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個人的に好きなnote

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私が個人的に心射抜かれた作品をまとめています
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記事一覧

ふたりだけのブルー

ふたりだけのブルー

空と海の青が、遥か彼方、交わるのが見える場所。
雲ひとつなく暖かな日差しが、まわりを幸せな空気で包み込む。
純白なウエディングを着た理沙の隣では、新郎の正人が少し緊張した面持ちで立っていた。

「幸せそうだね」
「そうだな」

私の隣では、大学時代からの付き合いの海斗がそんな2人を微笑ましく見つめている。
その海斗の手をそっと握りしめると、海斗は私の手を握り返してくれた。

心地よい海斗の温もりは

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「あの人とは合わないかも」も、「あの人のこと好きかも」も、一人になった時に浮かび上がってくるよねって話。

「あの人とは合わないかも」も、「あの人のこと好きかも」も、一人になった時に浮かび上がってくるよねって話。

少なくとも自分はそういうタイプだ。あなたはどうだろう?

フリーランスで仕事をしていると、初対面の人と打合せなどを一緒することが頻繁にある。打ち解けるまでは、お互いでお互いを探り合っているような距離感が続いたりする。視線。会話のリズム。会話の間。話への耳の傾け方。相槌の打ち方。沈黙への対処。会話のやりとりをしている内に少しずつ相手の雰囲気や人となりがわかってくるが、結局相手のことをはっきりとつかみ

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透明猫

透明猫

今日はいったい何故なんだ

あの子が何匹もの猫達を連れて帰ってきた

勘弁してくれよ

君には私がいるじゃないか

私一匹じゃ猫足りないのというのか

三毛猫やぶち猫が部屋中を駆けずり回っている

いい加減にしてくれ

私はゆっくり微睡みたいんだ

頭にくるのはそれだけじゃない

あの子はこれだけ連れて帰って来たくせに

こいつらのことなんか
ずっとほったらかし

猫は責任を持って飼ってくてよ

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キミの気持ちが知りたくて。

いつも夜0時〜1時の間には寝るようにしている

1時過ぎるとなんか身体に悪い事しているようでソワソワしてしまう

次の日朝が早いので
本当だったら今すぐにでも眠りにつかないといけない

寝ようと思えば思うほど目がギラギラ冴えてくる

色々な考え事を始めてしまう

一度考え出したらもう止まらない…

牛って乳を搾られる時どんな気持ちなんだろう

ここからどんどん妄想が始まる

そして私は牛になる

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あじけない

あじけない

そうか、こんな感じだったっけ。
久しぶりに味わっている、この胸を締め付けるようなどうしようもない感情は、失恋の心の痛みというものだ。

おそらく最後になるであろう言葉を私がラインで送って、既読がついて、それに対して彼からの返信は無くて、そして一か月が過ぎた。
二年という長い期間続いた関係も、終わるときはこんなもののようだ。

これまでにもそんな経験はあったはずだが、今回のは特にひどいらしい。
すべ

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イルミネーションが綺麗でさ。

イルミネーションが綺麗でさ。

悲しい時ほど街のイルミネーションが嫌に綺麗に見える。汚い水ほど綺麗な花を咲かせる蓮のようだ。

街灯や常夜灯、車のハザードランプや赤信号、光るものは街の至るところに溢れているが、イルミネーションは、他とは違う輝きで人々を恍惚とさせたり、反対に淋しさを植えつけたりしている。無機質な枯れ木に巻き付けられた'それ'は一粒一粒が小さい。その小粒な灯が連なり、広がりを見せ、木全体に満点の星がまとわり付いたよ

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black out(短編小説)

black out(短編小説)

気がつけば僕は無機質なコール音を体内に取り入れているみたいに流れるように聴いていた。

着信拒否、されでいるわけではないのだろうか。
その場合は無機質なコール音ではなくて、無機質な女性のアナウンスが聞こえてくるはずだ。ちゃんと言葉を話す分コール音なんかよりもっと彼女の方が無機質だ。

彼女に阻まれなかったということは、着信拒否などではないはずだ。

なんども聴いていたからか、トゥルルルルルと鳴く

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赤いヒヤシンスに告ぐ

かつて 君の部屋で綺麗な花を咲かせた生き物の
球根に 動脈注射して 全部忘れさせてあげる
自分で付けた首輪に締められて 意識遠のく
公僕のシェパードみたいね
君の遺した 何もかもに執着してる

君なら良く分かってるはずでしょ
私 危ないやつが 好きなの
こんなことしたって 薬にも毒にもならないのに
私は徒労のハツカネズミ 歯車に絡み取られて
見知らぬ間に 笑い者にされて 自作自演の傑作

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3枚の「嫌われカード」を抱きしめて

3枚の「嫌われカード」を抱きしめて

3枚の「嫌われカード」タロットカードには3枚の嫌われ者がいる。

大アルカナ(『正義』とか『世界』とか有名なカード)22枚で嫌いなカード選手権を開いたら、間違いなく票はその3枚に集中する。集中した上で票を三分割させて混沌を極めるだろう。

もし大アルカナが高校生で22人のクラスならば、教室の隅でエロゲの話をしている三人に、女性のカード……『女帝』辺りが「キモーい! みんなぁ、あいつら見たら目が腐る

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絵本のこちら側とあちら側

絵本のこちら側とあちら側

子供とかかわったことのある人なら、1度は経験したことがある絵本の読み聞かせ。

1対1なら、自分のひざに子供をちょこんと座らせて絵本のページをめくる。横に並んで読んであげるかもしれない。お布団にゴロンと一緒に寝ころぶ絵本タイムも楽しい。

1対1のほかに、1人の読み手が複数の子供たちに絵本を読むこともある。絵本のさし絵を子供たちに向けて、読み手と聞き手が向かい合う。絵本のこちら側には読み手、絵本の

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『かつら飛ばし』(超短編小説)

できることなら、目を覆いたかった。

目の前にいるのは、私の知っているいつもの彼ではなかった。つむじ風に吹かれ、カツラを必死に追いかける情けない男だった。



その衝撃的な出来事の後、私たちは公園のブランコに腰を下ろした。交わす言葉は何もなく、気まずい空気だけが流れていた。

「あの・・・なんか、ごめん」
「何が?」
「・・・さっきのこと」

いつもの自信に満ちあふれた

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ああ、もう!

ああ、もう!

「素敵ですね」
そんなたった一言を発するのでも、私にとっては物凄く勇気が必要だった。

雨の日に傘を持っていなかったあなたを見て、ラッキー、と思ったけど。
一緒に入るのを想像しただけで、顔が火照ってしまった。
「あの・・・」
そう言って傘を差しだすのが精いっぱいだった。

「私は貴方が好きです」
とてもじゃないけど言葉に出せない私は、何度も気持ちをあの人に伝えるために、間接的なことをたくさんたくさ

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『耳の長い宇宙飛行士』(超短編小説)

『耳の長い宇宙飛行士』(超短編小説)

おかしな色をした雲だった。

紫と赤が混じり合った不思議な色が街を覆っていた。確か、外国の偉い予言者が言っていた。空が宇宙と融合し始めている時、こういう紫の空が現れると。

顔を上げたまま歩いていると、私は蓋の開いたマンホールに落下してしまった。視界が一気に真っ暗に染まり、数十秒落ち続けた。地面にたたき付けられたかと思ったら、トランポリンみたいな柔らかい布の上に落ちて、ボヨヨーン

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