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【作品】ここだけのお話(だいたい無料)

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詩作品/エッセイ/書評ほか(note限定で公開、雑誌からの転載含む)
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#詩人

神様の存在を信じたくなるとき――イ・ラン『神様ごっこ』について *追記あり

神様の存在を信じたくなるとき――イ・ラン『神様ごっこ』について *追記あり

*2016年11月に執筆したエッセイです。

 黒い服を着た女性の端正な横顔の写真。ふしぎな表紙の本、と思って手に取ると、アルバムだった。歌のCDと、エッセイが収められているらしい。『神様ごっこ』? その場で試聴した歌に妙に惹かれた。柔らかな抑揚で結ばれていく韓国語の歌声が、秋の始まりにぴったりだと思った。

 夜、家で彼女の歌を聴きながら、付属冊子のエッセイを読み始めた。作者のイ・ランは一九八六

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終わりのない回遊魚たちへ

終わりのない回遊魚たちへ

 友人が会社を辞めてフリーランスになった。上昇志向の彼は、度々業界への不満をこぼしていたし、彼が「無能」呼ばわりする上司への愚痴を聞かなくて済むと思うと、異業種の私までホッとした。さっぱりした様子の横顔に「職場の人間関係しんどそうだったもんね」と話を振る。すると、「決定的な理由は実は違って。初めて仕事のストレスで体調を崩したから」と切り出された。退社までの数週間、胃炎で一時通院していたらしい。

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アウェイ上等、スルーしない覚悟のマイライフ

アウェイ上等、スルーしない覚悟のマイライフ

「その気持ち、シェアしよう」と呼びかけてくるFacebookのホーム画面に萎える。シェアできるお気持ち、ねーから。そういえば、某青春ドラマの「オメーの席ねーから!」という過激なセリフが流行ったのは二〇〇〇年代後半のことだった。通学バスの最後尾を陣取り「席ねーから!」「ねーから!」と爆笑する女子集団から逃れ、高校一年の私は二つ折りの携帯電話をお守りのように握りしめていた。

 当時何より恐れていたの

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名もなき時間を歩く

名もなき時間を歩く

 日記を書き続けている。「これを書いて何になるのか」という疑念はとうに尽き果てた。未整理な日々の記録がクラウドメモに積もっていく。考えてみて欲しい。二〇一〇年にスタートした『一〇年日記』のうち、二〇二〇年に無事たどり着いたものはいったい何冊だろうかと。日記の持ち主は、地震にもウィルスにも負けず、元気に三日坊主している。そう信じよう。

 オンライン会議中、仕事相手のこんな話が気になった。「緊急事態

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17歳のわたしへ。この夏で27歳です。

17歳のわたしへ。この夏で27歳です。

明日から長月。新学期が始まる中高生の子たちのことを思って過ごした。
大人は「諦(あきら)めるな」「頑張ればできる」と、あなたへ言うかもしれない。あなたが苦しんでいる最悪なときに。でも、諦めたことのない大人なんていません。みんなちゃんと、色んなことを諦めて「大人」になっています。
 
「あのとき諦めなければ…」と弱い大人は無意識に後悔しています。だから若いあなたを見つけると、余計な励ましの言葉をかけ

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言葉から意味を剥がす/詩と予言

言葉から意味を剥がす/詩と予言

最初の記事で宣言した通り、「わたしの現代詩ノート」は、主に資料の引用、ときどき日記以上・エッセイ未満の読みものを想定している。
色んな人が過去/現在「詩」について書いていること、イベント等から見聞きしたこと、それに対する私の感想もあればたまに添えようかな、ぐらい。
「引用だけで、お前の意見はないのかよ?」という反応を受けそうで怖いのだが、あんまり「文月悠光が何かやっている」という印象を与えないよう

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「孤立」についての覚え書き

「孤立」についての覚え書き

年に一回だけ、同じ占い師さんに仕事のことを占ってもらっている。
その人は客を励ましたり褒めたり一切しない。良いことも悪いことも淡々と伝える方なので、行ったところで悩みが晴れたり、安心したりすることはない。むしろ盛大にモヤモヤさせられる。そういうところが唯一気に入っている。

今月、1年ぶりに占いに行ったら、話の文脈は伏せるけど、「このまま流されていると、来年の夏に孤立してる」「誰にも見られていない

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「わたしの現代詩ノート」は、独りよがりな実験である。

「わたしの現代詩ノート」は、独りよがりな実験である。

詩から孤立しないように、詩について何か書いておきたいと思ったのでした。

孤立の中に詩があるというのに脆弱な、という意見もあるだろうけどね。
おまえが孤立してるのは○○(世間、とか業界的な何か)からだろ! という突っ込みも脇に置いておくよね。

○「わたしの現代詩ノート」について
「わたしの現代詩ノート」と名づけて、詩について書くマガジンをはじめてみることにした。
穂村弘さんの『ぼくの短歌ノート』

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生まれ直すために――「別れ」について

生まれ直すために――「別れ」について

 桜が散ってしまう前に読んで欲しいお話です。
「詩と思想」2017年3月号に、〈別れ〉をテーマに書き下ろしたエッセイです。

 私はいつも言葉を探す。
 私に「私」という、魂の重さを与えてくれる言葉を。

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   生まれ直すために

 毎年桜の花を見るたびに、涙を思い出す。別れのときに流した涙のことだ。

 満開の桜を眺めていると、宇宙や遠い

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「オールナイトニッポン」オーディションに挑戦する理由

「オールナイトニッポン」オーディションに挑戦する理由

【告知】オールナイトニッポンのオーディションに、劇作家の綾門優季さんと挑戦します!!https://live.line.me/channels/180209/broadcast/923113

◆お願い:動画の視聴数、ハートを押された数が選考対象です🙇再生中ハートは無制限に押せるので、連打するしかないね!!😇
▶︎動画はコチラ
https://live.line.me/channels/180

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認めなければ、はじまらない ―2016年の終わりに

認めなければ、はじまらない ―2016年の終わりに

おかげさまで、2016年は2冊新刊を出すことができました。
初めてのエッセイ集『洗礼ダイアリー』と、3年ぶりの新詩集『わたしたちの猫』。どちらも、これまでの人生25年間に感じ取ったことを総括するような、大切な1冊となりました。
力を尽くしてくださったポプラ社、ナナロク社の編集者の方、
そして読者の皆さんの存在なしには、出来上がらなかった本です。

11月に入ったとき「やっとここまで来た…」と、布団

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【番外編vol.2】私は詩人じゃなかったら「娼婦」になっていたのか?裏話

【番外編vol.2】私は詩人じゃなかったら「娼婦」になっていたのか?裏話

 このnoteは、cakes掲載のエッセイ「私は詩人じゃなかったら「娼婦」になっていたのか?」の番外編vol.2です。

 なお、cakesのエッセイは、無料公開を1週間に延ばして頂きました! 8/31(水)午前10時まで無料で読めます。それ以降も、1週間無料のお試し購読か、有料会員に登録すると、最後まで読めます。

▶︎第9回 私は詩人じゃなかったら「娼婦」になっていたのか?
※8/31(水)午

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【作詞】うたう島

【作詞】うたう島

お誘いを受けて、楽曲「うたう島」の作詞を行いました。
歌の動画と合わせて、ご覧ください。

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   うたう島

             文月 悠光 

呼吸する朝
ひとすじの風をかなでて。
島から島へ わたし
その響きにつらなって
海の息吹をうたうから。

この世は
あなたとわたしの島でした。
届きたい人がいる。
あなたの島へ渡るため
いま海を歩きだす

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【連載・番外編】不敵な女優と、臆病な詩人のボクシング体験

【連載・番外編】不敵な女優と、臆病な詩人のボクシング体験

 cakesにて連載中の〈臆病な詩人、街へ出る。〉。こちらnoteでは、連載の番外編を写真と共にお届けします! 本編と合わせてお楽しみください◎

▶︎第8回 鏡の向こうにストレートを一発 ※6/16(木)まで無料
https://cakes.mu/posts/13199

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 恋愛音痴( https://cakes.mu/po

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