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バケツの水と水面の映し返し
バケツの水が溢れる。
だがその直前までは、どれほどの量の水が溜まっているかわからない。容量を超えて外へ溢れ出した時に、初めてその量を知る。
バケツの中身は水だけとは限らない。底には石や砂、そのほかにもさまざまなものが堆積している可能性だってある。
人も同じだ。表面に現れている言動だけを見ても、内面に蓄積された過去を理解することは難しい。
少しでも知りたいと思うならば、その人の体験に寄り添い、心に
【読書】人生の段階/ジュリアン・バーンズ
死が最愛の人をさらう。
その瞬間から、毎朝目を覚ますことが、生きていくことそのものが壮絶な試練になる。
「不在」の影を、常に隣に感じながら生活を送ることになる。
「人生の段階」
本書は、著者のバーンズが、妻の急逝から5年後に著した作品だ。
悲嘆にくれるというよりは、どちらかというと淡々とした、抑制的な語り口でつづられていた。
だが、その語り口からはかえって、破滅的な衝動と紙一重のような危うさが
【読書】"The Ice Palace"(氷の宮殿)/Francis Scott Fitzgerald
音楽的な文章、というものがあるとすれば、この小説のことだろう。
はっとするような美しい表現の中に織り込まれた少しの冷やかさや憂鬱さ、反芻したくなるような読後感を残すリズミカルな波長、そういったものを備えた文章があるように思う。
◇◆
"The Ice Palace"
この小説を手に取ったのは、村上春樹さんによる邦訳版を読んだことがきっかけだった。
冒頭部分を読んで衝動的に、原作も読みたく
【自己紹介】noteを始めて1か月。読書と発信内容について。
改めまして(初めまして)、mieこと岸本実枝と申します。
読書が大好きな、20代後半のOLです。
自己紹介をしないまま書き始め、初投稿から約1ヶ月が経ちました。
この機会に少しだけ、自分自身について書いてみたいと思います。
プロフィール大学を卒業後、民間企業で働いています。
2021年秋から、編集者・ライターの仕事をしています。(2021.11追記)
趣味は読書です。
小説から実用書までジ
【読書】『ホリー・ガーデン』江國香織
― 名もない感情に名前をつける。
はっきりと美しいわけでもなく、はっきりと醜いわけでもない。
どっちつかずの思いや煮え切らなさに、静かにスポットライトを当てた、心の揺らぎを愛おしむような作品だ。
本書は、幼いころからの友人同士であり、共に30歳を目前にした二人の女性の物語である。
恋愛、仕事、生活、互いへの思いが、それぞれの目線を通して描かれる。
二人の友情は、この物語のある種下地としての
【読書】『自閉症の僕が飛び跳ねる理由』
なんと繊細で、省察に満ちた文章なのだろう。
図書館の棚で見つけて手に取り、読み終えるまで、動くことができなかった。
障害に伴う様々な困難やそれに対する歯がゆさ、家族への感謝と愛情、それらを余すことなく伝える豊かな表現に、ページをめくりながら何度も胸が熱くなった。
既に世界的ベストセラーとなって久しい本書だが、自身の記録も兼ねて、書き留めておきたい。
『自閉症の僕が飛び跳ねる理由』
本書は
【読書】『村上さんのところ』村上春樹
村上春樹さんの小説を読むと、心の奥深くに触れるような文章に出会い驚かされることが多々ある。
『村上さんのところ』
本書は小説ではなく、読者から寄せられた質問に村上春樹さんご本人が答えていく内容だ。
全部で473件載っているが、どの回答も、読者のことをとことん想像しながら書かれていることが伝わってくる。
何かに行き詰まった時、その気持ちにそっと寄り添いながら別の視点に気づかせてくれる、そんな一
【読書】修復的司法に関する本2冊
「ケーキの切れない非行少年たち」のベストセラーに見られるように、非行に至る以前の発達障害、認知のゆがみ、環境的要因などへの理解が浸透しつつあるように思う。
私も最近それを知りつつある一人だ。
(「ケーキの切れない非行少年たち」については既にnoteでたくさんの記事が上がっているためここでは省略する。)
ただ、こうした本を読むにつけ、犯罪は刑罰を科して終わりではなく、被害者の身体的・精神的・経済
【読書】『家族脳』子供の脳を知ると、その行動はこんなにも違って見える
成長することの代償だろうか。
子どもの頃に見ていた世界、流れていた時間を忘れてしまう。
道理を会得するにつれ、わが子の道理が見えなくなるとは切ないものだ。
ただ目の前のことに夢中になる体験が、かつて私たち大人の脳の成熟にも必要不可欠だったというのに。
子供のいたずらも、夫の共感力の無さも、脳科学的に見ればとても大切な特徴。
そのことをわかりやすく教えてくれる。
くすっと笑えて優しい気持ちに