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【小説編】蛸文(たこふみ)の読書記録

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僕の読書記録・小説編です。月に1冊ぐらいのペースで更新してます。
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【馬のような名字 チェーホフ傑作集】不条理・ナンセンスの嵐

【馬のような名字 チェーホフ傑作集】不条理・ナンセンスの嵐

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆

初チェーホフ。
本書に掲載されている全18編についてひとつひとつ感想を書いていく。

〜各話感想〜○馬のような名字

歯痛を治す、というまじない師の名前が思い出せない…という話。
歯痛と名前が思い出せないことの二重のイライラに悩まされる主人が気の毒で仕方ない(笑)

○小役人の死

序盤でいきなり驚かされた一作。
え、そんな終わり方アリ!?

○太っちょとやせ

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【人間そっくり】上質の密室会話劇

【人間そっくり】上質の密室会話劇

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

〜比較的読みやすい安部公房作品〜「壁」や「砂の女」などで有名な安部公房の作品。安部公房の作品は難解とよく言われるが、本書は安部公房作品の中でも比較的読みやすい作品である。安部公房入門としておすすめしたい一作でもある。

もともと安部公房は大好きな作家で、学生の頃は古典といえば安部公房しか読んでいなかった。難解ながらもクセがある独特の世界観を持つ安部公房作品に

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【同志少女よ、敵を撃て】戦禍に放り出された1人の女性狙撃兵の葛藤

【同志少女よ、敵を撃て】戦禍に放り出された1人の女性狙撃兵の葛藤

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆

〜実在した女性狙撃手たち〜アガサ・クリスティー賞を受賞し、本屋大賞にもノミネートされた話題作。

第二次世界大戦の独ソ戦を舞台とし、復讐に燃える1人の女性狙撃兵の戦いと葛藤を描く本作。虚実入り混じる物語の展開は、巻末の参考文献から読み取れるように、作り込みは緻密であり、かなりリアリティが感じられるフィクションとなっている。

1人の少女が戦争に巻き込まれて、狙

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【方舟】シチュエーションが素晴らしい

【方舟】シチュエーションが素晴らしい

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆

様々なところで話題になってた密室ミステリー小説。
他には無いシチュエーションが素晴らしかった。

不気味な地下建築に閉じ込められた10人。
不意に起こった地震により地下一階の入口が大岩で遮られた状況。みんなが生き残るためには、地下二階に誰かが残りその大岩を落とさなければならない。つまり、全員が助かるために犠牲になる1人を選ばなければならない。
そんな最中、閉じ込

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【時計じかけのオレンジ】(ネタバレあり)映画と原作、それぞれの魅力がある

【時計じかけのオレンジ】(ネタバレあり)映画と原作、それぞれの魅力がある

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

〜ハラショーな映画原作〜スタンリー・キューブリック監督の「時計じかけのオレンジ」は僕の大好きな映画のひとつだ。最初に観たのは18か19の時だったと思う。こう言うとなんだが、暴力の興奮を教えてくれた映画である。

主人公のアレックスが冒頭から犯罪をしまくる様は、非常に痛快で刺激的だった。いやらしくも怪しげな造形のセットや色使いに視覚的にも衝撃を受けたし、こんな

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【きこえる】(ネタバレあり!)音声で楽しむ新しい読書体験・蛸文の回答

【きこえる】(ネタバレあり!)音声で楽しむ新しい読書体験・蛸文の回答

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

最近ハマってる道尾秀介さんの最新作。五つの短編からなる本作は、各物語の最後にQRコードがあり、そこから得られる音声を聞くことでそれまで読んでいた物語の意外な真実が判明する、という「耳」を使った新感覚ミステリー小説だ。
「いけない」「いけないⅡ」の系譜とも言える。
たしかに他の小説では味わえない新感覚であり、小説を読まない人でも一つの謎解きエンタメとして楽しめ

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【ヌヌ 完璧なベビーシッター】子どもを預けること

【ヌヌ 完璧なベビーシッター】子どもを預けること

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆

〜なぜ、幼い子どもたちはヌヌに殺されたのか〜本作は、幼い子ども2人が殺される場面から始まる。殺したのはベビーシッター兼家政婦。フランスでは「ヌヌ」と呼ばれる。
ストーリーは結末から始まり、なぜヌヌが子供達を殺したのかを物語るように進行していく。

主な登場人物は、音響ディレクターである父・ポール、弁護士である母・ミリアム、2人の子どもミラとアダム、そして、その

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【走れメロス】嫌いの反対は…

【走れメロス】嫌いの反対は…

ハルキ文庫の280円シリーズから、「走れメロス」など全五篇が収録された1冊。
それぞれの話の簡単な感想を。

〜懶惰の歌留多〜「人間失格」の主人公・葉蔵が、もし太宰治本人なのだとしたら、僕は太宰治が嫌いである、というのは「人間失格」で書いたが…
もし、この懶惰の歌留多の文章が太宰治の本音なのだとしたら、やっぱり僕は太宰治が嫌いである…。
小説家、と名乗っている人間が、こんな文章を書いていいのだろう

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(ネタバレあり!)【世界でいちばん透きとおった物語】

(ネタバレあり!)【世界でいちばん透きとおった物語】

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆

〜初体験の仕掛け〜テレビなどでも紹介されて気になってた一冊。
「予測不可能なラスト!」や「ネタバレ厳禁!」なんて宣伝文句がある小説はいくらでもあるが、僕が個人的に気になってたのは「紙の本ならではの衝撃!」「電気書籍化不可能!」という評判。

読み終えてなるほど、これは紙の文庫本でなければ表現できない仕掛けだなと感心した。そして、これは他の本には無い衝撃だなぁと

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【異星の客】テーマたっぷりのSF超大作

【異星の客】テーマたっぷりのSF超大作

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

〜SF界の長老が書く大長編〜著者のロバート・A・ハインラインは、「SF界の長老」とも呼ばれている多くのSF作家が影響を受けた大作家である。アイザック・アシモフ、アーサー・C・クラークと並び世界のSF界ビッグスリーとも呼ばれていた。

そんな大作家ハインラインの代表作のひとつである本作は文庫本780ページに及ぶ大長編である。片手で読んでいるとほぼ間違いなく腱鞘

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【ボヴァリー夫人】理想と現実に翻弄される不倫小説

【ボヴァリー夫人】理想と現実に翻弄される不倫小説

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

〜「ボヴァリズム」の語源〜何かの折に「ボヴァリズム」という言葉を知った。夢と現実の不釣り合いから幻影を抱く精神状態のことを指す。
言い換えれば、豪華な暮らしや刺激的で幸福な生活を夢想しながらも、単調で退屈な現実とのギャップに困惑してしまうような状態のことをいう。

本作は言ってしまえば「不倫小説」なのだが、「ボヴァリズム」の語源ともなっている。タイトルにもな

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【銀河鉄道の夜】美しい描写に魅了される名作

【銀河鉄道の夜】美しい描写に魅了される名作

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆

ハルキ文庫から出版されている「280円文庫シリーズ」の「銀河鉄道の夜」には、表題作「銀河鉄道の夜」「雪渡り」「雨ニモマケズ」の3作品が収録されている。

それぞれについて簡単な感想を書こうと思う。

〜銀河鉄道の夜〜実は読むのは初めてである。
小学生ぐらいの子どもが読むものだ、という認識でいたのだが、思いの外難解な作品で驚いた。

銀河鉄道の世界を僕は単純に"

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【オーバーストーリー】「木は生きている」を心のレベルで理解する

【オーバーストーリー】「木は生きている」を心のレベルで理解する

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

〜読む前の自分には戻れなくなる一冊〜これは本作に出てくるセリフの一つである。

読み終えた後に、世界観や人生観が変わり、読む前の自分には戻れなくなる物語。
だいたい小説や映画に強く感化されるのは10代や学生時代であるのが一般的だが、僕は、幸いなことに、30代になってもそんな物語にいくつか出会っている。本作もそのひとつになった。

本作は、表面的には「森林破壊

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【地獄変】マイナー(?)な芥川作品四篇

【地獄変】マイナー(?)な芥川作品四篇

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆

ハルキ文庫の280円シリーズである本書には、芥川龍之介の短編「地獄変」「藪の中」「六の宮の姫君」「舞踏会」の4篇が収録されている。

実はどれもタイトルすら知らない作品だった。芥川作品の中でもマイナーな作品なのか?それとも単に自分が知らなかっただけなのか…。
とりあえず。一つ一つ簡単な感想を書いていきたい。

〜地獄変〜表題作である本作は、屏風絵を完成させるため

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