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どちらの男を採るか?「007」ヴェスパー・リンドと「古事記」サホ姫の場合
小刀を手渡され
「俺とあいつと どちらを愛しているのか」
「俺を愛しているなら、男を刺し殺して来い」
古事記の台詞である。
サホ姫には出来なかった。同じ閨を共にした相手を殺すことだけは。
哀情がそれを阻んだ。
情に生きたサホ姫。
涙が零れ、男の額に落ち、男は起きて軍勢を整えた。
サホ姫自身の涙が彼女の命を奪うこととなる。
その「涙」を「倫理」と古事記は分析している。
サホ姫に小刀を手渡した
人間が世界で最も殺している生きもの = 世界で最も人間を殺している生きもの ~宮沢賢治 「注文の多い料理店」
蚊は人間にとって最も良心を痛めることなく殺害できる生きものであると同時にWHOの報告によると、蚊が世界で最も人間を殺している生きものなのである。(参考までに;2位は人間である)そして、生殖機能を持つ前に死亡する蚊を遺伝子組み換えを通して作出したことで殺虫剤が要らなくなる日が来るかもしれない…というニュースが流れるやいなや、イェール大学の研究チームがより強靭な抵抗力を持つ蚊の誕生を確認した。主体は
もっとみる「主観的なものと客観的なものという概念は、いつの間にか完全にさかさまになってしまった。」アドルノ「ミニマ・モラリア」
「主観的なものと客観的なものという概念は、いつの間にか完全にさかさまになってしまった。」(アドルノ「ミニマ・モラリア」91-2)
主観から始めてみよう。主観とはある1つの個人主義的視点を重視するひとつのイデオロギー。「あなたは…」「私は…」相対主義に陥らざるを得ない。「マイノリティの立場に立って考えなさい」各々の主観が尊重され大切にされる。「他人の気持ちを考えなさい」個我をペンディングして「外
クリストファー・ノーランの「バットマン」
アカデミー賞を総なめにしたクリストファー・ノーラン監督の「オッペンハイマー」。彼の作品に流れる通奏低音を「ダークナイト」トリロジー、「メメント」「インソンニア」「インターステラー」、そして渡辺謙が出演した「インセプション」等々から整理して列挙して行こうかと思う。今回は「ダークナイト」トリロジー。
目の前で強盗に両親を殺され、やりようのない怒りを「笑顔」という「仮面」で隠し成長したバットマン=
安部公房 S.カルマ氏の犯罪 抜粋
パン屋のカウンターで働く少女は証言する。
毎日パン屋に来る客は「つけ」をごまかそうとする。
反対に、少女の眼には見えた。
カルマ氏は正直者で名前をどこかに落としてきて困っていることを。
しかし、裁判において裁判関係者が望む証言はカルマ氏が「犯人」であることを示す事実だ。真実を求めているのではない。カルマ氏を有罪にしたい法学者たちは証人としてパン屋の少女に質問をする。
被告はパンを食べました
シャーロックホームズとマルクス
一族の「呪い」?爆笑だ。シャーロック・ホームズ曰く、バスカヴィル家の呪いなど人間の想像力のなせる業。「理性の狡知」の飛翔に過ぎない。(ヘーゲル)何度も国内外で映画化されており子どもたちのロマンでもあった「バスカヴィル家の犬」。
サー・ヘンリーの慕うベリルは、ステイプルトンの妹ではなく妻。殺されたのはヘンリーでなく、ヘンリーの服を着たセルデン。犬にとっては、ヘンリーの匂いのついた服を着
レオナルド・ダ・ヴィンチと聖母の「穴」
レオナルド・ダ・ヴィンチには聖女の微笑みを美しく描けても、悦楽する娼婦は生生しく描けない。彼は「女」を「聖的」に求めはしたが「性的」に抑圧したからだ。レオナルドによると「ひとはそのものの本質を徹底的に認識してしまわないかぎりは、あるものを愛したり憎んだりする権利をもたない」つまり彼は情熱的に愛することも憎むこともせず、代わりに、正しく愛すること、憎むことを探究し認識に徹底してしまったのである。し
もっとみる食事と情事と催眠と…
「食事と情事の後には睡眠が来る」その共通性はどこにあるのか?数学者ルネ・トムによる著書「構造安定性と形態形成」によると、愛することと食べることは共に自己を喪失し他者を消化する自他融合の行為だから。厳密にいえば、生殖と捕食が生み出す主客の区別の喪失というカタストロフ(状態変化)にエネルギーが消費され催眠が引き起こされるのである。他者(牛、豚、愛する人…)を自分のものとするとき、自分が自分でなくなりそ
もっとみる「これが松本人志だ!」スラヴォイ・ジジェク分析
嘘つきがあいつは嘘つきだと言う。「声」は最もクリーンで透明な「完全犯罪」を完遂できる殺人兵器である。声は「声にならない声」をも奪い亡き声とする「口封じ」の媒体メディア。身体的口封じを殺人、そして「声」による心理的な口封じを「魂の殺人」という。松本人志さんに対するあまりに過熱した報道への「広島マツダ」松田哲也会長よりの批判に「吐きそう」「おそろしいものを読んだ」などの批判が浴びせられている。「声」
もっとみるショーペンハウアー「意志と表象としての世界」
関係=現象
埃にまみれ床に転がるひよこを見て、病気で床に臥せている時に枕元に運んでくれた亡き犬や猫を想う。あのとき、美しい景色を一緒に見ようと何度も何度も誘ってくれたあの人はもう存在してはいない。何故あんなに嫌いだった人を好きになり、何故あんなに好きだった人が嫌いになり…と思ったことはなかろうか?あの人を愛した私も、あのとき愛した/愛してくれたその人も、あれ程感動したあの場所も…あの書物も…
「トーキョートドージョートー」② 「この人を見よ」(ニーチェ)
「おまえが何者か、私にはわかっている」
「あの者は絶え間なく私を視つめていた。」
「おまえはその者がおまえを見たことに我慢ならなかったのだ…お前のすべてを見通したことに耐えきれなかったのだ」「そういう目撃者に私は復讐しようとしたのだ。」
その者は「私という謎のうちの最良な部分もまた最悪の部分も説き明かした。私が何者であるかも、また私がなにをしたかも見抜い