中井豊

イベントや出版の企画をしました。チェロ奏者をしながら「横浜室内楽フェスティバル」を主宰…

中井豊

イベントや出版の企画をしました。チェロ奏者をしながら「横浜室内楽フェスティバル」を主宰、過去には東京国際映画祭の字幕翻訳、香港映画関連本の出版、山崎豊子さんの「大地の子」取材通訳。現在は大阪留学中で文楽や能楽、中世芸能史を研究しています。趣味は大衆芸能の追っかけ。

記事一覧

【日本橋読書会】どこまでリアリティーを追求するか(逢坂冬馬著・歌われなかった海賊へ)

「今回は逢坂冬馬さんの『歌われなかった海賊へ』。本屋大賞ほか受賞して直木賞候補にもなった『同士少女よ、敵を撃て』に続く第2作ですよね。前作とどこが違う?」 「歴…

中井豊
3か月前
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【夜行の船旅】⑦「大」「太」「犬」の攻防 京都東一条

 今年も8月16日が来た。終戦記念日翌日の目立たない日だが,今年は違う。3年ぶりに「五山の送り火」、いわゆる大文字の送り火が復活するのだ。新聞で点火時間をチェック…

中井豊
9か月前
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夜行の船旅 ②女木島・男木島(香川県高松市)

 それぞれ女木島(めぎじま)、男木島(おぎじま)と読む。人口は両方とも150人前後。一部の芸術ファンと歴史マニアには知られているがそれ以外は知られていない。 二…

中井豊
9か月前
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大文字山、五山送り火の準備で忙しい

中井豊
9か月前

【エッセイ】 日本の全国民が「コスパ!」と連呼することについて

私は大阪の「日本橋」(ここでは「にっぽんばし」と読みます)に住んでいる。  ピンと来ないかもしれないが、吉本興業や松竹歌舞伎の拠点があるミナミ(難波)という盛…

中井豊
2年前
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岩波ホールの閉館について 大阪で感じたこ

 岩波ホールが新型コロナウイルス下での経営不振で閉館を決めた。驚いた人も多いだろう。商業ベースでは紹介されない途上国の伸び盛りの監督、独裁政権下では公開を許され…

中井豊
2年前
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【読書感想文】ジニのパズル 崔実(チェシル)

#読書感想文 「ジニのお尻は真っ赤っか」。ジニという文字を見た時に思い出したのがこれだった。「私の朝鮮語小辞典」(長璋吉著)を読んだ時に、子供同士のけんかで「〜の…

中井豊
2年前
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【読書ノート】夫のちんぽが入らない(こだま著)

 私には悪いクセがある。流行曲でもベストセラー本でも、そのときには読まずに何年も経ってからそっと読む、というものだ。YMOの音楽だってヒットしたのは中学生の時だ…

中井豊
2年前
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【読書ノート】碾臼(ひきうす) M.ドラブル著

 最初は京都の古本屋だった。新京極を北に向かった突き当たりを右に曲がって、河原町通を突っ切ったところにある古書店。  店頭のワゴンセールに置かれてなんともなしに…

中井豊
2年前

音大卒のエレジー

 私は小さいころはピアノは好きではありませんでした。どの曲も同じで同じ音に聞こえたからです。幸い6歳で周囲が期待せず見放してくれたので、エレクトーンで自由に編曲…

中井豊
2年前

【短編】パパはウイスキー、わたしはタマゴ ―― 「オロナミンC」へのオマージュ

「はいはい、よそ見しないの」。いらつく母の声とワンセットで、お好み焼きのうえに無情にも絞り出されるマヨネーズ。これってキライやのに。「これがいいに決まってるでし…

中井豊
2年前

【詩】動詞のエレジー

 新聞社に勤める友人が言った 「新聞ってさ、動詞と固有名詞を数字でできているんだよね」  えっ? と聞き返すと 「だってそれは全部事実だから」という  そういえ…

中井豊
2年前
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東京がアフガニスタン化していることについて

 大手新聞の電子版で「ノーベル賞受賞者で東京の高校出身者が一人だけ」という記事が出た。しかもそのかた、日比谷高校出身の利根川進さんは地元が名古屋で純粋な東京育ち…

中井豊
2年前
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【読書ノート】津軽三味線(倉光俊夫著)

 津軽三味線を全国規模に広げた、盲目の奏者、高橋竹山(ちくざん)さんの伝記。戦前の盲学校のない時代、盲目の人はあん摩師になるすべもなく、ホイド(コジキ)になるし…

中井豊
2年前
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【読書ノート】「こちらアミ子」今村夏子さん著

 聞いた話だが、東京でアマチュアのオーケストラがたくさんあって、一見平和そうに見えるが曲決めやメンバー同士のいじめ、権力闘争が凄まじく、毎週週末の練習後にはギリ…

中井豊
2年前
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【大阪西成物語】令和西成コメ騒動

「だ、だれや、コメ、炊いてきたんは」  ふらりと立ち寄った三角公園のステージの上でシンゴと名乗る司会のラップ歌手が困った顔をすると会場から爆笑が起きる。  きょ…

中井豊
2年前
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【日本橋読書会】どこまでリアリティーを追求するか(逢坂冬馬著・歌われなかった海賊へ)

【日本橋読書会】どこまでリアリティーを追求するか(逢坂冬馬著・歌われなかった海賊へ)

「今回は逢坂冬馬さんの『歌われなかった海賊へ』。本屋大賞ほか受賞して直木賞候補にもなった『同士少女よ、敵を撃て』に続く第2作ですよね。前作とどこが違う?」
「歴史が好きなのでよかった。前作同様、参考文献をすごく調べてるよね。ただストーリー展開が遅いかな。kindleで読んだけど52%過ぎたあたりで、ふらふらしていた主人公が生きる目的(注・収容所行きのトンネル爆発)をやっと手にしている」
「最初に現

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【夜行の船旅】⑦「大」「太」「犬」の攻防 京都東一条

【夜行の船旅】⑦「大」「太」「犬」の攻防 京都東一条

 今年も8月16日が来た。終戦記念日翌日の目立たない日だが,今年は違う。3年ぶりに「五山の送り火」、いわゆる大文字の送り火が復活するのだ。新聞で点火時間をチェックする。最初の「大」の字が夜8時に、以下「妙法」「船形」「左大文字」「鳥居形」が5分おきに点火される。
もっと早く始まるモノだと思っていたので、「急いで仕事を片付けて損したやん」と思ったが、よくよく考えると夕日が完全に落ちて街が夜の雰囲気に

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夜行の船旅 ②女木島・男木島(香川県高松市)

夜行の船旅 ②女木島・男木島(香川県高松市)

 それぞれ女木島(めぎじま)、男木島(おぎじま)と読む。人口は両方とも150人前後。一部の芸術ファンと歴史マニアには知られているがそれ以外は知られていない。
二つとも毎年開かれる瀬戸内国際芸術祭の会場で、シーズンともなれば島で屋外展示されている作品を見に特定の芸術ファンがどっと押し寄せる。また女木島は歴史に関心のあるひとなら知っているが、桃太郎に出てくる「鬼ヶ島」なことだ。桃太郎伝説は愛知県にもあ

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【エッセイ】 日本の全国民が「コスパ!」と連呼することについて

私は大阪の「日本橋」(ここでは「にっぽんばし」と読みます)に住んでいる。
 ピンと来ないかもしれないが、吉本興業や松竹歌舞伎の拠点があるミナミ(難波)という盛り場から東に5分ぐらい歩いたところ(というかここもミナミなのかなあ)で中国人観光客が訪れた黒門市場や、国立文楽劇場、あとメイドカフェ、電気街、あと大きい声では言えないがデリヘルが立ち並ぶ大阪有数の歓楽街だ。
 唯一の欠点は美味しくて安い本

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岩波ホールの閉館について 大阪で感じたこ

 岩波ホールが新型コロナウイルス下での経営不振で閉館を決めた。驚いた人も多いだろう。商業ベースでは紹介されない途上国の伸び盛りの監督、独裁政権下では公開を許されなかった映画、ほか人類遺産ともいえる映画を数多く紹介してきた功績は大きい。

 個人的な話だが会社の昼休みは神保町にランチがてら古本をあさりにいくのを楽しみにしていた。岩波ホール横の壁に大きく映画のポスターが掲げられているのは、ネット全盛の

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【読書感想文】ジニのパズル 崔実(チェシル)

#読書感想文
「ジニのお尻は真っ赤っか」。ジニという文字を見た時に思い出したのがこれだった。「私の朝鮮語小辞典」(長璋吉著)を読んだ時に、子供同士のけんかで「〜のお尻は真っ赤っか」を先に言われた方が負けというのを見た。別に「ジニ」でなくても良かったんだけど。

私は大学時代にNHKのハングル講座が始まった世代。また講師の先生に直接習っていたこともあって朝鮮半島問題にはそれなりに関心もあったし、新聞

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【読書ノート】夫のちんぽが入らない(こだま著)

 私には悪いクセがある。流行曲でもベストセラー本でも、そのときには読まずに何年も経ってからそっと読む、というものだ。YMOの音楽だってヒットしたのは中学生の時だったが、何十年も経って大人になって子供も生まれてから狂ったように聴き出した。「これ、いいよねー」という私に、次男が「そうだよね、テクノポップの原型っていうのかなあ。懐かしいよね」と言われてしまった。

 さてこの本も2014年の文学フリマで

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【読書ノート】碾臼(ひきうす) M.ドラブル著

 最初は京都の古本屋だった。新京極を北に向かった突き当たりを右に曲がって、河原町通を突っ切ったところにある古書店。
 店頭のワゴンセールに置かれてなんともなしに手に取ったら「妊娠して初めてわかったことは……」という文章が目に飛び込んできて、何も考えずに買ったのだった。
 著者はマーガレット・ドラブル。英ケンブリッジ大首席卒業、俳優と結婚して三人の子供を持って離婚。日本でいうと昭和十四年(1939年

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音大卒のエレジー

 私は小さいころはピアノは好きではありませんでした。どの曲も同じで同じ音に聞こえたからです。幸い6歳で周囲が期待せず見放してくれたので、エレクトーンで自由に編曲したり音楽を自分のものとして楽しめました。

 私の子供も音楽教室には通わせませんでした。ピアノの前に座らせて音符の読み方だけ教えただけで、名曲の楽譜だけ買いました。

 3人とも未だにオーケストラで活動しています。

 外の人間として見て

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【短編】パパはウイスキー、わたしはタマゴ ―― 「オロナミンC」へのオマージュ

「はいはい、よそ見しないの」。いらつく母の声とワンセットで、お好み焼きのうえに無情にも絞り出されるマヨネーズ。これってキライやのに。「これがいいに決まってるでしょ」。幼稚園のときに「タマゴは目玉焼きにして載せて」といったら「夜店じゃあるまいし」と有無を言わさずキャベツの海に混ぜ込まれていった。「あのね、好き勝手するとお隣さんみたいになるよ」
 そのお隣さん、同じクラスのハルカちゃんは地味すぎてクラ

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【詩】動詞のエレジー

 新聞社に勤める友人が言った

「新聞ってさ、動詞と固有名詞を数字でできているんだよね」

 えっ? と聞き返すと

「だってそれは全部事実だから」という

 そういえば

 世の中のウソってだいたいが形容詞

 人がどんなに頑張っても評価をねじまげるのは副詞

 面白いのに頭ごなしにつまらなく見せるのは感嘆詞

 

 そう、話をしていて形容詞と副詞と感嘆詞が多いやつは

 たいがいニセモノだ

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東京がアフガニスタン化していることについて

 大手新聞の電子版で「ノーベル賞受賞者で東京の高校出身者が一人だけ」という記事が出た。しかもそのかた、日比谷高校出身の利根川進さんは地元が名古屋で純粋な東京育ちではないらしい。

 夢を持って東京で一生懸命頑張っているのに、恵まれない人にウケないことはわかっているのだけれど、正面から取り上げたい。

 ノーベル賞、オリンピック、文学賞、大リーグ、などなど、一番教育機会に恵まれているはずの「東京生ま

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【読書ノート】津軽三味線(倉光俊夫著)

 津軽三味線を全国規模に広げた、盲目の奏者、高橋竹山(ちくざん)さんの伝記。戦前の盲学校のない時代、盲目の人はあん摩師になるすべもなく、ホイド(コジキ)になるしかない時代。竹山さんは極貧の母親から買ってもらってボロ三味線を抱えて、雪の中遭難しかかりながらも、下北半島を北へ北へと縦断していく。

 わたしは子育ても終わったこともあり、今までやりたかったことを爆発的に手掛けている。津軽三味線もその一つ

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【読書ノート】「こちらアミ子」今村夏子さん著

 聞いた話だが、東京でアマチュアのオーケストラがたくさんあって、一見平和そうに見えるが曲決めやメンバー同士のいじめ、権力闘争が凄まじく、毎週週末の練習後にはギリギリの友情をつなぎとめるべく、深夜まで飲み会が繰り広げられ、でも3年もたないところも多いという。

 結局解散して新しいオケを作っても、演奏するのは「運命」や「新世界」など誰からも強い反対が出ない曲をヘビーローテーションでやることには変わり

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【大阪西成物語】令和西成コメ騒動

【大阪西成物語】令和西成コメ騒動

「だ、だれや、コメ、炊いてきたんは」

 ふらりと立ち寄った三角公園のステージの上でシンゴと名乗る司会のラップ歌手が困った顔をすると会場から爆笑が起きる。

 きょうは一年に一回のカンパライブらしい。ほかと違うのは入場料がおコメなこと。一俵でもいいし、一握りでも大丈夫。中には近所のコンビニで買っていそいそと持ち込むひともいる。サラサラのコメが欲しいのに、ホカホカに炊いて持ち込まれたコメは、スタッフ

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