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解山(げざん)【滲み】1100字
登る山を間違えた。
待ち合わせ場所に誰もいない。
わたしが登るは、
権現山。山梨の。
みんながワイワイ楽しく登るは、
権現山。神奈川の。
晴れは雲全てを断ち、
稜線の緑は密度の高い暗黒。
ひとりでの登山は、
意外にも足取り軽く、
上へ上へ集中していた。
後ろも振り返らなかった。
なんだか負けそうで。
1時間ぐらいで頂上に着いた。
汗をかいた。
ボトルの水も残りわずか。
朱墨の香り【滲み】1600字
金木犀の香りを
洗剤臭いという其の人は、
シンニョウが上手。
トン、ス、スルリ、スイー、
緋色が延びる。
にごった黄色い道、ぴょんぴょんととびながら
薄い長袖の肘窩のあたりをぐいーっとひっぱる。
先生ってビジンだよな。
まだ半袖短パンの園村が小声で言うから、
ぴょんがぴょんが止まって、
臭い銀杏を靴底に練り込んでしまった。
汗水が脇腹をすーっと通った。
今日も掘立て小屋みたいな教室の屋根の上
ターミナル ターミナル【滲み】3500字
その人のさすり方は頭とおでこの間。おでこよりちょっと上で、産毛のちょっと下。親指でさするんです。
つまり、手のひらを横向きに頭部に置き、親指だけで、頭とおでこの間をさするんです。
それはすごく照れます。
顔が赤くなります。
「バイバイ。またね。」その人は私を見下ろしそう言って、帰っていきます。
その人が次いつ来るのか、パパに聞きます。
「また来て欲しいよな。」パパもそう言います。
中学1
捨てたい花びら【滲み】1400字
「履かなきゃいけないの、なんで? スカート。」
「そのままお母さんに渡してください」
住吉が中学受験ていうのをするから
今日から一緒に帰れないとあたしに言って、
毎日グダグダ教室に残ってダラダラ1人で帰る日々が1ヶ月ぐらい過ぎた。
他の女子たちみたいに、韓国の虹の形がU?とか、アプリのチックタックていう時計?とかの
話には心の底から軽蔑で、住吉とサッカーとオールナイトニッポンの話をし
旅館の朝【滲み】1800字
「お母さんのお股から僕が産まれたって言うんなら、お父さんはなんでいるの?」
むくっと目を覚ましたら5時55分だったから、
5歳の僕は、これは探検に行かないとと思った。
顔も洗わずにパジャマのまま靴を履いていると、「一緒に行くよ。」旅館の浴衣がぐしゃぐしゃで寝癖だらけのお父さんが、後ろの布団から声をかけてきた。なんでもかんでもお母さんと一緒が好きだが、この時はなんだか頼もしかった。
旅館の
団地【滲み】1600字
『昨日のように思い出せる』ってさ、僕は何十年もボーッと生きてきたのかな
連休の間のゴミの回収ってあるんだったか。
はて、と白髪の後頭部を掻きながら暗い階段を降りる。
少し汗をかいている。
燦々と太陽が照っているゴミ出し場まで歩いて来ると、
ちょうど殿村さんも燃えるゴミをほっぽった。
「鯉も暑そうやわ」殿村さんと見上げる。
そこには、ポツポツと、青や赤。
「昔に比べると、減ったね、鯉のぼり」
Parents home【滲み】1500字
2階で思う。「この私の実家って誰の家なんだっけ」
写ルンですを現像した写真を引き出しに入れっぱなしにしていたようで、
緑色の半透明の下敷きに張り付いた写真を、
ぺり、ぺり、ぺりり
とゆっくり剥がす。
苔みたいな色の厚いカーテンと窓の隙間から漏れる日のヒカリは、
おやつみたいに黄色い輝きで、眩しそうでおいしそう。
部屋の電気はつけていない、薄暗さ、けれども、
写真をいちまいいちまい丁寧に剥がす。
on the swing【滲み】1600字
靴飛ばしたら一周して背中に当たった。
小雨。傾斜22°。16時前、広い、公園、
曇る空は象みたいなグレーに墨黒混じりで。
立ち漕ぎブランコから放たれた靴は、砂場を超え道路を超えたちょうど正面の一軒家の中にスンと入っていった。いつから小雨が降っているかはわからない。
空中でバレリーナのごとく伸び切った右足の甲とほのかな弧を描いたつま先は、ゆっくりとブランコの座面に戻る。
大きい揺れに任せる直立し
neighborhood【滲み】2100字
「おばあさん、次はいつ会えないですか?」
大学生なのに平らな道で転んで膝を擦りむいた。
膝とショートパンツの裾に滲む血を見て、
植物に水遣りをしていた白髪のおばあさんは「赤チン持ってくるから待ってな」と言って磨りガラスの玄関へ入った。
夕暮れに蚊が舞うその下のコンクリートにお尻を付けて静かに待った。
電車の音が時折うるさいが、3両編成が通常のようで、うるささは早い。
おばあさんがなかなか家か
Dump【滲み】1400字
「あーそうだった。友達がいないんだった。」
店員に会釈するだけで9杯目のコーヒーが運ばれてきた。
焦茶の机に焦茶の飲物。
溜息に見上げるも窓の外も焦茶。
通りを歩くまばらな人はどうせ帰路だろう。
響く、暗い店内に1つだけの会話、ラジオも切られている、木枯らしの微かな音色、ダルそうな英語は私でも「早く帰れよ」の意だとわかる。
どうするか、さて、どうするか、朝から同じ椅子で私は思う。
お尻が疲れ
Puddle【滲み】1700字
「ポニーテールを浸して」
水たまりに話しかけなければいけない。
ちゃんと目を見て。後ろめたさを感じ。呼吸を整えて。
恥ずかしさを背後に隠し。憎たらしさは忘れて。
水たまりに話しかけなければいけない。
「次はいつ来ますか?」鈍い灰色の水たまりの中のポニーテールの子は答えてくれないが、落ちた雨粒で、波紋で、笑った。
「傘。お揃いだね」水たまりの子が頬を赤らめて言った。
秋雨前線がどうちゃらと天気
bicycle【滲み】1800字
「その自転車で毎日誘拐されているんだ僕は。ママのおうちに。」
まんぱんのカゴからジャガイモが転げ落ちないよう
グッと買い物袋を押し込む。
りんりん鳴らすー、
やめなさい、
カゴとハンドルの狭い隙間のイスに乗せるにはコツが要るほどに、ぽにょんとした息子は重い、
重いけどかわいい。かわいいけど重い。
夕立が来るだろう低い雲。空から視線をおろすと同時にまたがるサドル。
ギシッと。
5歳の誕生日に
platform【滲み】2100字
「ねえ。なんて言ってるの? いいからぎゅっとしてよ」
「夏に雪見だいふくが食べたい」
その呟きは広い駅構内に響いただけだったが、
となりに腰掛ける男の子はニコッとした。
どうせ何言ってるかわってない。
エコーのひどい女性のアナウンスが聞こえた。
未だにアナウンスのほとんどが何言ってるかわからず、
この階段に腰掛けていればどのプラットフォームにお父さんが来ても探せる。半年になるがここはまだ知ら
updating【滲み】1500字
「囲碁の途中で石握りながら死んじゃったじいちゃんが言ってたんだけど。。」
ソーダ味のアイスをかじりながら先輩が言う。
わたしは横目で彼を見ながら、わたしたちをが乗る軽トラの荷台を左手で掴みバウンドを制している。
「剪定しても思うような方向に新芽が出ない時は、人を嫌ってるからだって。嫌な想いがあると樹もそっぽを向くんだって。」
先輩は上を見上げながら思い出しているよう。もうアイスはだいぶ溶けて。指