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書評

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【書評】『連続革命と毛沢東思想 文化大革命と九全大会以後』菅沼正久[1969] 非実在(永久)革命論

菅沼正久[1969]『連続革命と毛沢東思想』三一書房.評価:☆★★★★

 いきなり冒頭から、

という文章で始まる、1969年7月15日発行の文化大革命礼賛本である。新左翼系の理論書を取り揃えていた三一新書(三一書房)の一冊だ。
 著者の菅沼正久の当時の肩書は、奥付によれば、本州大学助教授、協同組合経営研究所研究員、中国研究所所員。親中派の御用学者によるプロパガンダ本と言ってしまえばそれまでだし

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【書評】『闇の精神史』木澤佐登志[2023] ジャンクな疎外論

 本題とは関係のない近況報告――
 下に載せるのは、1月1日の朝に書き上げた書評である。その日の夜、校正してnoteに投稿するつもりでいた。
 知ってのとおり、その日の16時10分、能登半島地震が発生。金沢市の私の自室では、2メートルを超える本棚が倒れ、床中に本が散乱し、とてもパソコンからnoteを更新するどころではなくなってしまった。
 地震発生時、私は外出中だったが、部屋にいたら高確率で死んで

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【読書メモ】『なめらかな世界と、その敵』伴名練[2022]

 以下、いわゆる書評というより、雑文的な読書メモ。
 物語の核心部分についての記述を含むので、ご注意ください。

伴名練[2022]『なめらかな世界と、その敵』早川書房. 知人から勧められていた伴名練の短編集『なめらかな世界と、その敵』を、2023年7月某日、読み始めた。同時代のSF、というか大衆文学全般を読む習慣が全くと言ってよいほどない私にとっては、「近年の小説」というざっくりしたカテゴリーそ

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【書評】エログロナンセンスとアヴァンギャルドの蜜月 『吉行エイスケ 作品と世界』[1997]

吉行和子(監修)[1997]『吉行エイスケ 作品と世界』国書刊行会.評価:☆☆☆★★

 吉行エイスケの作品集。
 吉行エイスケは、1920年代よりダダイズム、モダニズム、新興芸術派の作家として注目を集め、1940年、34歳で世を去った人物だ。本書には、27歳で筆を絶つまでのエイスケの詩と小説が収録されている。監修者は、エイスケの娘で女優の吉行和子。
 エイスケの3人の子供のうち、吉行淳之介と理恵

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【書評】『アナキズムとキリスト教』ジャック・エリュール[2021]

エリュール,ジャック[2021]『アナキズムとキリスト教』新教出版社編集部訳,新教出版社.評価:☆☆☆★★

 キリスト教的思惟の奥深さを思い知らされる一冊だ。あるいは、「根深さを」というべきだろうか。
 著者は、1930年代の「非順応主義」と呼ばれる運動を経て、プロテスタント神学の立場から「キリスト教アナキズム」というべき特異な思想を展開するに至ったフランスの知識人、ジャック・エリュールだ。
 

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