雨森れに

物書き。 ショートショート、怪談、純猥談、エッセイ、詩など。いろんな『ブンゲイ』に挑戦…

雨森れに

物書き。 ショートショート、怪談、純猥談、エッセイ、詩など。いろんな『ブンゲイ』に挑戦中。 連絡などはDM解放してあります。 Twitter:https://twitter.com/rainy02forest 詳細:https://lit.link/AmamoriReni

マガジン

  • 記憶の紙魚

    雨森が集めた怪談。 こっそり怪談イベントの感想も。 ※朗読や語り利用されたい方はご連絡ください。 内容の肉付け含め相談OK。勉強中のため無償です。

  • ドライブレコーダー・プール

    書かない日を作らないための悪あがき。 拙いバタ足はいつかクロールを泳ぎ始める。 日々の衝突を記録する。

  • 御手々結び

    手指にまつわる怪談噺卅話。 手の仕草が呼び込んだのは、こんな物語だった。 -ほら、離れないよう手を繋いで。 -それは祈るように指を折っていた。 -その時に初めて気が付いた。触れられないのだ。 あなたの手指、本当にあなたのものですか? 1、手をつなぐ 2、指切り

  • 猫塚

    猫の声が耳から離れない。 ある時から始まった怪異。 きっかけは恐らく自分だと話す提供者。 都内のある家で今も続く恐怖とは。 『とにかく猫を絶やすな。可愛がれ』という言いつけの意味は。 ※3名の提供者から頂いた話を創作を混じえてまとめました。 ※初めての長編(連載)なのでご意見頂けたら幸いです。

記事一覧

小指の所在 上

林田くんはコンビニ店員だ。 フルタイムでシフトに入り、主に深夜帯で勤務していた。 慣れているとはいえ、客足が遠のく午前三時あたりになると眠気がやってくる。 防犯上…

雨森れに
4か月前
11

知らない家族

前上さんは古物商の真似事をしていた。 古いものを買っては、フリマアプリや本物の古物商に持ち込み、金を稼ぐ。 ある時からはホームレスに換金すると声をかけて、協力して…

雨森れに
4か月前
17

狸虫

かな恵さんは、小学校に通う歳になってもおもらしが直らなかった。 それもいわゆる大のほう。 排泄は便所でするものだと頭では理解しているのに、いざとなると体が動かない…

雨森れに
4か月前
6

10/26 23:05 繭を作る眠りへと

定期的に過眠気味になる。 今がそうだ。 予定がなければ大体12時間近くは寝ている。 もちろん起きいればやりたい作業は山積み。 アラームをかけても起きれない。頭に血が回…

雨森れに
6か月前
6

えべっさん

漁師町で生まれ育った洋祐さん。 子供の頃から父親のような漁師になると心に決めていて、父親や漁師達と一緒にいる時は海の話を聞いていた。 そんなある日、聞いた事のない…

雨森れに
6か月前
18

9/27 4:44 意地と煌めきを不調で考える

インドカレー屋さんのナンが美味しかった。 後回しにしていた洋服の整理をした。 いつもより早い時間に洗濯をして、お風呂を準備した。 それだけで、今日は少し嬉しい日に…

雨森れに
7か月前
9

抱卵を諦めるオシドリ

若かりし頃、避妊を失敗して産婦人科に駆け込んだことがある。 アフターピルの副作用に苦しみながら「もし受精していたら私は人殺しかもしれない」なんて考えた。 妊娠しな…

雨森れに
8か月前
29

7/5 18:33 ワンピースひるがえして

気付けば雨の季節が終わりかけているのでは。 部屋に満ちる湿気と雨音で目を覚ますより、じわりと暑い空気と日差しで起床する。 例年通りなら7月中旬頃に梅雨が明け、真夏…

雨森れに
10か月前
8

4/5 17:55 昨日見た夢を覚えているか

私は沢山夢を見る。これは睡眠のほうの。 1回の睡眠で長い夢を見るけど、大体は前に見た夢の続きだったり再放送。 睡眠時間が長ければAの夢とBの夢を交互に見る。 そのうち…

雨森れに
1年前
4

4/3 9:36 ハッピーを喰らう

明るい感情に上限があるのを、感じたことはないだろうか。 暗い感情は底なしで、いつまでも負の世界に引きずり込むのに。 楽しい、面白い、幸せ……などは一定以上スパーク…

雨森れに
1年前
5

オツトリさん

達明さんはスノーボードが趣味だ。 7年前の冬。 有給休暇を使って4連休を作り、スキー場近くのペンションを予約した。 お世辞にも綺麗と言えない宿だったが、その分安く済…

雨森れに
1年前
16

3/15 18:52 南京玉すだれの前髪

前髪がスダレみたいになっている。 束感といい、ツヤ感といい…… いや。クセ毛だから南京玉、をつけたほうがいいかもしれない。 朝のスキンケア後に対策しなかったからこ…

雨森れに
1年前
6

3/3 18:52 生死をループしようと思った妄想

私が死んだ日。 夢を見ていた。 夢の中で夢を見て、さらにその先でも夢を見た。 戻ろうと思っても戻り方がわからず、現実味のない世界で「ここは現実じゃない」と思いながら…

雨森れに
1年前
15

2/22 23:25 いつもの海原で

書くという原動力は何だっただろうか。 思い出せば、いつも感情だったように思う。 何かにすがらなくては息ができないと、苦しさで物語を紡いだ。 酸素を取り込んで吐き出…

雨森れに
1年前
5

開花

香純さんはおばあちゃんっ子だった。 土日になればおばあちゃんの家に行きたいと言い、行けば帰りたくないと駄々をこねた。 おばあさまのほうも、香純さんが初孫ということ…

雨森れに
1年前
10

白みくじ

酉の市を散策していた時のことだった。 楓さんは贔屓にしている飲み屋へのお土産を物色していた。 食べ物がいいか。それとも熊手がいいか。 境内をウロウロしているうちに…

雨森れに
1年前
11
小指の所在 上

小指の所在 上

林田くんはコンビニ店員だ。
フルタイムでシフトに入り、主に深夜帯で勤務していた。
慣れているとはいえ、客足が遠のく午前三時あたりになると眠気がやってくる。
防犯上、事務所にばかりいるわけにもいかない。
その上、彼は一度寝てしまうと起きれないタイプのロングスリーパーだったものだから、何がなんでも起きていなければならなかった。

ある夏の夜。深夜三時を回った頃。
うつらうつらしながらレジに立っていると

もっとみる
知らない家族

知らない家族

前上さんは古物商の真似事をしていた。
古いものを買っては、フリマアプリや本物の古物商に持ち込み、金を稼ぐ。
ある時からはホームレスに換金すると声をかけて、協力してもらっていた。
その中のひとり、ヤスイと名乗るホームレスが持ってくるものは格別だったそうだ。
古い陶器やら細工物が多く、それらは高く売れる。
だが、ヤスイはそれらに添えて必ず何枚かの白黒写真を持ってきた。
前上さんとしては写真はあまり価値

もっとみる
狸虫

狸虫

かな恵さんは、小学校に通う歳になってもおもらしが直らなかった。
それもいわゆる大のほう。
排泄は便所でするものだと頭では理解しているのに、いざとなると体が動かない。
漏らすことは恥ずかしく、せめてもの抵抗として足をきつく交差させて、汚物が出ないように尻まわりに力を入れた。
それでも努力の甲斐なく下着を汚す日々。
常に糞便の臭いをまとえば、友人などできるはずもない。
本人だけでなく、両親や先生らにも

もっとみる
10/26 23:05 繭を作る眠りへと

10/26 23:05 繭を作る眠りへと

定期的に過眠気味になる。
今がそうだ。
予定がなければ大体12時間近くは寝ている。
もちろん起きいればやりたい作業は山積み。
アラームをかけても起きれない。頭に血が回らない。
何度かここで起きれそうーーという予感のある目覚め方をするけど、体が動かず布団の海に飲まれる結果に終わる。
こなさなければいけないことをしている自分を想像しながら、悔しさを覚えつつも意識を手放す。を繰り返す。

こういう時の夢

もっとみる
えべっさん

えべっさん

漁師町で生まれ育った洋祐さん。
子供の頃から父親のような漁師になると心に決めていて、父親や漁師達と一緒にいる時は海の話を聞いていた。
そんなある日、聞いた事のない言葉を耳にした。

「えべっさんが近々揚がるってさ」
「そりゃいいな。稼ぎ時じゃねえか」
父親が嬉しそうに肩を回している。
「えべっさんってなに?」
「七福神の恵比寿様よ。来たら豊漁間違いなし」
「なにそれ! 僕も神様見たい!」
父親らが

もっとみる
9/27 4:44 意地と煌めきを不調で考える

9/27 4:44 意地と煌めきを不調で考える

インドカレー屋さんのナンが美味しかった。
後回しにしていた洋服の整理をした。
いつもより早い時間に洗濯をして、お風呂を準備した。
それだけで、今日は少し嬉しい日になった。

朝、起きた時は空前絶後の絶不調。それもこれも予定を詰めすぎたせい。
冬はあまり動けない体質だから、寒くなる前にと詰めた。
物書き仲間と会って、飲み友達と飲んだ。
その他は怪談付き合い、イベント出演、動画出演、女子会、宅飲み、遊

もっとみる
抱卵を諦めるオシドリ

抱卵を諦めるオシドリ

若かりし頃、避妊を失敗して産婦人科に駆け込んだことがある。
アフターピルの副作用に苦しみながら「もし受精していたら私は人殺しかもしれない」なんて考えた。
妊娠しないという可能性を、あまり考えていない時代だった。
今、あの時に戻っても、私は同じ選択をしたと思う。

なぜ唐突にこんな話をしたかというと、夫婦で話し合った結果『子供を作らない』ことに決めたからだ。
どちらかといえば、ふたりとも子供が欲しい

もっとみる
7/5 18:33 ワンピースひるがえして

7/5 18:33 ワンピースひるがえして

気付けば雨の季節が終わりかけているのでは。
部屋に満ちる湿気と雨音で目を覚ますより、じわりと暑い空気と日差しで起床する。
例年通りなら7月中旬頃に梅雨が明け、真夏が始まるはず。

ゲリラ豪雨に肌濡らす夏が好きだ。
コンクリートが息をするように雨の匂いを発する瞬間が好きだ。
雨だけじゃない。
蒸れた夏草。生き物這う土。
身体の中に溜まる熱。肌をじりりと焼く太陽。突き抜けるような青空。
逃げ場のない季

もっとみる
4/5 17:55 昨日見た夢を覚えているか

4/5 17:55 昨日見た夢を覚えているか

私は沢山夢を見る。これは睡眠のほうの。
1回の睡眠で長い夢を見るけど、大体は前に見た夢の続きだったり再放送。
睡眠時間が長ければAの夢とBの夢を交互に見る。
そのうちAとBが一緒になったり、どちらも超長編になっていたり。

おそらく頭の作りがおかしいのだと思う。
夢を見る時は画面にシークバーが存在する。
もう一度見たいシーン。
準備をして挑みたいシーン。
むしろ何かを回避するために。
ちょこちょこ

もっとみる
4/3 9:36 ハッピーを喰らう

4/3 9:36 ハッピーを喰らう

明るい感情に上限があるのを、感じたことはないだろうか。
暗い感情は底なしで、いつまでも負の世界に引きずり込むのに。
楽しい、面白い、幸せ……などは一定以上スパークしない。
しかも言語化してしまえば大変陳腐なものにならない?
なんだか感受性の沸点が上がっていて、心が掻き乱されないのだ。
私はこれを孤独の後遺症なのではないかと思う。
ある種の俯瞰。
人が自分に対峙し続けると鬱々とし、もしくは割り切った

もっとみる
オツトリさん

オツトリさん

達明さんはスノーボードが趣味だ。

7年前の冬。
有給休暇を使って4連休を作り、スキー場近くのペンションを予約した。
お世辞にも綺麗と言えない宿だったが、その分安く済むのでウェアを新調できた。
派手物好きの達明さんらしい、明るい青が眩しいウェア。
彼は宿に着くなり、すぐに着替えてスキー場へ向かった。

初めての場所だったが、雪の状態がよかった。
ボード越しに雪の柔らかさが感じられる。
彼の実力的に

もっとみる
3/15 18:52 南京玉すだれの前髪

3/15 18:52 南京玉すだれの前髪

前髪がスダレみたいになっている。
束感といい、ツヤ感といい……
いや。クセ毛だから南京玉、をつけたほうがいいかもしれない。
朝のスキンケア後に対策しなかったからこうなりました。
パウダーはたいたりカーラーで髪を留めておけば、こんなことにはならなかった。
平安時代なら艶やかな髪で一世を風靡してたであろう私の髪。
アブラマシマシ。コイブミアブラカタブラ。
でも今は令和なので前髪ペッタリなダセー女やって

もっとみる
3/3 18:52 生死をループしようと思った妄想

3/3 18:52 生死をループしようと思った妄想

私が死んだ日。
夢を見ていた。
夢の中で夢を見て、さらにその先でも夢を見た。
戻ろうと思っても戻り方がわからず、現実味のない世界で「ここは現実じゃない」と思いながらずっと生きている。
多分だけど、私は死んでいるのだろう。

私が死んだ日。
クチナシの花が萎み始めていた。
フチが茶色くなってみっともない花弁。
香りも何となく腐敗が始まっていた。
もう捨ててしまおうと花を摘んで、気付く。
指の骨の露出

もっとみる
2/22 23:25 いつもの海原で

2/22 23:25 いつもの海原で

書くという原動力は何だっただろうか。
思い出せば、いつも感情だったように思う。
何かにすがらなくては息ができないと、苦しさで物語を紡いだ。
酸素を取り込んで吐き出すかのように。

書いてるうちは全てが点と線になる。
2次元の中に私の物語が浮かび上がる。
書き手の私さえ点と線だというのに。
話だけは煌めいて、飛び上がる。
時に鯨のように。もしくはイルカのように。
手から離れ、大海原に解き放たれるスト

もっとみる
開花

開花

香純さんはおばあちゃんっ子だった。
土日になればおばあちゃんの家に行きたいと言い、行けば帰りたくないと駄々をこねた。
おばあさまのほうも、香純さんが初孫ということもあり、目に入れてもいたくないと言うような溺愛ぶりであったそうだ。
 
なので、おばあさまが亡くなった時は自ら線香の番を申し出た。
この時、香純さんは12歳。
人の死というものに向き合ったのは初めてだった。
線香を絶やさぬように過ごしてい

もっとみる
白みくじ

白みくじ

酉の市を散策していた時のことだった。

楓さんは贔屓にしている飲み屋へのお土産を物色していた。
食べ物がいいか。それとも熊手がいいか。
境内をウロウロしているうちに、参道と砂利の段差に躓いた。
思わず手を着いたのは、おみくじの無人屋台。
くじの入っている生年月日の枠に掴まったため、代金を入れる小箱から小銭の音がした。

「おネェさん大丈夫?」
見ると隣に鮎の塩焼きの屋台があり、焼き場から男性が心配

もっとみる