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新釈 方丈記

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記事一覧

食べる、寝る、それができない。

食べる、寝る、それができない。

みなさんはよく食べてよく眠れているだろうか。
わたしはここ10年以上できていない。

14歳の時に拒食症、18歳から不眠症らしきものと付き合ってきているので、いまさら何をどうすればいいのかわからない。

順番に整理してみよう。

食べる

診断こそされなかったが、今思い返しても拒食症だったと思う。
拒食については世の中に出回っている摂食障害の本などで紹介されている通りのことが起きてきた。食べること

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円い家

円い家。

今日、どんな文脈だったか、友達がその言葉を発した。

それまで完全に忘却の彼方に飛んでいた、ある記憶が蘇った。

それはあまりに遠くにありすぎて、一瞬、私の記憶だったのか、その場で思いついて生成された情景だったのかも分からなかった。

でも、じっくり脳の片隅の一縷の情景を探っていき、たどり着いた。それは紛れもなく私の記憶だった。

ゴツゴツした石造りの壁、しかし中は温もりのある木造りの

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Winter towards myself

あまりにも寒い。夏の暑さと冬の寒さで35度くらいの差が出るのは流石にこたえる。しかしまた灼熱の夏が来るのかと思うと、それよりはいいなと思う。

今年は湯たんぽくらいしか暖房を使っていない。別にケチりたいわけでもないのだが、節約するに越したことはないし、暖をとるのにエネルギーを使ってしまう自分がなんだか情けなく感じてしまう。適温を求めればキリがないし、その度に少しずつ地球を壊してしまうのかを思うと、

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私の価値は

私の価値は

人の価値は何によって計られるのだろうか。
もしくはあなた自身の価値はどのようなものだろうか。考えたことはあるだろうか。

東京にいた頃、私の周りでは人の価値はおよそ年収とか働いている企業の地位とか、経済的にその人物がどれだけ優位に立っているかが重視されていたような気がする。そういう場(商学部)に身を置いていたから、当然といえば当然かもしれない。

今だって大して変わらない。研究者の価値はどれだけ論

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秋の夜長は考えるのに適している

2023年10月21日。
夏は昨日までです!今日から冬に向かって季節が切り替わりました!
とでも言わんばかりに、ひんやりした1日だった。この前まであらゆる動作に滴る汗を伴っていたというのに、今日は上着を羽織らないと寒いくらいだ。気持ちばかり、耳の縁のあたりに刺すような冷たさを感じる。

ああ、また季節が巡ってきてくれたんだ、こんなに嬉しいことはない、ありがとう。
受け取る相手もいない礼を律儀にも言

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我が心、いずこ?

我が心、いずこ?

2023年6月23日

もうすぐ帰国する。最初は永遠に感じられるほど時の経過が遅かったが、過ぎて仕舞えば早いものである。

貴重な20代最後の年を、外国の田舎で、そして調査というなんだかよく分からないもののために費やすとは、我ながらクレイジーである。
クレイジーだが、多分普通の生活を日本でしていては、もしくはただ住んでいただけでは味わえないことをたくさん経験できたはずだ。
学問としての調査はどうな

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友愛という言葉の意味を少しわかった話

友愛という言葉の意味を少しわかった話

友達と3年越しの約束を果たしてきた。ロンドンで会おう、という約束だ。

私も友達も、3年前はお互いに今のように、スペインとイギリスに住んでいた。お互い近くにいるうちに会おう、という話をしていた。

3年前というとピンとくるかもしれない。
その約束はパンデミックという、私にはどうしようもない、あまりに大きすぎる出来事によって脆くも崩れ去った。

そして、今。
偶然にも、私たちはまた、二人ともがイギリ

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私はコウノトリ

私はコウノトリ

寒く、風も冷たい早朝のこと。太陽の国なんて誰が名付けたのかと問いただしたくなるほどに、冬はしっかり寒い。上着を貫いて、冷気が肌を刺す。

寒くなると、スペインのこの地域にはコウノトリが飛来する。鉄塔や教会の塔に巣を作って、嘴をカタカタと鳴らしてパートナーを呼ぶ。この日も高圧線の鉄塔の上に、コウノトリのシルエットが見えた。

コウノトリは人知れず家庭を育んでいるのだろうと思って歩いていると、村の老人

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disconnected

最近はいろんな手段で音楽を気軽に楽しめるようになったものだ。
スマホがあれば、各種サブスクリプションサービスから、好きな曲を聴ける。レンタルショップに行ってCDを借りるということも、めっきり減ってしまった。

それでも、私はウォークマンが大好きだ。

ウォークマンを初めて持ったのは13歳の時。お祝いでもらったのが最初だった。当時は音楽を聴くという習慣のなかった私にとって、いつでもどこでも音楽を聴け

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月明かりの下、私と私の弁証法

なんだか温かい国というイメージがあるスペインも、冬はしっかり寒い。片田舎だからか、相当な数の家に暖炉があるとみえて、外を歩くと煙の匂いがたちこめている。村の外に出ると、どこか遠くで、チェーンソーで丸太を切って薪にしている音が聞こえる。私にとっては慣れない冬の風物詩といったところだ。
私の家は100年くらい前に作られた家の、元々は家畜の食べる干草を入れておくためのスペースだったそうだ。今はなぜか日本

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a fractal

クリスマスイブ。スペインのイブの挨拶はFeliz Noche(フェリス・ノーチェ、幸せな夜を)だ。
今年は土曜日が24日なので、金曜日、23日には土日にはもう会うことがないだろうという人にはフェリス・ノーチェと言い合う。ちょうど、年末に「良いお年を」と言い合うようなものかな、と感じる。テレビからはクリスマスの宝くじの当選の様子が延々と繰り返される。

スペインの片田舎では、これでもかというくらい飾

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生きやす(にく)さ

スペインに来て、5ヶ月が経過した。昔に滞在した時間を含めると、もう累計1年以上になる。こんなに海外に住んでみることになるとは、5年前には全く思っていなかった。そしてパンデミックが始まった2年前には、またスペインに戻れるとは思っていなかった。

以前も秋から冬、春にかけて滞在した。その季節をなぞるように、ああ、この地の秋は、冬は、クリスマスはこんなものだった、そうそう、これだこれだ、と思いながら過ご

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窓一枚分の世界

窓一枚分の世界

日本を離れ、早くも5ヶ月が経過する。日本のような年の瀬の慌ただしさはここにはなく、クリスマスに向けてほどほどにボルテージを高めて、ほどほどに楽しみにしているような気がするのはここが小さな村だからなのかもしれない。それでも遠くの家族が帰ってくるからとクリスマスのディナーのことばかり考えている人も少なくない。



ここにきて、大きく体調を壊した。胃が固形物を受け付けず、水も飲める気がしないので口を

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港と祖母と天草と

港と祖母と天草と

三年ぶりに地元で正月を過ごす。

昨年は帰省を控え、一昨年はスペインで年越しをした。
3年ぶりだと、正月ももはやフィールドワークである。

今年で86歳になるおばあさんは、昔のことをよく覚えている。
きょうは、おばあさんが小さかった頃、テングサをとっていたころのはなしを聞いた。

もう80年近く前のことだろう。おばあさんは小さな港町に生まれたので、海とも親しんで暮らしていた。

おばあさんの母、私

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