリストを確認して、テロメアの再生に関する最新研究…
【植物SF小説】RingNe【第1章/⑤】
《第一章は下記より聴くこともできます》 第1章/④はこちら #葵田葵 ② 透明なソファーが配置された白く広々とした空間に、数台のカメラが設置されていた。そそくさと腰…
【植物SF小説】RingNe【第1章/④】
《第一章は下記より聴くこともできます》 第1章/③はこちら #三田春 ② テレビ局から会社への帰り道、近くの自然公園へ母の墓参りに行った。アジサイの横に生える、2…
【植物SF小説】RingNe【第3章/⑤】《完結》
《第一章は下記より聴くこともできます》
第3章/④はこちら
#渦居
朝。まず、光があった。その後に、卵が焼ける香り、包丁がまな板を叩く音。一杯の水を飲み、居間に行くと、円が朝食を作っていた。
「おはよう」を交わした。レースカーテンを通して半減された太陽の白い光が部屋に溜まる。そこにエノキが気持ち良さそうに寝ていた。円は朝食を済ますと、そそくさと荷物をまとめ、玄関の扉を開けた。純粋な陽光が
【植物SF小説】RingNe【第3章/④】
《第一章は下記より聴くこともできます》
第3章/③はこちら
#佐藤 ③
祝祭は夜通し三日三晩続いた。足が棒になるまで踊って、笑い皺が消えなくなるまで笑って、あるもの全てを分かち合って過ごした。長らく続いた持続可能な生活というコンセプトから解放され、ただこの三日間を存分に惜しみなく生きた。そしてこれは生命を祝う祝祭であり、終わりを受け入れる儀式でもあったから、祭のあと、多くの人々が三三五五に生
【植物SF小説】RingNe【第3章/③】
《第一章は下記より聴くこともできます》
第3章/②はこちら
#佐藤 ②
三人はこれからの自分の選択を考えながら、言葉も交わさずに駅まで歩いていた。電車で待っていた運転手は、無言で乗り込む三人を確認すると、発進した。春は電車内で何度も短くうたた寝して、細切れに夢を見た。何の示唆でもない脳の情報処理としての、純粋で無意味な夢を。渦位は車窓から夕暮れの空を、風に流れる雲をただ見つめていた。葵は前方
【植物SF小説】RingNe【第3章/②】
《第一章は下記より聴くこともできます》
第3章/①はこちら
#佐藤
葵は今日三度目の目覚めだった。PE事件以降長時間眠ることができず、中途覚醒を繰り返す癖がついてしまっていた。雨水タンクに溜めた雨水でシャワーを浴び、歯を磨きながら窓を開け、外の様子を確認した。
ナイフとメタルマッチ、ドクダミで作ったチンピを入れた小物袋、作業着やタブレットをトートバックに入れて家を出た。
葵は最
【植物SF小説】RingNe【第3章/①】
《第一章は下記より聴くこともできます》
第2章/③はこちら
#葵田葵
暗闇。上下の黒い大地に色とりどりの花が咲いている。キキョウ、スミレ、ヤエザクラ、タンポポ、マリーゴールド、ヒヤシンス。そして一本のカーネーションが中空から大地と平行に、重力を無視して真っ直ぐに、私の方に向かって咲いていた。根は触手のように蠢き、花は心臓のように脈打っていた。私はこれが歩だと思って話しかけていた。
「ね
【植物SF小説】RingNe【第2章/③】
《第一章は下記より聴くこともできます》
第2章/②はこちら
#渦位瞬 ②
会場は土還の儀で使われている森を選んだ。世界中の会員に届くように、式の模様はオンラインでライブ配信される。式はダイアンサス、つまりナデシコ属を表す学名の言葉の由来となったギリシャ神話の神、ジュピターの名前をそのまま採用した。
円形に結ばれた垂と風鈴が木々に吊るされ、長い枯れ枝が何本も地面に杭のように刺され、辺りとの
【植物SF小説】RingNe【第2章/②】
《第一章は下記より聴くこともできます》
第2章/①はこちら
#三田春
講演の帰り道、合成樹脂の網目でできた橋を渡る。イタドリやメマツヨイグサなどの植物達が網目に届きそうなほど生長していた。外壁沿いのガーデンに生えたツユクサは、変わらず凛々しく咲いていた。ガーデンの担当の職員達が前方で、軽トラの荷台に直接盛られた堆肥と思しき土を撒いていた。定期的にどこからか運ばれ、追肥しているようだった。
【植物SF小説】RingNe【第2章/①】
《第一章は下記より聴くこともできます》
第1章/⑥はこちら
#渦居
あの日の夢を見ていた。或いは、思い出していた。どこまで現実で、何が創りものだったのか判然としない、曖昧模糊とした記憶。
春さんの母親の耳裏に繋がれたケーブルは三十センチ四方の白い正方形の筐体と繋がれて、それから更に伸びたケーブルを春さんは自身のBMIに装着した。僕が病床に入ると既に準備は終わっていて、春さんは緊張した面
【植物SF小説】RingNe【第1章/⑥】
《第一章は下記より聴くこともできます》
第1章/⑤はこちら
#田中
研究室に戻り、PCを開いた。アルビジアのタスクリストを確認して、テロメアの再生に関する最新研究の論文要約に取り組む。アルビジアのタスクリストには不老不死関連の研究開発タスクが並べられていた。現在はBMI経由で右半球下前頭皮質に時間感覚を遅くさせる信号を発信し、一日を二千四百時間に引き延ばし体感覚的に不老不死を得る「TiME
【植物SF小説】RingNe【第1章/⑤】
《第一章は下記より聴くこともできます》
第1章/④はこちら
#葵田葵 ②
透明なソファーが配置された白く広々とした空間に、数台のカメラが設置されていた。そそくさと腰をかがめてやってきたディレクターに別席へ案内されると、既に三田さんがそこにいた。
「葵田さん、はじめまして。三田と申します。今日はお会いできること楽しみにしていました」
三田さんは実際にお会いしてみると、歳の割にかなりお若く
【植物SF小説】RingNe【第1章/④】
《第一章は下記より聴くこともできます》
第1章/③はこちら
#三田春 ②
テレビ局から会社への帰り道、近くの自然公園へ母の墓参りに行った。アジサイの横に生える、2メートルほどのガマズミ。追い越したはずの身長は再び抜かされていた。
灰褐色の樹皮に、広卵形の鋸葉を繁らせ、ナンテンの実に似た小さな赤い実を実らせている。子どもの頃から母とよくここに来て、顔がねじれるほど酸っぱいこの実を摘んで、互い
【植物SF小説】RingNe【第1章/③】
あらすじ
人生の終わりにはまだ続きがあった。人は死後、植物に輪廻することが量子化学により解き明かされた。この時代、人が輪廻した植物は「神花」と呼ばれ、人と植物の関係は一変した。 植物の量子シーケンスデバイス「RingNe」の開発者「春」は青年期に母親を亡くし、不思議な夢に導かれてRingNeを開発した。植物主義とも言える世界の是非に葛藤しながら、新たな技術開発を進める。幼少期に病床で春と出会った
【植物SF小説】RingNe【第1章/②】
あらすじ
人生の終わりにはまだ続きがあった。人は死後、植物に輪廻することが量子化学により解き明かされた。この時代、人が輪廻した植物は「神花」と呼ばれ、人と植物の関係は一変した。 植物の量子シーケンスデバイス「RingNe」の開発者「春」は青年期に母親を亡くし、不思議な夢に導かれてRingNeを開発した。植物主義とも言える世界の是非に葛藤しながら、新たな技術開発を進める。幼少期に病床で春と出会った
全人類に体験してほしいので書く
拝啓、全人類へ主催イベントの告知、というモチベーションではもはやなく、表題通り全人類に推したい体験があるので、書く。
主催が言っても訝しいかもしれないけれど、誇張なしで「世界認識が変わるレベルの体験」が、このフェスティバルにはある。
肥沃な畑の土を片手でひと掬いすると、その土の中にはいくつの微生物たちが住んでいるか?
その数は地球の総人口をゆうに超える。
畑とはもはや宇宙であり、農業とは宇宙
『52ヘルツのクジラたち』映画レビュー/まだ名前のない関係性。響き合うもの。
久しぶりに映画レビューを書く。オールタイムズベスト10に入るくらい好きな小説の映画を観てきたから。
「52ヘルツのクジラ」とは、他の仲間たちには聴こえない高い周波数で鳴く世界で1頭だけのクジラのこと。その鳴き声は1980年代からさまざまな場所で定期的に検出され「世界で最も孤独なクジラ」と呼ばれている。
クジラの声は、人間が聴くと一瞬で鼓膜が破れてしまうくらい大きい。それだけの音量で、暗い海のな