記事一覧
【毎週ショートショートnote】みんなで動かない
「僕にさわるな!」
僕は今、全力で生きようとしてる
この先にある幾千の壁を乗り越えるために
僕は今、全力で生きようとしてる
手すりを力強く掴み、僕は上半身を引き上げた
踏ん張る足はおぼつかず、気付けばリビングに敷かれた柔らかいラグに横たわる
もう一回…
上手く言葉にできない思い
「もうちょっとだ! 頑張れ!」
「その調子だよ! 凄い!」
言われなくても頑張ってる
何がもうちょっとなのか知
【毎週ショートショートnote】涙鉛筆
それは不思議な魔法の鉛筆
喜怒哀楽それぞれに
違った色の涙がある
人の心を動かす描写
人の心を震わせる物語
生まれてすぐに出来ること
満ちた生命力から溢れ出る
生きている証の泣き声と
産んだ証の歓喜の涙
積み重ねた努力と経験
流した汗と悔しい涙
限界に線を引いていたのは
思い込み定規と自分自身
それはまるでウソのよう
目元に描く涙鉛筆
頬に繋ぐその直線と
眉が下がれば悲しい涙
怒られた君
【毎週ショートショートnote】ショートショート王様
「本日昼の刻、王宮にて出立の儀を行う」
この世界を統治する王様に勇者として召喚された。目的は魔王討伐である。俺は、これから幕の上がる冒険に期待と夢を膨らませ、王の謁見に臨んだ。
◇
「勇者よ。知っての通り、今や魔王軍の脅威は甚大だ。討伐を依頼したい」
「喜んでお受け致します」
この瞬間を待ち侘びながら俺はこの数年間修行に励んだ。この先に待ち受けるのは様々な試練や多くの仲間との出会い。興奮し
【毎週ショートショートnote】消しゴム顔
「目尻はどんな感じでした?」
被害者の女性は声を振るわせながら精一杯答えていた。私はイライラしていた。
(いつも女性は力の下では弱者…男性のその力は何のためのものだ!)
思い出したくはないだろう。思い出させたくもない。でも、事件を放置すれば次の被害者が出る。絶対に許せない。
「許して、あなたに頼るしかない私を…」
彼女は口を手で塞ぎ、声を抑えながら大粒の涙を流した。毎回痛感する無力感。今
【毎週ショートショートnote】君に贈るランキング
「なになに? ルームシューズとな?」
ここ尾張の地にて、藤吉郎は大名織田信長に仕えていた。もともと藤吉郎は遠江にある松下家に仕えていたが、地頭が良かった為に、その時の同僚から疎まれ退転した。要は贔屓される知識を知ってたのだ。
体格が比較的小さかった藤吉郎は、戦いに向かなかったため、『足軽』ではなく『小物』という職で新たな主君の身の回りの雑用係に当たっており、今は草履取りを勤めていた。
「寒い
【毎週ショートショートnote】1分しまうま
「ばぁちゃん…」
おばあちゃん子だったボクは、祖母の死を悼み、最後の別れの夜を泣き通した挙句、情けないほど腫れぼったい瞼で葬儀の終わりを迎えていた。
ボクは客間に掛けられた鯨幕が外される様子を赤く腫れた目で見ていた。慌ただしく過ぎた葬儀は手際よく片付けられていく。さすがばあちゃんが生前終活準備を完璧にしていただけあって担当業者の仕事が早い。
「十分幸せな人生だったよ」
「湿っぽい雰囲気はすぐ
【毎週ショートショートnote】結婚式ゾンビ②
花嫁は父親と共に、バージンロードを歩んできた。
天窓から差し込む柔らかな光が、今日の主役たちを温かく包む。
彼女の父親は緊張した表情で新郎に娘を託す。
花嫁は至福の時を迎えようとしていた。
「ぐはっ」
「あなたっ、しっかりしてっ」
倒れ込んだ花嫁の父親に駆け寄ったのは花嫁の母親。しかし彼女もまた苦しみながらその場で倒れた。動揺を隠しきれない花嫁は、慌てて両親の元へ向かった。
すると、この2人
【毎週ショートショートnote】結婚式ゾンビ
その記憶は曖昧で、混濁した色
その日は晴れやかで、澄み落ちた色
その姿は華やかで、眩しく病んだ色
その思いは儚げで、虚い響く色
細い糸はこの世の理を紡ぎ
生を慈しむ祈りを綴る
思い女は故の世の術を開き
死を悼む悲しみを刻む
どうして…
眠れる君は優しく微笑んで
どうして…
生きてるボクは苦しく争って
どうして…
去り逝く君はここに居ない
どうして…
とどまるボクはそこに居ない
自然の摂理だと
【毎週ショートショートnote】プロのバナナ①
とある青果店の前を通りかかった時の話。
「美味しいバナナの見分け方は知ってるかい?」
カップルで買い物に来ていた彼氏が、連れの彼女にそう言った。
「え?知らんけど」
彼女は興味のかけらもない様子でスマホを弄りながら適当に答えた。
私は明瞭な2人の温度差にちょっと笑ってしまった。
彼女の冷めた反応では南国のバナナは育ちそうもない。
「実は房の付け根が…」
その反応を全く気にせずに彼氏は説
【毎週ショートショートnote】みんなで動かない②
時は戦国時代、ここ甲斐にある寺子屋『武田学園』で、理事長の武田晴信は頭を悩ませていた。
毎年体育祭のメインイベントである騎馬戦は、とても迫力があって魅力的なのだが、最近の新入武士たちは、泥まみれの競技にあまり興味を示さないのだ。なので、武田理事長は教務主任の山本勘助先生に相談した。
とりあえず新入武士にアンケートを実施したところ、演舞なるものが流行っているとの事。そう言う理由から、創作演舞対決
【3分ショート】カップ麺を待つ間に
「よし!後は待つだけ!」
電気のポットくんはお湯が沸いたことを知らせ、私は彼を持ち上げて蓋を開けておいたカップ麺にお湯を注ぐ。
私のお気に入りは、シーフード味のカップ麺。お湯の量は麺が浸るギリギリで注ぐのをやめ、若干少なめの湯量で待つのがワタシ流の作り方。
ポットくんの口から沸騰したお湯がカップに注がれる。私は仕掛けとしてカップに入れておいた、とろけるチーズに上手くお湯を掛けながら適量注入する
【先々週ショートショートnote】神様時計
「中級天使クロエに、罰として100年間の…」
大天使アリエル様はにっこりと私にそう告げた。私の罰は『時間調律』で、神々が刻んだ時のズレをこの神様時計で調整する。ゼンマイを巻く際に生じる僅かなズレなどがソレ。
時のズレは大きいと、人間界に厄災をもたらす。軍神アレス様なら戦争、海洋神ポセイドン様なら地震や津波、大地の女神デメテル様なら飢饉と言ったところだろう。
正直、こんな高機能な時計があるなら