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琴線

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「春の雨の香り」を探して

「春の雨の香り」を探して

おいしいマグロは「春の雨の香り」がする。
それを知ってから、世界が少し広がりました。

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瀬戸内の出身なので、マグロを食べ慣れていません。
魚と聞いて思い浮かぶのはアジ、メバル、カレイ、カワハギ、タチウオなどで、こどものころにマグロを食べた記憶はありません。

だからかどうかわかりませんが、大人になってもマグロをおいしいと感じたことがほとんどありません。質の良い本マグロの赤身などはおいしい

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父と映画と私

父と映画と私

「あなたも行くかい」
と、父が私を映画館へ誘ったのは、あとにも先にも一度だけ。
あれはたしか高校生になった年だったか。
連れて行かれたのは神保町にあった岩波ホール。
あった、と過去形で語らなければならないことが本当に残念であると、きっと父は私の10倍は感じていることだろう。

映画を愛する人びとなら誰しも、入り口になった作品や映画体験を持っているのではないかと思う。
私の入り口はあの日の岩波ホール

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アイスが溶けた卒業式

アイスが溶けた卒業式

続くまで応援しよう…。

部活のために自宅から1時間半かけて中学校へ通うことを決意した次女。

「本当にできる?」

しつこいと思いながらも何度も同じことを聞いた。

「絶対できる!」

次女がそう言い切るのだから信じてやるしかない。

どこまで続くだろうか。無理だけはさせないでおこう。私も妻もサポートすることを約束したものの半信半疑だった。

「身体に何か無理が出たら考えましょう」

娘を受け入

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こぼれる

こぼれる

春。梅の花を見ている。

ほころぶ。こぼれる。梅の花にそえられる言葉。
長く保ってきたものがあふれてゆくような、こぼれるイメージの近くで梅の花は咲く。

こぼれる、というと思い出すことがある。
長い小説を書いていたころ、文章のことをひとつひとつ教えてくれた人がいて、私が書くものをいつも読んでくれた。書ききることができなくて、指がとまってしまう。その書きかけの小説について話していたとき、その人が言っ

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ポートフォリオのようなもの #4

ポートフォリオのようなもの #4

前回はこちら。

当時、写真を撮るのが好きだったので、写真で何か作れないかなと思っていた。

風景や人物写真はよく撮っていたが、それ以外の写真はほとんど撮ったことがなかったので、新境地を探して色々試してみた。

夜、学校に残ってた人に声をかけて、花火をぶん回してもらったり、
(火器使用の申請を出していなかったので、助手さんにすごい怒られた)

光っぽい感じに見えるように、コピー機の機能で遊んでみた

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ここにあること

ここにあること

人や場所のもつ
空気、温度、においに
敏感になって

いつからか 人の心の温度が
上がったり下がったりするのが
なんとなくわかるようになった

目に見える表情や言葉が
素直な感情とは限らない

でも心が動いた感覚は
そのまま伝わってくる

こどもの頃
自分のことに精一杯で
挙動不審になりやすく

周りを見渡し誰かを慮る
余裕がなかった

母や周りの人に
それを咎められ

言われなくても
いろんなこ

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風が吹いていた

風が吹いていた

長く長く続く一本道は、先が見えない。

来る時には途方もなく感じた距離は、

帰りには驚くほどに大したことなく感じる。

経験とは、人の感覚を簡単に変える。

3月30日の私と、4月1日の私でさえこうも違う。

4月1日。三番目の息子の引っ越しを終えて、私達夫婦はその日に自宅への帰路につくことにしていた。

朝、3人で近所で美味しいと評判のパンと

甘いカフェオレを飲んだ。

ただしくは、息子はパ

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がんばんなさいよ

がんばんなさいよ

「"がんばれ"ってあまり人に言わない方がいい」
「無理に頑張らなくていいんだよ」

昨今の社会ではそんな言葉をよく聞く。
確かにそれもそうだと思う。
頑張る、特に無理をして頑張ると何かしらの負担がかかり、心や体に支障をきたすこともある。
それはわかっているのではあるが、人には頑張って立ち上がらなければいけない時もあるし、何かを頑張ったことで自分の未来が開けていく時もある。

そして私には、自分がし

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参観で爆睡する我が子を讃えたお母さん。

参観で爆睡する我が子を讃えたお母さん。

いつからか、常識を超えた言動する保護者のことは「モンスターペアレント」なんて呼ば
れるようになった。
ネットやら身近な先生やらから、そんな「モンスターペアレント」は、話題に上ることが増えた。

一括りに「モンスター」なんて枕詞を乗っけるのもどうかと思う。が、実際に客観的に話を聞いていても、対峙する先生に同情してしまうような言動をされる保護者もいる。

しかし、この仕事をしているとその真逆のとっても

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2023年出会えてよかったnote

2023年出会えてよかったnote

今年もたくさんの出会いがありました。

勇気づけられたり…、優しい気持ちになれたり…、癒されたり…、学びになったり…、今日は読ませていただいて出会えてよかったnoteをご紹介させていただきます。

コメントしたものもあれば、サイレント好きを贈り続けたものも含めて、心が震えたオススメの20作品、ぜひお楽しみくださいませ。

1 日野笙さん

「 がんばんなさいよ 」

歳老いていくことも美しいと

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かすかな光と、日々の言葉

かすかな光と、日々の言葉

冬になると、すこし写真のトーンが変わる。
弱まる光にそっと抱かれたような感じになる。
冬の光は、とてもやさしい。

弱さ、というやさしさを思う。



変わろうと思った今年だった。
ちがう仕事をはじめ、新しい人たちと出逢い、いままで読まなかった本もたくさん読んだ。

何かに近づき、そのぶん何かから離れ、でもおだやかに、つつましく生活ができて、よかったと思う。

別れも、失ったものもたくさんあった

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秋に生まれたきみへ #贈りnote

秋に生まれたきみへ #贈りnote

もうまもなく秋が終わろうとしているけど、風邪ひいちゃって機嫌が悪いきみへ。毎夜、布団をかけるたび、泣き叫んだり、顔を蹴ったりしないでください。

布団を蹴りすぎて移動していくもので、最近毎日、顔の真横にきみの足があるんだよね。

暑いから大きなお世話だって?

きみのカワイイあんよのせいで、パパは犬並みに眠りが浅いです。これからますます寒くなるから暑がり男子のきみに可愛いスリーパーを用意します。と

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楚々

楚々

寒い時期に咲く桜を、今年はたくさん見た。

職場にきれいな冬桜が咲いていて、朝、いつも見上げている。ときどき小鳥が来る。

春咲きの桜と違って、ひと枝にわずかしか花をつけない冬桜は、ひかえめで、花も小ぶりで、その楚々とした佇まいにとても惹かれる。立ちどまって、よく眺めている。



そういう品種の桜だけでなく、ふだんは春に満開になる桜でも、意外と秋にも、咲くんだ、ということを知った秋だった。

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大切な人をファインダー越しに見つめると涙が出てくるのはなぜ。

大切な人をファインダー越しに見つめると涙が出てくるのはなぜ。

撮影は片想いからはじまります。
被写体から視線が帰ってきて、その視線に好意を感じたとき、ファインダーの中でちいさく恋が成就します。

涙が出るのはうれしいからです。

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写真は「いま」を「過去」にします。
写真を撮ることは「いま」が終わりの連続であると認めること。シャッターを切るたび「この瞬間」は明確に「過去のできごと」になります。

写真は終止符。
ファインダーは「いま」に「さよなら」を

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