H. Tsukada

言葉って何?

H. Tsukada

言葉って何?

記事一覧

命拾い

 4月19日の未明、二度目の心筋梗塞で救急搬送された。傘の先端で力強く心臓を押さえつけられているような痛みで、脂汗が出て救急車の中でも唸り続けた。普段毎分八十ほ…

H. Tsukada
17時間前
6

私の趣味

モールス符号でビートルズのLet it beを表現してみました。

H. Tsukada
1か月前
2

三島由紀夫に浸る

三島は「金閣寺」以外、名前を忘れた短編集を1冊読んだことしかなかったので、今回は文庫本を新たに3冊購入した。 件の短編集でかなり印象深く思ったのは、三島由紀夫は…

H. Tsukada
6か月前
6

やばい。
持病のせいで倦怠感がものすごく、仕事以外は寝てばかりいる。まるで棺桶に片足を突っ込んだヨレヨレの老人みたいだ。そのうち仕事もままならなくなっちまうのではないだろうか…と不安が過ぎる。おまけに精神状態も万全とは言えず、綱渡りをしているみたいだ。
危ねえなあ…自分。

H. Tsukada
6か月前
4

〈詩〉夜想曲20番を聴きながら

若かりしころの恋愛たち 思い返すたび 心のひだの深いところ 絶対零度の冷たさが 瘡蓋を剥ぐ 好きだよ 愛しているよ ひらひらとした言葉を吐きながら 好きだったのはその…

H. Tsukada
9か月前
10

<短編小説> ゲッセマネ

柳井貢が飼っていた二匹の猫、クシロとメグロを他の猫と一緒に大きな籠に入れ、川に沈めて流したのは高校一年生の佐々木正巳だった。 四十年ほど前、私が中学二年生の秋の…

H. Tsukada
1年前
26

〈雑記〉ちょっとだけちょうだいお化け

まわりを見渡すと 必ずいるんだよな 例えばデートで入ったレストランで 各自にメニューを決め 注文したのが来て食べはじめると 相手が食べてるものを見て 「ひとくちだけ味…

H. Tsukada
1年前
5

〈エッセイ〉ネッラ・ファンタジア

私の住むM町在住の画家、Sさんは独特な絵を描かれる。彼女の作品の殆どが個性的なタッチの人物画で、町が発行する文芸誌の表紙も、ここ数年彼女の描いた少年や少女の顔の絵…

H. Tsukada
1年前
8

Oblivion

きみの記憶の残渣が 未だにぼくをえぐる その声と眼差しが ふとしたことで 網膜と鼓膜の内によみがえる 忘れようしても ぼくはいつもきみを ひきずっている 忘却は罪でも…

H. Tsukada
1年前
6

「愚直」という言葉に憧れる。
何故か。それは今まで自分が愚直に物事に対峙したことがなかったからだ。
どこかいつも醒めていて、人生を舐めてきたような気がするのだ。物事に対しても、人に対しても。眠れずに灯りをつけ、じっとそんなことを考える午前零時過ぎ。なんだか辛いな…

H. Tsukada
1年前
3

(エッセイ)空飛ぶ音楽

飛行機でアメリカへ向かうと、西海岸の主要都市に着くまでにおよそ10時間と少しかかる。飛行機によっては11時間以上かかる時もあるのだが、それは気流や飛行コースの違いに…

H. Tsukada
1年前
26

〈エッセイ〉説得力のある話し方をする政治家はやはり信じない方が良い。

最近はある政党の党首と言われる人たちの話を鵜呑みにして、にわか国粋主義あるいは大和民族主義に傾倒し、嫌中・嫌韓に走る人が多いようだ。それらの党首たちはとても良い…

H. Tsukada
1年前
13

<エッセイ> 傍にいた白鳥

国道を隣町に向けて走っていた時、二羽の白鳥が南の空から北へ向かってゆっくりと飛んで行くのを見た。つがいであろう。三メートルから五メートルと付かず離れず、先を行く…

H. Tsukada
1年前
8

〈エッセイ〉あたし

どうしても尋ねずにはいられなくなった。 「Yさんはご自分の事を『わたし』じゃなくって『あたし』って呼んでますけど、それって昔からなんですか?」 「え?」   ブラ…

H. Tsukada
1年前
6

〈エッセイ〉恋愛について

還暦をとうに過ぎ、来年から高齢者というカテゴリーに入る時期を迎えて、やっと「愛」とは何なのか、ということが朧げながら理解出来るようになってきた。 中学、高校、大…

H. Tsukada
1年前
41

〈エッセイ〉「ばあーか」か「ぶぁーか」か。

10年前、隣町の総合病院で父が息を引き取ったとき、しばらく母と父を二人きりにさせてあげようと思い、僕と弟は病室を出た。閉めたドアの向こうで母の号泣が聞こえていた。…

H. Tsukada
1年前
7
命拾い

命拾い

 4月19日の未明、二度目の心筋梗塞で救急搬送された。傘の先端で力強く心臓を押さえつけられているような痛みで、脂汗が出て救急車の中でも唸り続けた。普段毎分八十ほどある心拍数が四十まで落ち、意識はあるものの酸素飽和度も危険域まで下がった。

 運ばれたH病院で全裸にされ、陰毛をバリカンで剃られ、鼠蹊部からの緊急カテーテル手術を受けた。そして一時間後には体中に管とセンサーを付けられてICUのベッドに貼

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私の趣味

私の趣味

モールス符号でビートルズのLet it beを表現してみました。

三島由紀夫に浸る

三島由紀夫に浸る

三島は「金閣寺」以外、名前を忘れた短編集を1冊読んだことしかなかったので、今回は文庫本を新たに3冊購入した。

件の短編集でかなり印象深く思ったのは、三島由紀夫はある意味、性の求道者でもあったのだという事だったが、写真右上の「音楽」を読み始め、改めてその想いを強くした。

三島由紀夫は楯の会や阿佐ヶ谷での自決など、極右としてのイメージが先に立ち、食指が及ぶことはなかったのだが、この歳になると、右も

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やばい。
持病のせいで倦怠感がものすごく、仕事以外は寝てばかりいる。まるで棺桶に片足を突っ込んだヨレヨレの老人みたいだ。そのうち仕事もままならなくなっちまうのではないだろうか…と不安が過ぎる。おまけに精神状態も万全とは言えず、綱渡りをしているみたいだ。
危ねえなあ…自分。

〈詩〉夜想曲20番を聴きながら

〈詩〉夜想曲20番を聴きながら

若かりしころの恋愛たち
思い返すたび
心のひだの深いところ
絶対零度の冷たさが
瘡蓋を剥ぐ

好きだよ
愛しているよ
ひらひらとした言葉を吐きながら
好きだったのはその人の顔
愛していたのはその人の身体
決して
その人自身ではなかった

なぜそんな軽い恋愛をした?
なぜ全身全霊でその人の全てを
愛せなかった?

ごめん、みんな
ほんとにごめんね
ほんとに情けないちっぽけな僕でした

この痛みを

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<短編小説> ゲッセマネ

<短編小説> ゲッセマネ

柳井貢が飼っていた二匹の猫、クシロとメグロを他の猫と一緒に大きな籠に入れ、川に沈めて流したのは高校一年生の佐々木正巳だった。

四十年ほど前、私が中学二年生の秋の出来事だ。人には生きている間にどうしようもなく瞼に焼き付いて離れない光景や思い出がひとつやふたつはあると思うが、あの時の貢の苦しくそして悲しみに歪んだ顔を、私はずっと忘れることができずに今まで生きてきた。

私と貢の家は共に乳牛を三十頭ほ

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〈雑記〉ちょっとだけちょうだいお化け

〈雑記〉ちょっとだけちょうだいお化け

まわりを見渡すと
必ずいるんだよな
例えばデートで入ったレストランで
各自にメニューを決め
注文したのが来て食べはじめると
相手が食べてるものを見て
「ひとくちだけ味見させて」と
スプーンやフォークでつまんで行く

アイスクリームを食べている時も
違うフレーバーのを食べている
僕のアイスクリームを
「そっちのも食べさせて」と
プラスチックのスプーンで
すくって行く 

そんな
ちょっとだけちょうだ

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〈エッセイ〉ネッラ・ファンタジア

〈エッセイ〉ネッラ・ファンタジア

私の住むM町在住の画家、Sさんは独特な絵を描かれる。彼女の作品の殆どが個性的なタッチの人物画で、町が発行する文芸誌の表紙も、ここ数年彼女の描いた少年や少女の顔の絵が採用されている。

去年から私が関わり始めたその文芸誌の編集委員会において、Sさんは副編集長をしておられ、ひし形のメガネフレームがとてもよく似合う素敵な女性だ。

昨年末に行われた編集委員会で「もしよかったら奥さんとご一緒にどうぞ」と、

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Oblivion

Oblivion

きみの記憶の残渣が
未だにぼくをえぐる
その声と眼差しが
ふとしたことで
網膜と鼓膜の内によみがえる
忘れようしても
ぼくはいつもきみを
ひきずっている

忘却は罪でもあり
そして救いでもある
いずれぼくも
忘れられた星屑のひとつとなり
この静寂の天蓋の下で
きみを忘れ
きみに忘れられる
そんな時がくる

でもきっと
この冷たい痛みは
数千光年離れたところでも
酵母のように降り積り
沈殿した多くの

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「愚直」という言葉に憧れる。
何故か。それは今まで自分が愚直に物事に対峙したことがなかったからだ。
どこかいつも醒めていて、人生を舐めてきたような気がするのだ。物事に対しても、人に対しても。眠れずに灯りをつけ、じっとそんなことを考える午前零時過ぎ。なんだか辛いな…

(エッセイ)空飛ぶ音楽

(エッセイ)空飛ぶ音楽

飛行機でアメリカへ向かうと、西海岸の主要都市に着くまでにおよそ10時間と少しかかる。飛行機によっては11時間以上かかる時もあるのだが、それは気流や飛行コースの違いによるのかもしれない。
 
今まで何度かアメリカへ行き、この北太平洋上空での10時間という時の長さと、そのうんざりするほどの退屈さを身体で覚えてしまっている僕にとっては、ひとくちに海外旅行といっても、その長時間の機内での辛い滞在がどうも二

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〈エッセイ〉説得力のある話し方をする政治家はやはり信じない方が良い。

〈エッセイ〉説得力のある話し方をする政治家はやはり信じない方が良い。

最近はある政党の党首と言われる人たちの話を鵜呑みにして、にわか国粋主義あるいは大和民族主義に傾倒し、嫌中・嫌韓に走る人が多いようだ。それらの党首たちはとても良いことも言っているが、「?」と思うことも言っていることに気が付かない人が多い。

例えばあの太平洋戦争は「欧米列強の支配下におかれたアジア諸国を解放するために日本が動いたのだから、日本は悪くない。日本こそ崇高な国なのだ」という話。あんなのは笠

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<エッセイ> 傍にいた白鳥

<エッセイ> 傍にいた白鳥

国道を隣町に向けて走っていた時、二羽の白鳥が南の空から北へ向かってゆっくりと飛んで行くのを見た。つがいであろう。三メートルから五メートルと付かず離れず、先を行くのはオスだろうか、その斜め後ろをもう一羽がしっかりと追随して飛んでいた。

暴風雪が去った翌日の午後、真っ青な大空を背景に羽を広げて飛ぶ、二羽のその白い姿は、実にくっきりと美しくこの目に焼き付いたのだった。

白鳥は「愛の鳥」だと言われてい

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〈エッセイ〉あたし

〈エッセイ〉あたし

どうしても尋ねずにはいられなくなった。

「Yさんはご自分の事を『わたし』じゃなくって『あたし』って呼んでますけど、それって昔からなんですか?」

「え?」
 
ブラインドを開けた教室の大窓を背にしているから、眩しい日差しがYさんの肩を背後から照らしている。彼女はこちらを見つめ、応えに窮している様子だった。
 
Yさんは二年前から私の教室で英語を勉強しているS町在住の女性だ。長野オリンピックに女子

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〈エッセイ〉恋愛について

還暦をとうに過ぎ、来年から高齢者というカテゴリーに入る時期を迎えて、やっと「愛」とは何なのか、ということが朧げながら理解出来るようになってきた。

中学、高校、大学と思春期から青年時代を過ごし、そして社会人となり色々な紆余曲折がありながら現在の妻と出会い結婚し、子供ができ、そんな子供らが成長して旅立った後、静かに振り返ってみると、私は複数の恋愛を経験してきたと思う。

強火でフライパンまでが焦げる

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〈エッセイ〉「ばあーか」か「ぶぁーか」か。

〈エッセイ〉「ばあーか」か「ぶぁーか」か。

10年前、隣町の総合病院で父が息を引き取ったとき、しばらく母と父を二人きりにさせてあげようと思い、僕と弟は病室を出た。閉めたドアの向こうで母の号泣が聞こえていた。

どのくらいだったろう。20分くらいだろうか。母が落ち着いたのを見計らって僕らは再び病室に入って行った。母は目を真っ赤にしていたが、既に泣き止んでいた。

数日後、葬儀が終わって親戚も皆帰った後、母がぽつりと云った。

「あのね、

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