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あいいろのうさぎ  短編集

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「あいいろのうさぎ」として活動している私が日々書き溜めている短編をまとめたものです。恐らく文字数は1000字程度なので、サクッと読んでいただけると思います。 巡り合ったあなたの時… もっと読む
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金の雛鳥を追いかけて

金の雛鳥を追いかけて

あいいろのうさぎ

 金の卵から生まれたヒヨコは他とは見た目からして違うのだろうか。いや、分かっている。金の卵というのは才能ある若者を指す言葉だ。そこから生まれたヒヨコ、というような表現は、俺は聞いたことがない。

 ただ、部活の同期が目覚ましい活躍をしていると、そんなことも思い浮かんでしまう。こいつは確実に金の卵から生まれてきたやつだ。それに、これで卵の状態とは思いたくない。こいつは確実に生まれ

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Many blessings to you.

Many blessings to you.

あいいろのうさぎ

「それでね、ボールに当たりそうになったけれど、メアリーが助けてくれたのよ!」

 あら! メアリーちゃん、とってもカッコいいわね!

「その後、そのままメアリーがシュートを決めたの! とってもカッコよかったわ!」

 メアリーちゃんはとっても運動の出来る子なのね。

「私ももう少し運動が出来ると良いんだけど……」

 そうね、得意なことが広がるのは素敵なことですもの。でも、その

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届かない距離

届かない距離

あいいろのうさぎ

「古文わかんない! やる必要性さえわかんない! 今の言語で喋ってよ! 日本語でこい!」

 放課後の空き教室で勉強していたところ、小林が喚き始めた。

「古文にキレたってしょうがないだろ。あと古いだけで日本語だから」

 俺が返すと小林はあからさまに不機嫌な顔になる。

「正論なんて今はいらないのー! 私は勉強しなくて良い理由が欲しいのー!」

「そこまで来るといっそ清々しいな

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孤独を取り払って

孤独を取り払って

あいいろのうさぎ

 憧れのその人と同じクラスになれたのは奇跡としか言いようがなかった。しかも席が隣だなんて、私は運を使い果たしてしまったのではないかとさえ思う。

 ただ問題があった。

 憧れるあまりに一言も喋りかけることができない。

 そもそも私なんかが話しかけていい存在なのだろうか。クラスメイトたちも彼に対しては一目置いているためか距離を置いている。そんな中で話しかける勇気もなかなか出て

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心まで躍らせて

心まで躍らせて

あいいろのうさぎ

 誹謗中傷なんて、書いた側は投稿した瞬間に忘れているんだろう。でも、書かれた側は違う。胸の底にいつまでもいつまでも残っていて、それは傷跡として機能する。私の場合、それは焦燥感になった。

 毎日のレッスンに加えて自主練を二時間増やした。当然睡眠時間を削ることになる。いつもより練習をしてるというのに、最近は私が叱られてばかりだ。

「美羽、遅れてる!」

「足! 上がりきってない

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熱い以上に温かく

熱い以上に温かく

あいいろのうさぎ

 見慣れた実家。でも実際来るのは今年の八月以来で、緊張する必要なんてどこにもないのに、少し心がピリッとする。十二月の夜闇の中、センサーライトが私を迎え入れた。

「ただいまー…」

 控えめに挨拶すると、耳の良い子供たちが奥からバタバタバタッと出てくる。

「奈津ちゃんこんばんは!」

「こんばんは!」

 甥っ子の俊太と姪っ子の風花。まだ保育園に通っている彼らは会うたびに元気

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山菜を採って幽霊に会おう!

山菜を採って幽霊に会おう!

あいいろのうさぎ

「山菜を採りに行こうじゃないか!」

「……は?」

 春休みで部活も無いというのに先輩に呼び出され、部室に着いた途端言われたのがこれだった。

「ひかる君、聞こえなかったのか? 山菜を採りに行こうと言ったんだよ、私は!」

「声デカっ……充分聞こえてますって。そして呆気にとられているんですよ」

「呆気にとられるだって? 面白い事を言うな、君は」

「どう考えたって面白おかし

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ごめんね、石油ストーブくん。

ごめんね、石油ストーブくん。

あいいろのうさぎ

 私は全力でスマホとにらめっこしていた。

 エアコンと石油ストーブの比較記事を懸命に読み込む。

 一人暮らしを始める私に親が渡してくれた(というか押し付けられた)石油ストーブ。電気代がかからないのは良いけれど、代わりに灯油代がかかって、しかも今はその価格が高騰しているのでエアコンを買った方が良いのでは、と思い始めたのだ。でも今は電気代だって高いし、結局どっちの方が安いのかを

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強面な甘さ

強面な甘さ

あいいろのうさぎ

「もういい加減諦めたら?」

「お前に慈悲はないのか」

「ないね」

 そうハッキリ言われると何も返せなくなる。

 学生時代から使っている喫茶店で喜美子に相談を持ち掛けたらこれだ。

「あんたが強面で近寄りがたいのなんて今に始まったことじゃないでしょ?」

「だから困ってるんだろ、ずっとこの顔なんだぞ」

「整形でもしたら?」

「そうじゃない……」

 喜美子に相談した自

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手編みのマフラー

手編みのマフラー

あいいろのうさぎ

 ……さむい。

 怒った勢いで家を飛び出したらすごく寒いし、頭も冷えてきた。でも、家に帰りたくなかった。

 だって、せっかくの誕生日。変身ベルトが貰えると思ってワクワクしてたのに、いざ出てきたのが母さんの手編みのマフラーって、ガッカリするじゃん。俺、今日のために色々手伝ったりして、母さんももったいぶってたから、絶対貰えるって思ったのに。

 いざ出てきたのがマフラーって。

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未来を灯して

未来を灯して

あいいろのうさぎ

 夜はじわりとやってくる。

 投げ入れようとしたティッシュがゴミ箱に入らなくて、結局床に落ちたそれを拾って入れる、とか。録画番組を見ようと思ってリモコンを手に取ったらちょうど電池切れで、うんともすんとも言わなかった、とか。

 日々に転がっている夜の欠片を知らず知らずのうちに集めていて、心は段々翳っていく。

 心の夜の訪れを感じる度に思い出す。むしろ昼間に忘れている方が呑気

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I’ll live for you.

I’ll live for you.

I’ll live for you.あいいろのうさぎ

「おや? こんなところに子供がいるなんて珍しいな」

 そう言われてエミリーは顔を上げました。その声はそれこそ子供のものだったので、エミリーは大人ぶった口調に違和感を覚えました。ですが、見てみるとそこにはやはり少年がいるのでした。

 不思議に思っていると、少年は言葉を続けます。

「このバス停で待っていても何も来ないよ。ここが使われなくなっ

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あの日の夢

あの日の夢

あいいろのうさぎ

「私たちは夢を渡る劇団です。あなたの夜を預けてはいただけませんか?」

 その声を聴いた時には正直、全部幻覚と幻聴なんじゃないかと思った。広い公園だったはずの場所が私の見る限り遊園地になっていて、そこだけ真昼のように明るい。それだけでパニックなのに、突然、紳士が現れて先の台詞を聞かされたのだ。『訳が分からない』それが率直な感想だった。

 彼が私を落ち着かせつつ、ゆっくりと説明

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舞い上がれ、恋心

舞い上がれ、恋心

舞い上がれ、恋心あいいろのうさぎ

 結婚式への招待を断っていつも通りにやってきた公園のベンチからは、見渡す限りの芝生と遠くの遊具で子供たちがはしゃいでいる様子が見える。いつもはぼんやりとそれを眺めているけれど、今日はその手前に風船を膨らませている大人たちがいた。

 何かのキャンペーンなのであろう。風船には白色でロゴのようなものが描かれているけれど、ここからは何なのか分からない。

 日曜日の公

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