マガジンのカバー画像

MyTreasureBox

409
私の宝箱。共感するって思ったnoteのアーティクル達、勝手にまとめさせて頂きます。迷惑だったら言ってね。 週に2、3個くらい発見したいなって思ってます。なお、もっと好きだと思った… もっと読む
運営しているクリエイター

#短編小説

【小説】 たった一人で泣いていた 【ショートショート】

【小説】 たった一人で泣いていた 【ショートショート】

 32型の液晶パネルが映す平穏な暮らし。食卓を囲む家族の会話。学資保険とリスクマネジメントされた資産形成。快くすべてを受け入れてくれる隣人。優しさを欠かすことのない母親。暖かく理解のある父親。月に二回の家族ドライブ。見栄を抑えた新車のアウディ。スマートウォッチに委ねる心拍数。データ化された健康。朝に響くスムージーを作る音。
 そんなものが誰にでも、当たり前に手に入れられる世の中。
 隔たりもなく、

もっとみる
生きることが仕事だから

生きることが仕事だから

先日のGW、この状況下ではあったが少しだけ外に出かけた。

相も変わらず体調が悪い日々が続いていた。いちばん過ごしやすい季節なのに、家にこもって申し訳程度の掃除や洗濯をし、昼はめしと味噌汁、真空パックされた煮魚といったものをもそもそと食べる。その間も二十分のトイレや服薬をしながら。

夕方、相方が仕事から帰ってくると、やはり昼と似たようなおかずで夕めしを、相方の仕事の愚痴に頭半分だけ付き合いながら

もっとみる
【短編小説】愛だった【閲覧注意】

【短編小説】愛だった【閲覧注意】

これ程幸せを感じることはない。俺の手が彼女の手と握り合っている、腕の断面が綺麗だ、これが最終的な愛の形だと俺は思いゾクッと脈が上がるのを感じた。

ことの始まりは、新しく出来たファミレスだった。軋むことのないトイレのドア、駐車場に引かれた白い線でさえ真っ直ぐで、働く俺の門出を応援してくれるようだった。

接客業が好きな俺は、このファミレスで面接を受けようと思った。新しく出来たレストランなので人手不

もっとみる
ちゃんと所長になってくださいよ #また乾杯しよう

ちゃんと所長になってくださいよ #また乾杯しよう

ある日、厳かな所長室に呼ばれた私は、思わず自分の耳を疑った。

「もう一度仰ってください」

いつも困った顔をしている所長に向かって、私は生意気度120%で迫って言った。
所長は更に眉をハの字にして、申し訳無さそうに直前の言葉を繰り返した。

「船石さん、B店に異動です」

破壊力抜群すぎて、私は目の前が真っ暗になった。

営業所の異動なんてよくある話だけど、その時の転勤は実に不本意なものだった。

もっとみる
女子会なんて抜け出して、給湯室でキスがしたい

女子会なんて抜け出して、給湯室でキスがしたい

男社会の周縁で夜な夜な繰り広げられる無法者たちの宴、いわく「女子会」ですらゆきずりの愛は肩身がせまい。



「A子、自分のことは大事にしなよ。」

「…わかってるよ。」

ガラスの天井を見上げながら入社後平行線の報酬を噛み締めて若さを消費するわたしたちの味方は白いサングリア。

社会の中心に居てはおれないわたしたちだからわざわざこんなところに集ったのに、だからこそなのか中心のはしっこにくらいに

もっとみる
積み上げた情熱の重みで全身麻痺の様相 ¥100

積み上げた情熱の重みで全身麻痺の様相 ¥100

自作の自由律俳句を表題に短編を書く。
五作目。約5400字。

「積み上げた情熱の重みで全身麻痺の様相」

セックスなんて大嫌い。
なんてことを考えるのはセックスをしている時だけで、つまり今は事の最中だ。ここは都内のラブホテルの一室で、私は硬くて変な臭いのするベッドの上で男に全身を揺すぶられている。ベッドはぎしぎしと耳触りな音をたて、男の動きは段々激しくなっていく。私はこの苦痛な時間が早く終わるこ

もっとみる
知恵の輪が歪んでいる

知恵の輪が歪んでいる

自作の自由律俳句を表題に短編を書く。
七作目。約2400字。

「知恵の輪が歪んでいる」

目が覚めた。
開けっぱなしのカーテンの外は真っ暗で、手探りで掴んだ目覚まし時計の針は寝入る前に確認した時間から三十分しか進んでいない。
進まない時計に怒りが込み上げてくる。身体を起こし、渾身の力でその憎らしい物体を握りしめてみても、秒針が無神経な音をたて続けるだけだ。
カチ、カチ、カチ、電池が切れるまで途切

もっとみる
エンドロールに母の名は

エンドロールに母の名は

 一概に映画のエキストラと言っても、その役割は実に様々。自然な空気感を演出する者、映像に僅かな違和感を生み出す者、それらは一つの作品をより洗練された所へ導く為の、重要な担い手であると自負する私である。
だから先日、母に語った「映画俳優の卵」という自らの現状についての説明も、不本意ではあるものの決して誇張だとは思わない。
しっかり卵と言ってあるし。

 だが恐らく母は気付いているのだろう。今の私の生

もっとみる

人間らしさ

 私は、人間らしさという言葉が嫌いです。

 人間らしさ。なんと害悪な概念でしょうか。人が人間として生まれてきたのは偶然なのに、人間であることを、正しい人間であることを、まさに強いてくるんですから。

 人間ならこうあるべき。人間としてどうなんだ。そういった言葉で他人を縛ろうとするのは、男ならこうあるべき、女としてどうなんだ、と言って、他人を裁こうとすることと同義です。肉体的な性を、自らの意志で選

もっとみる
彗星

彗星

 天文学者たちによって世界の滅亡が宣告された。彼らの計算は、彗星がこの惑星に衝突するのがほぼ確実だとはじき出したのだ。それが衝突すれば生物のほぼすべてが絶滅するという。運動法則や万有引力の法則に誤謬がなく有効で、天文学者たちの計算が完璧であればの話だが。まあ、そこに間違いがある確率は万に一つ、宇宙空間において任意の彗星が任意の惑星にジャストミートする確率よりかなり低いということだった。
「衝突と

もっとみる
【小説】 圭くんのリコーダー

【小説】 圭くんのリコーダー

 僕の友だちの圭くんのおうちは、ちょっと複雑なおうちだ。
 お母さんが、刑務所にいる。オトコトモダチと詐欺を働いて、警察に捕まったらしい。
 今から3年前、僕たちが小学3年生のときだ。

 その話を聞いたとき、僕のお母さんは一言、
「やっぱり。やりそうだったものね、あの人」
と言ったのを覚えている。僕のお母さんは、圭くんのお母さんのことが嫌いだった。

 僕も、いつも公園に迎えに来る圭くん

もっとみる

人形はいりませんか?

私は、二十一歳の女性で、いちおう大学生です。
容姿について、顔は人並みだと思います。
私に好意を持ってくれる男子からは、かわいかったりきれいだったり見えるようですが、逆に、敵意を持っている男子から、ブスと言われたこともあります。
ただときどき、中高大で一人ずつくらい、私の顔がすごくきれいで大好きだと熱心になるファン的な女の子がいましたので、私の顔立ちが特に好みに合う方もいらっしゃるかもしれません。

もっとみる

続・人形はいりませんか?

先日、noteにアカウントを開設し、人形はいりませんか? という文章をupした。はてなやアメブロと比べれば、noteの方が適当と思われた。出会い系サイトやマッチングアプリにはもっと適切な場所があるのかもしれないが、全く不案内であり、トラブルに巻き込まれるのが怖かった。
noteについては、以前、お付き合いしていた彼から勧められたのがきっかけで、半年ほどアカウントを持っていた。その彼と交換日記でもす

もっとみる
【短編小説】コスモス畑と秋の風 #同じテーマで小説を書こう

【短編小説】コスモス畑と秋の風 #同じテーマで小説を書こう

後ろから由衣の声が聞こえた気がした。振り返ってみたけれどそこに彼女の姿はなくて、見知らぬ女性が3人はしゃいでいる姿が視界に入ってきた。そのうちの1人はギターケースを背負っていた。その姿は彼女に似ても似つかないのに俺は自然と由衣と初めて会ったときのことを思い出していた。

俺と由衣が出会ったのは、とあるビルの地下だった。

得意先との商談に初めて1人で赴くことになった。いつも上司とこなしていることを

もっとみる