安藤むるめ

[むるめ辞典]連載 murume.note@gmail.com

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むるめ辞典

雑文を書いていたら力のある漢字の並び(熟語)を見つけました。 いろいろ書き出してみたら楽しくて、ところどころに故・和田誠さんの著書 「ことばのこばこ」を思い起こす…

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甲州街道から満月をみていた。クレーターのでこぼこがはっきりと浮かび上がってまるで瘡蓋みたいだった。ボリボリ掻いたら空から剥がれ落ちそうにみえた。それで瘡蓋について考えていたらどんどん生々しい想像になっていった。ピリッと皮膚から剥がれる瞬間を思い出した。白い肉とピンクの肌が見えた。

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むるめ辞典

■白兎 [読]はくと 白い兎 [例文] 最近、転職活動をしていて、面接でうまく答えられない質問があった。 頭の中が雪の日のうさぎのように真っ白になって何も考える…

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目と耳の間、人間の行為について

タレスという人をご存知ですか? 記録にある限りでは、世界最古の哲学者、つまり人類で最初の哲学者だそうです。 彼は真実と嘘にどれくらいの隔たりがあるのかと聞かれて…

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インド物語-デリー⑧-

いつの間にかバッグに入っていた瓶について宿の受付の男に聞いてみた。こういうのをどこかで見たことはない?彼はその瓶を手にとって上からみたり横から見たりした。 この…

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むるめ辞典

■綱引 [読]つなひき 綱を引く [例文] 会社に求めているものと、自分に求められるものとのあいだには、かなりのズレがあるかもしれない。だから話し合いがもたれ、…

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むるめ辞典

■分岐点 [読]ぶんきてん 分岐する点 [例文] 世の中にはいろんな点がありますね。 分岐点ていうのは一体どんな点でしょうか。 私は井戸の底に差し込む太陽の光み…

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夏なんです

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インド物語–デリー⑦-

リクシャーの引き手は大胆にふっかけてきた。それは今日の宿に4泊できる金額だった。 歯もなく、抜け目もない男だった。ニヤけた面の貼りついた顔に、かろうじてへばりつ…

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インド物語−デリー⑥-

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インド物語-デリー⑤-

どんなところにも約束事というのはある。いつから始まったのか誰にもわからない昔の約束事がまるで時間の影みたいに私たちについてまわっています。 デリーでもいくつか約…

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インド物語−デリー④−

道には迷ってしまったけど、それで気持ちがどうということはなかった。なにしろ時間だけはたくさんあるし、まあなんとかなるだろう、というのが私の旅の基本方針だった。 …

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インド物語-デリー③-

宿の近くには美味しいビリャニが食べられるレストランがあった。それは日本で食べるチャーハンの味に限りなく近くて、手を伸ばせばもう東京に触れられそうな気がした。 脂…

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ギリギリデイズ

家庭で役割がありますかと聞かれたら、毎朝ゴミを捨ててますね、と答える。 仕事でのあなたの役割は何ですか、と聞かれたら毎日ゴミを生み出していることだと答えます。 …

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雲はいつまでも空を覆っていて陽の光が当たらない連休になりそうだった。駅まで歩いてみると汗で帽子が黒く濡れた。気怠さが体に染み渡る前に魚と酒と本を買って帰った。クーラーの効いた部屋で刺身をつまみビールを飲みながら名作を読む以上の喜びは梅雨の空の下には用意されていない。家が一番です。

3

母親に言われたことがある。人のこと許せば楽になるよと。専門学校の先生には本当に損な性格してるよねと言われた。上司も扱い辛いと言う。確かに私は狭量で頑固で忘れっぽいところがある。でも別にそれでいいと思っていた。娘が私に似てくるまでは。なんて性格の悪いやつなんだ、と思いましたもんね。

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むるめ辞典

むるめ辞典

雑文を書いていたら力のある漢字の並び(熟語)を見つけました。

いろいろ書き出してみたら楽しくて、ところどころに故・和田誠さんの著書 「ことばのこばこ」を思い起こすところがあります。

面白い絵本ですから心に残るものがあったみたいです。

■風化

[読]ふうか

風と化す

[例文]

恥ずかしい思い出も風と化しました。

■光線

[読]こうせん

光の線

[例文]

敷かれたレールには乗り

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甲州街道から満月をみていた。クレーターのでこぼこがはっきりと浮かび上がってまるで瘡蓋みたいだった。ボリボリ掻いたら空から剥がれ落ちそうにみえた。それで瘡蓋について考えていたらどんどん生々しい想像になっていった。ピリッと皮膚から剥がれる瞬間を思い出した。白い肉とピンクの肌が見えた。

むるめ辞典

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■白兎

[読]はくと

白い兎

[例文]
最近、転職活動をしていて、面接でうまく答えられない質問があった。

頭の中が雪の日のうさぎのように真っ白になって何も考えることが出来ない。

嫌な汗もかく。精神衛生上よくない。うまくごまかせたのかしらん。

1995年に碧いうさぎを歌っていたのは酒井法子だった。

この年は阪神淡路大震災があり、地下鉄サリン事件があった。

悲痛な時代のラジオでよくこの

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目と耳の間、人間の行為について

目と耳の間、人間の行為について

タレスという人をご存知ですか?
記録にある限りでは、世界最古の哲学者、つまり人類で最初の哲学者だそうです。

彼は真実と嘘にどれくらいの隔たりがあるのかと聞かれて、「目と耳の間ほどだ」と答えたそうです。意味はわからないけど、洒落てますよね。

私は哲学とか独自の思想とかいう立派なものは持ち合わせていませんが、好奇心は強いほうで面白そうな本を見つけては買い込むクセがあります。

まあ半分以上は読まれ

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インド物語-デリー⑧-

インド物語-デリー⑧-

いつの間にかバッグに入っていた瓶について宿の受付の男に聞いてみた。こういうのをどこかで見たことはない?彼はその瓶を手にとって上からみたり横から見たりした。

この蓋はどうやって開けるんだと彼は聞いた。

分からないんだと私はこたえた。

この宿でも、そうでなくても、こんな瓶は見たことないと彼は言った。それで地元の工芸品に詳しい人をしらないかと聞いてみたら、路地のほうに雑貨屋があるからそこに行けばい

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■綱引

[読]つなひき

綱を引く

[例文]

会社に求めているものと、自分に求められるものとのあいだには、かなりのズレがあるかもしれない。だから話し合いがもたれ、調整していかなければならない。

それは綱引きのように力ずくで競うものではなくて理論と気配りによってもたらされる世界である、と思っていた。

でも実際には引っ張り返さないとズルズルと体ごと持っていかれるような厳しい世界になっていてみ

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■分岐点

[読]ぶんきてん

分岐する点

[例文]
世の中にはいろんな点がありますね。

分岐点ていうのは一体どんな点でしょうか。

私は井戸の底に差し込む太陽の光みたいな点じゃないかと思います。

24時間のうちの何秒間かだけ差し込む光線みたいに、人生のうちのほんの一瞬の光の点です。

それで私は今まさに分岐点に立っているのですが、その背景は絶望と不安です。

でも勇気を持って道を選びます。

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インド物語–デリー⑦-

リクシャーの引き手は大胆にふっかけてきた。それは今日の宿に4泊できる金額だった。

歯もなく、抜け目もない男だった。ニヤけた面の貼りついた顔に、かろうじてへばりついている髪の毛が頭頂部から垂れ下がっていて、まるで昔話に出てくる老人のようだった。

それで私はこれから魔法のランプを取りに行かされるのかしらと思いながら宿2泊分の料金を払う約束をした。

これでも十分、法外的に高いけれど、猛暑を鍋に入れ

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インド物語-デリー⑤-

インド物語-デリー⑤-

どんなところにも約束事というのはある。いつから始まったのか誰にもわからない昔の約束事がまるで時間の影みたいに私たちについてまわっています。

デリーでもいくつか約束事をみました。

観光地に入場する際は外国人とインド人で列が違ったり、インド人でも男と女で入り口が分かれていたり。

モスクに入る前には手を清めなければならなかった。その水はだいたい濁っていて薄く汚れていた。

郷に入りてはというけれど

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インド物語−デリー④−

インド物語−デリー④−

道には迷ってしまったけど、それで気持ちがどうということはなかった。なにしろ時間だけはたくさんあるし、まあなんとかなるだろう、というのが私の旅の基本方針だった。

でもこれが一人旅でなく、もしここに誰かいたら私は長男的資質を発揮して、宿までの帰り路を探し始める。

大丈夫、任せておいてと根拠もないのに請負いを始める。例え相手がのらくらしていたいような場合でも。

私にはこの場をなんとかしなきゃいけな

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インド物語-デリー③-

インド物語-デリー③-

宿の近くには美味しいビリャニが食べられるレストランがあった。それは日本で食べるチャーハンの味に限りなく近くて、手を伸ばせばもう東京に触れられそうな気がした。

脂っこくて、でもパサパサとして、胃の良いところに当たって、きちんとお腹が膨らんでいく感じだった。デリーに滞在している間はだいたいそのレストランで食事したので、通り道に顔見知りができた。

彼らは入り組んだ路地裏に店を構える商店の主人たちで、

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ギリギリデイズ

ギリギリデイズ

家庭で役割がありますかと聞かれたら、毎朝ゴミを捨ててますね、と答える。

仕事でのあなたの役割は何ですか、と聞かれたら毎日ゴミを生み出していることだと答えます。

私が今一番困っていることは、この感覚と感情をを同僚にも家族にも言えずにいることです。

松尾スズキさんもびっくりのギリギリデイズであります。これは自粛期間があけて、はっきりと自覚しました。

最近はいろんな本音がどこからともなく現れて形

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雲はいつまでも空を覆っていて陽の光が当たらない連休になりそうだった。駅まで歩いてみると汗で帽子が黒く濡れた。気怠さが体に染み渡る前に魚と酒と本を買って帰った。クーラーの効いた部屋で刺身をつまみビールを飲みながら名作を読む以上の喜びは梅雨の空の下には用意されていない。家が一番です。

母親に言われたことがある。人のこと許せば楽になるよと。専門学校の先生には本当に損な性格してるよねと言われた。上司も扱い辛いと言う。確かに私は狭量で頑固で忘れっぽいところがある。でも別にそれでいいと思っていた。娘が私に似てくるまでは。なんて性格の悪いやつなんだ、と思いましたもんね。