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詩集 第8部

30
今まで書いた詩をまとめました。
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記事一覧

【詩】年月

【詩】年月

僕の思い出がなくなった
ふと会いたくなったとき
見上げればそこには
まあたらしい建築物

僕の思い出がなくなった
幼年をすごした団欒の
小さなくらしでも
たのしかった過去

僕の思い出がなくなった
人なし人家となったとき
ポストにつまる郵便物
切なさにひたった幼年のころ

僕の思い出がなくなった
ふと会いたくなったとき
見上げればそこには
まあたらしい建築物

【詩】すきま

【詩】すきま

家のそとから
あの ぶきみでおそろしい
姿のみえない 獣の声が
遠吠えのように こだまする
ぼくは こわばり耳をすまし
獣とのきょりを はかるのだ
家がゆれ
こだかい歌が さそうころ
 ヒュルヒュル ヒュルリ
 ヒュウ ヒラリ
魔笛のようにきこえるは
ただの風には思えずと

【詩】精霊

【詩】精霊

くもり空のした
だれもいない小道
はじまりの合図は
頬にふれたひとしずく
あわててかけよれば
足が地面にとらわれる
草花がそよそよと笑い
くやしくて足もとをみれば
かおをだした木の根っこ
行き場のないむなしさに
針葉樹はおどる

【詩】暖炉

【詩】暖炉

まだ星の見守る夜明けまえ
薄明かりの光に影をおとす
顔にささるあたたかな
指先をかざして頼りなく
白いけむりが綿帽子

まだ夜は明けず
まだ火は消えず

【詩】前進

【詩】前進

ある人は言った
前に進むには
なにかひとつを
捨てなければならないと

それは人にとっては
どんなものよりも恐ろしい
人は今を変えたくも
過去を壊したくもない

それなのに人は愚か
新天地を望み
暗闇から流れ星を
つかもうとする

欲に欲をかさね
身動きがとれなくなり
まだ星に願う者が
この世にはたくさん

ある人は言った
前に進むには
なにかひとつを
捨てなければならないと

【詩】雷雨の朝

【詩】雷雨の朝

めざめると
そとは 雨や雷や
屋根をつらぬく 大槍に
臓をしびらす 光の根

朝も朝だが まっくらで
夜明けまえと 錯乱す

そこで銅鑼が 刻をつげ
雨はしだいに とおのくか
気分はじとじと
雷雨より低空

【詩】秋雨

【詩】秋雨

ほほがいたい
根をはるように ひろがって
つめたい小川が たれさがる
ぼくはいま 猫のよう
ぼくはいま 柳のよう
ほほがいたい
のどがいたい
秋雨のあれる
秋雨のあれる

【詩】僕自身

【詩】僕自身

僕のきらいなこと
 優しくされること
 気遣われること
 その微妙な笑顔

僕のきらいなこと
 特別あつかいされること
 変な目でみられること
 その重たい空気

僕のきらいなこと
 理解されないこと
 一方的に悪口を言われること
 その攻撃的な思想

僕のすきなこと
 ひとりでいること
 なにも考えないこと
 この達観した心

【詩】響音と

【詩】響音と

とおくで 音がした
野山にひびく 気高い音が

とおくで 音がした
風にふかれる からい音が

とおくで 音がした
河原にしたたる 雫の音が

とおくで 音がした
路頭に煙る 焼き芋屋の音が

ちかくで 音がした
まっしろに漂う 吐息の音が

【詩】詩人

【詩】詩人

息がつまるように
生活に水が流れるように
詩をしたためた

想えば想うほどに
路頭に迷い
言葉をえらべなくなり

朝日が胸にくるしい

【詩】朝のうた

【詩】朝のうた

いつも 朝はやく
せわしなくでていく
わたしの妹よ

ふくろうではないから
よふかしは いけません
すずむしではないから
さわがしくては いけません

にわとりより はやく
あさがおより はやく
あさやけより はやく
たいようより はやく

すっきりと
人間の心のままに
めざめなさい

【詩】まごころ

【詩】まごころ

つくってくれたね
さむい朝 いちばん早く
せわしない まごころを
魔法のように 唱えてしまい
綺麗なつつみでたずさえる

からっぽになった
さみしいお昼 たのしみに
しずかに心を おどらせて
夢をみるように あけはなつ
宝のようにきらきら光る

あたたかくても
つめたくても
年月が過ぎ 焦がれてしまう
愛のこもった お弁当を
泣きながらいただきたい

【詩】もみじ

【詩】もみじ

もみじの葉
もみじの葉
人間の手に にているね
大きいものは父
小さいものは弟

もみじの葉
もみじの葉
鳥のあんよに にているね
雪道にのこる
きょだいな怪鳥

もみじの葉
もみじの葉
夜空の星に にているね
ひらひらおちる
あかい流れ星

【詩】みず星

【詩】みず星

水面に
泳いだ波紋 ひびかせて
つらぬく玉を うつしだす
それは ゆらいで ゆがみ
またたくも
水底しずめた 星月夜
いま 幻想の言の葉 まどわせる