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うまいこと他人には言えないような心の機微を一つひとつ摘み取って並べてできたもの。
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くもり時々炭酸シャワー

くもり時々炭酸シャワー

なりたかった私はどこへ
手を伸ばした瞬間
いつもシュワッと消えてゆく

「今日の天気はくもり時々炭酸シャワー。
お出かけの際はカッパを忘れずに。
弾けて消えないようご注意ください」

何人もの私を見送ってきただろう
これが最後なんて決められなかった
こわかったのは私
どんな自分にも自信がなかった

でもほら空を見上げると
浮かんだ泡の数だけ“夢”が
出会いと別れみたいに
くっついたり離れたりしなが

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詩「杞憂」

詩「杞憂」

大切なものが増えて臆病になった

手の届くところにいないと
憂いはなんて果てしなく
その先には一番見たくないシナリオ

失うことを恐れる心が
なにかを必死で守ろうとする

だって私は弱いから
愛する人を守れなかったら
いつまでもいつまでも後悔するでしょう

ひとたび哀しみの津波に飲み込まれたら
きっともう浮上できない
私の時計は完全に止まってしまう

雪が解けて 春が訪れても
ずっと水の底
止まっ

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詩「砂糖菓子の祈り」

詩「砂糖菓子の祈り」

わたしのこころは
どうして砂糖菓子のように
もろく 甘く 繊細なのだろう

ほんのすこし 
風に吹かれただけで
ほろほろと崩れてしまう

一滴にうたれれば
穴があき 音もなく
溶けて消えていってしまう

神さまはどうして
わたしをこんなふうに
おつくりになったのだろう

わたしはどこを向いていればいいのだろう

愛がこわい
愛する者を手放す恐怖に
夜もねむれず おびえている

不確かな未来に
悪し

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詩「枯葉たちの音」

詩「枯葉たちの音」

パチパチパチパチ……

枝から離れた枯葉たち

パチパチパチパチ……

肩や背中をたたき合いながら

くるくるくるくる落ちてゆく

パチパチパチパチ……

“今年もお疲れさまでした”

“また次の春に 
新芽になって会いましょう”

短歌とメッセージ「アラート」

短歌とメッセージ「アラート」

直属じゃないけど、新卒で今年入社した子がもういっぱいいっぱいになった。

涙、身体の硬直…まじめな彼女はそれでも職務に戻ろうとする。
そこに、人を見ず職員としての義務を優先させる管理職…

なぜ、まじめな人間がいちばん苦しむ羽目になるのか。

こんな組織、こんな世の中おかしい。

彼女に言いたい。

詩「文字に帰る時間をください」

詩「文字に帰る時間をください」

会話の波に揉まれて
岸に打ち上げられた
ビニールのように
わたしはクタクタだ

文字の中にある 
安らぎ

幾度も幾度も
反芻できるから
好きだ

人の数だけ
解釈をゆるしてくれるから
好きだ

間違っていても
やり直せるから
好きだ

文には人が表れる
誰かの心に触れる瞬間が
とても好きだ

文字の中には
安らぎがある

と同時に 
剃刀の刃が
仕込まれていることも 
ある

詩「それから」

詩「それから」

今が過去に流れていく 

「それから?それから?」
急かされるように今日も過ぎてゆく

いったいいつから
誰に
急かされるようになったのだろう

鏡を見つめる

いくつ歳を重ねても
変わらない何かがある
くすぶる灯心を揺らしながら
絶えぬ想いは命と共に

ゆっくりと目を閉じる

「それから」の続きはいつだって
まっすぐに未来に向けられている
出会った人の数だけ
夢と憧れを詰めこんで

目を開けると

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詩「感情はウソをつかない」

詩「感情はウソをつかない」

フタをしてはいけない 
いやなことがあっても

あなたのその感じていることに
フタをしてはならない

あなたが感じていることに
「正しい」も「まちがい」もない

感情はあなたの大切な一部
あなたにとってかけがえのないもの

なぜなら感情はあなたをそだて、支えてゆく
折れないようにしなやかに
叩かれようにしたたかに

あなたの枕をぬらす涙も
あなたと一緒に育っていきたい

ひとつひとつの感情があなた

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詩「静かな朝」

詩「静かな朝」

振り返ると静かな朝があった

煙突から煙モクモク

珈琲コポコポ

ずっと遠くで電車ガタンゴトン

こんなに静かな朝があったとは

洗濯物のシワを伸ばしながら

手元の時計は午前8時

ラジオから流れる低いビート

一年に1度あるかないか

朝の静かな時間を切り取って眺めてみる

いつまでも眺めていたい

ふぅ

何年か振りにため息をついた気がした

詩「陽だまりの記憶」

詩「陽だまりの記憶」

その毛糸の編み物には
黄色を選んだ瞳と紡いだ手とがあった
知らず知らずの内に包まれていた
陽だまりの様な眼差しに

泣いて泣いた試合の帰り
ベンチで待っていてくれたあの人
ホッとしたら
お腹が空いていたことに気付いた

沈む夕日にあんなに心がふるえたのは
隣にいたのが君だったから
宵闇に紛れて
繋いだ手を引き寄せたかった

てがみ テガミ 
いろんな手紙があったけど
あの時 あの字で綴られた 

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