灰かぶりの猫

久しぶりに小説を書き始めた、岩手県出身の三十代。読書は硬軟問わず。「猫」は動物の中でも…

灰かぶりの猫

久しぶりに小説を書き始めた、岩手県出身の三十代。読書は硬軟問わず。「猫」は動物の中でも特別。アニメ好き。好きな言葉は「どうで死ぬ身の一踊り」。その言葉通り、死ぬまでに一冊の著作を刊行することが目標。なお、投稿は不定期。

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  • 灰かぶりの猫の大あくび

    物書きの灰かぶりの猫と新聞記者の夏目が織りなす、荒唐無稽でネタ満載のメタフィクションパロディコントです。

  • 短編小説

    何も考えていない? そんなことありません。これまでに書いた短編小説をまとめています。

  • 短編小説あとがき

    作品の背景などを、好き勝手に語り尽くします。ネタバレもあります。

  • ショートショート

    ※みなもすなるしょふとしょふとといふものを、われもしてみむとてするなり。 『灰かぶりの猫日記』より

  • 投壜通信

    あなたへ向けて、届けるつもりのない投壜通信を綴っています。

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 皆さんどうも、灰かぶりの猫です。

 今回の小説のタイトル「If I Can't Be Yours」は、正確には「Thanatos - If I Can't Be Yours」です。ご存じの方はご存じだと思いますが、これは『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』の主題歌です。一つの幕切れとして劇中で流れる際、スタッフロールが螺旋状にスクロールされるのがとても印象的ですよね。
 

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登場人物

夏目愛衣 
黄昏新聞の新米記者。アニメ好き。今期のオススメは、『ガールズバンドクライ』。『アイドル編』では、アイドル育成補助金の100万円目当てに、385プロダクションのアイドルオーディションに参加。しかし目論見は外れ、貯金を切り崩す羽目に。

モノリス
灰かぶりの猫の自宅のAIスピーカー。現在は義体化済み。主人公の猫の復活のため、『クロノ・スタシス』という曰く付きのゲームを用意する。

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【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#17【アイドル編~なんとかしてアイドルに!~】エピローグ

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前回のあらすじ

385プロのプロデューサー冬元が企画したアイドルオーディションの実態は、アイドル候補生たちを良いように弄ぶリアリティーショーだった。問答無用でオーディエンスによるアイドル投票が行われていく中、夏目はオーディションの中止を求め、何故か観覧席に来ていたモノリスの助けを借り、冬元を地獄の底に叩きつける。

登場人物

夏目愛衣 
黄昏新聞の新米記者。アニメ好き。『学校編』のエピローグで

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【短編小説】「人生劇場」最終話

【短編小説】「人生劇場」最終話

 タクシー運転手の小門政明は、「とりあえず出してください」と男に言われた通り、交差点を右折し、O竹橋通りをN暮里駅方面に走り出した。小門は運転手歴13年目になるが、経験を重ねるにつれて、自然と身に着いた乗客に対する目配り気配りに加え、邪な関心だと自覚しつつも、一人一人の素性を観察するのが習慣になっていた。
 小門は客を乗せてまず、後ろを振り向いて行き先を聞く際に、客が素面なのか酒が入っているのかを

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【短編小説】「人生劇場」第4話(全5話)

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 ビルの壁のパネルに、休憩90分3000円~、120分3500円~、と書かれていたホテルの前の壊れかけた室外機は、相変わらず唸るようなエンジン音を立てて、オートバイのアクロバットショーを繰り広げていた。
 森野と別れた松田は、現場百篇の言葉通り、最初の現場に立ち戻っていた。現場検証というほどではないが、松田は中腰になり、辺りに何か犯人につながるようなものは無いかと、目を凝らして探し物をしてみた。排

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【短編小説】「人生劇場」第3話(全5話)

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 6月20日。午前11時。
 昨日の夜9時から深夜の1時過ぎまで、景子は1時間おきに、夫正則のスマートフォンに電話を掛け続けていたが、正則が出る気配は全くなかった。
LINEに何度メッセージを送っても既読が付かず、今朝になってから会社に電話を入れ、上司の坂本さんに「夫は出社してますか」と聞いてみたが、「え? 景子さんも知らないんですか? 私の方も何度も掛けては見ているんですが、まったくのなしのつぶ

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【短編小説】「人生劇場」第2話(全5話)

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 森野由梨こと、本名矢井田茜は、SNSの闇バイトで知り合った鏑木という男から、今日の午前10時30分ごろ、「ソドムの森」というラブホテルの101号室を訪ね、その部屋に待機している男に、「YUYA ABE」のクレジットカードを渡すようにと指示されていた。
 その後のことについては、そのまま男と事を行うのが嫌なのであれば、上手く話をそらして、部屋から逃げ出すなり何なりすればいいとも言われていた。K町の

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【短編小説】「人生劇場」第1話(全5話)

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 仁村岳弘の頭頂部すれすれを、喚きたてるようなエンジン音をさせながら、何台ものオートバイの前輪、そして後輪が次々と通り過ぎていく。地面に委ねられている仁村のからだは、オートバイの重力に合わせ、柔らかな豆腐のように小刻みに揺れ動く。一瞬、頭上からオートバイの気配が遠のいたかと思えば、引き返すようにすぐさまエンジン音が近づき、今度は左から右へと頭の上を通り過ぎていく。一思いにではなく、断片的に命を刈り

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【ショートショート】試作品4「三振の裏に」

【ショートショート】試作品4「三振の裏に」

 グラウンドの土で汚れたユニフォーム姿の翔太が、半べそを掻きながら、駄菓子屋の前を通り過ぎる。

――おい、なんだ。また、三振して帰ってきたのか。

 煙草を吸いながら、油を売っていた駄菓子屋の親父の声に、翔太が足を止める。

――お前は知らないだろうが、あのミスターはな、初めての試合は4打席連続三振だったんだぞ。

 翔太は、心ここにあらずと言った表情で、ぼんやりと足元を見つめていた。

――良

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連載【短編小説】「わたしの『片腕』」あとがき

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 皆さんどうも、灰かぶりの猫です。

 岩手も桜満開。一度、雨に打たれはしましたが、濡れた花びらも、また一興というものでしょう。散った桜の花筏に乗船すれば、知らず知らず、常世にでも流れ着きそうです。

 さて今回は、川端康成の短編『片腕』を枕に、短編を認めてみました。実を言いますと『片腕』は、今までに一度しか読んだことがありませんでした。短編を書くにあたり、長い時を経て再読してみたのですが、語り手

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連載【短編小説】「わたしの『片腕』」最終話

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 携帯電話がなかった当時、顔を知らない相手と会うためには、待ち合わせ場所は文字通りピンポイントで、かつ、お互いのことが分かる目印を身に付けておくことが必須でした。言ってしまえば、誰もが忠犬ハチ公像だった時代です。
 ――さて、わたし史上、生まれて初めてといっても良い、異性とのツーショット。赤毛のアンのように垢抜けず、何かと晩稲だったわたしも、お洒落と言うものを頭の上からつま先まで意識し、お手本とし

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【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#17【アイドル編~なんとかしてアイドルに!~】第三話

【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#17【アイドル編~なんとかしてアイドルに!~】第三話

前回のあらすじ

 第一次選考を無事通過した夏目。続く第二次選考では、385プロの敏腕プロデューサーの冬元から、新たな難題が提示される。それは「アイドルを哲学せよ!」というものだった。突如、照明が落とされ、ベタ塗りのような真っ暗な空間で、お互いの顔も名前も分からない中、第一次アイドル候補生たちは文字通り、手探りでアイドルとは何かを考え始める。

登場人物

夏目愛衣 
黄昏新聞の新米記者。アニメ好

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連載【短編小説】「わたしの『片腕』」第三話

連載【短編小説】「わたしの『片腕』」第三話

 先ほどお話したように、わたしの肩の付け根の傷跡については、母にいくら訊ねても、梨のつぶてでした。猿蟹合戦のように硬い柿でも投げつけたら、何か違った答えでも返ってきたのでしょうか。これでは一向に埒が明かないため、わたしはひとりで、ことの真相を確かめてみようと思い立ちました。思い立ったが吉日です。わたしは自分と同じような傷跡を持つ同士を求めて、当時、クラスの女子の間で流行り始めていた学習雑誌のペンフ

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【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#16【アイドル編~なんとかしてアイドルに!~】第二話

【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#16【アイドル編~なんとかしてアイドルに!~】第二話

登場人物

灰かぶりの猫
久しぶりに小説を書き始めた、岩手県出身の三十代。『学校編』で三島創一との問答の最中、この物語から姿を消す。

夏目愛衣 
黄昏新聞の新米記者。アニメ好き。『学校編』のエピローグで、モノリスが無断で義体を購入したため、急遽「100万円」を用意しなければならなくなり、アイドルの育成補助金目当てに、385プロダクションのアイドルオーディションに参加する。

モノリス
灰かぶりの

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連載【短編小説】「わたしの『片腕』」第二話

連載【短編小説】「わたしの『片腕』」第二話

 突然、席を外してしまって申し訳ありません。
 さて、わたしが川端康成さんの『片腕』という短編小説に出会った時のお話でしたね。続きをお話します。 

 陰翳礼讃とばかりに、三和土のある玄関は薄暗く、ウナギの寝床のように奥に長く伸びる廊下は、薄墨を刷いたかのようです。本当にこのまま、足を踏み入れてしまっても良いものでしょうか。行きはよいよい、帰りは怖いとはこのこと、振り返った時に玄関が無くなっている

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