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【小説】回想、あるはなについて(1) 山百合
「不完全なワンダーランド」にでてきた妖怪はなの過去話。読んでいたほうが分かりやすいですが、少し文字数があるのでお暇なときにどうぞ。
妖怪と一人の少女の花にまつわる友情物語。
「ああ、もうこんな時期?」
着物姿の少女は足を止めた。鼠色の衣が風に揺れる。見渡す限り広がる田畑のあぜ道に赤い花がぽつぽつと咲いている。冠のような特徴的な花弁が空に向かって開いていた。
「はな様?」
少女の足元から成
【小説】回想、あるはなについて(2) 朝顔
前作「回想、あるはなについて(1) 山百合」の続きです。
「不完全なワンダーランド」にでてくる妖怪はなの過去話。
下級武士の娘、一女と知り合ったはなは見せたいものがあるから泊まりに来ないかと誘われたが、返事を保留にしていた。そんなとき仕えている影から新たな住処が見つかったとの報告がありそこに向かうことになる。
「ここがその村?」
ぐるりと見渡してはなは呟いた。点々と存在する茅葺屋根の家は埃
【小説】回想、あるはなについて(3) あんず
前作「回想、あるはなについて(2) 朝顔」の続きです。
第一話はこちら
不完全なワンダーランドにでてくる妖怪はなの過去話。
森で知り合った下級武士の娘一女とは、はなにとってこれまでの誰よりも仲のいい友達となっていた。
二人の交友は数年経っても続いていたが――
それから何年も経ち、野山を駆け回っていた少女は畏まった言葉遣いを身につけ、背もぐんと伸びた。いや背に関しては伸びすぎて、身長の低い男な
【小説】回想、あるはなについて(4) 枯草
前作「回想、あるはなについて(3) あんず」の続きです。
はなの正体を知ってもそれを受け入れ仲良くしてくれる一女だったが、そんな折不穏な情報がもたらされる。
「不完全なワンダーランド」にでてくる妖怪はなの過去話。第一話はこちら
何者かの気配を感じて顔を上げると、森の中から兜巾を被った男が登ってくるのが見えた。錫杖をつき、大きな法螺貝を抱えている。歩く度に結袈裟についた丸い梵天が揺れた。
「山
【小説】回想、あるはなについて(5) 桃
前作「回想、あるはなについて(4) 枯草」の続きです。
「不完全なワンダーランド」にでてくる妖怪はなの過去話。
さらに数年経ったある日、はなは一女にある重大な話をされる。
第一話はこちら
「はな、ちょっと大事な話があるんです」
「どうしたの?」
天に真っ直ぐ伸びる背はいつもより凛として見えた。はなは団子を一つ、口の中に放り込んで一女を見上げる。彼女は芯があるよく通る声で一言告げた。
「私