ツジ 

'96(28) 震えながら立つ中央線のホームで、あなたの足を止める言葉が、私…

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'96(28) 震えながら立つ中央線のホームで、あなたの足を止める言葉が、私の中にあるように。                              (コメント返信遅くなってしまうことが多いのですが、必ず返しますのでご容赦ください)

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  • スキが100を超えたもの

    スキが100を超えたものだけ集めました。皆さんが読んでくれたこと、ほんとうに嬉しいです。(ほぼ100もいれちゃう)

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    自己紹介代わりの記事5つ。お気に入りのものです。

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生きてるうちに、好きと言え

夜中のコンビニ、スウェットですっぴん眼鏡も慣れたものだ。 びゅーびゅーと吹く風が、火照りを冷ますから、子犬のように身を寄せ合って歩く。 冬は君の手をポケットにお招…

ツジ 
1年前
360

博士、餃子、愛。

博士、というあだ名の恋人がいる。博士は理系の研究者で、たぶんちょっと変わっている。 怖いものは採血と大学の先生で、電話越しのわたしの声を立体音響で聴こうと日々努…

ツジ 
2時間前
12

海の見える街

そのお店は海のそば、古いトタン屋根の倉庫街にある。秘密基地のような狭い階段を上がると、建てつけの悪い古めかしいドア。鍵を開ける時は、えのながい大きな鍵でひと回し…

ツジ 
2週間前
93

大人になんかなるなよ、死ぬなよ、

「大人にならなくていいのに」そう悲しそうに、何気なく先生は言った。少し暑くなった病室に、静かな風が吹く。春の終わりの匂いがした。 * 昨日、初めてのメンタルクリ…

ツジ 
3週間前
111

桜が降る夜に、永遠を想う

桜が降る街、雨の音は深く胸の中まで降り注ぐ。春は美しく、世界中が活気づいて見える。芽吹くたくさんの命の香りにクラクラしては、自分の生を実感させられるそんな日々。…

ツジ 
1か月前
67

星やどりの恋人

恋人は、夏の星座をからだに宿している。光って見えるちいさな黒子は、わたしだけが知る秘密。抱きしめられた腕の中でこっそり願いをかける。「永遠に隣にいられますように…

ツジ 
1か月前
65

いつか思い出になる前に

「わたし、神様に抗議する!」そう泣きながら言うその顔が、愛おしくて切なくて、それでいてどうしようもなく可笑しい。二人で泣き笑いの夜、おばあちゃんとハグした今晩の…

ツジ 
1か月前
55

【お知らせ】ZINEフェスに出展します📚

【お知らせ】3/23(土)、吉祥寺PARCOにて行われるZINE(自主制作の本)フェスに参加します🕊️ 最近noteを更新できてなくて、寂しい気持ちがありながらも、とにかくイベント…

ツジ 
1か月前
55

知らないひと、きっと顔を見ることは一生ないひと。そんなひとたちがnoteを更新していて、人生を覗かせてくれる。街行くあのひとはもしかしたらフォロワーさんで、すれ違ったあの人にも物語があって。noteがすきだと、シンプルに思う。追い切れてないけれど読ませていただいてます、みんなすき

ツジ 
2か月前
72

"もし僕らの言葉がウイスキーであったなら"

「これはね、村上春樹が愛したお酒なんだ」そう言って、ウイスキーグラスに注いでくれるカティサーク。帆船に黄色のラベルが目印、ブレンデッドウイスキーと呼ばれるそれを…

ツジ 
2か月前
103

絶望の夜、抱きしめた憂鬱

暗闇が手招きしている。やさしい黒は、わたしのことをどこまでも引き込んで、いつのまにか溺れてしまう。苦しみを言葉にするたびに、どうにか息が吸える気がする。鬱は今日…

ツジ 
2か月前
55

birthday

今日、ひとつ、歳をとった。 立派なアラサー、20代ももうすぐ終わり。「若いねえ」と言われなくなる日はもうすぐだ。ずっと、生き急いできたような気がする。なんでも欲し…

ツジ 
2か月前
58

永遠なんてなくても

さよならを告げたのは、春風が吹くあたたかな夜だった。 つい先日、大好きなひとと離婚した。理由は"方向性の違い"ってやつ。我が家は解散、再結成は未定のまま。どんなバ…

ツジ 
2か月前
109

ツジ 
3か月前
53

お引越しは旅の予感

旅がはじまる予感のビートは、胸が高鳴る音がした。 * 愛する友達が手伝いに来てくれた引越し。3泊4日のちょっとした小旅行だ。東京と呼べない片田舎の街に、彼女はわざ…

ツジ 
3か月前
59

さよなら、東京

東京を捨てた。 懐かしい空港に降り立った瞬間、冷たい風が吹いて前髪を揺らす。きらめく滑走路とは正反対の闇に沈む町。虫の声さえ聞こえない、しんとした静かな夜。「こ…

ツジ 
3か月前
81
生きてるうちに、好きと言え

生きてるうちに、好きと言え

夜中のコンビニ、スウェットですっぴん眼鏡も慣れたものだ。
びゅーびゅーと吹く風が、火照りを冷ますから、子犬のように身を寄せ合って歩く。
冬は君の手をポケットにお招きできるからいい、とバンプが歌っていたな、と思い出しながら、彼のポケットに手を突っ込む。
あたたかいおでんと一年ぶりに再会して、彼は「柚子胡椒をつけるとうまいんだよ、しってる?」と笑う。
安い缶チューハイに、暖かい部屋で食べると最高なアイ

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博士、餃子、愛。

博士、餃子、愛。

博士、というあだ名の恋人がいる。博士は理系の研究者で、たぶんちょっと変わっている。

怖いものは採血と大学の先生で、電話越しのわたしの声を立体音響で聴こうと日々努力している。わたしの怒るポイントや悲しむポイントを知るたびに、「傾向と対策ができてきました」とか、「これはケアレスミスだなあ」という言い回しをする。わたしを何かしらの試験だと思ってるのか?と時々憤慨するが、そんなところも愛おしい。

そん

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海の見える街

海の見える街

そのお店は海のそば、古いトタン屋根の倉庫街にある。秘密基地のような狭い階段を上がると、建てつけの悪い古めかしいドア。鍵を開ける時は、えのながい大きな鍵でひと回し。まるで物語のはじまりみたいに開くドアの先には、たくさんの夢が詰まった本が並ぶ。美しいポスター、おしゃれな写真集。物語の隙間に挟み込まれる挿絵のようなお店は、ちいさいけれど愛おしい。すみずみまで愛に満たされた、美しい本屋さん。そんな場所で、

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大人になんかなるなよ、死ぬなよ、

大人になんかなるなよ、死ぬなよ、

「大人にならなくていいのに」そう悲しそうに、何気なく先生は言った。少し暑くなった病室に、静かな風が吹く。春の終わりの匂いがした。



昨日、初めてのメンタルクリニックへ行った。東京から引っ越したせいで、新しい病院を探していたからだ。「3ヶ月後になっちゃうんですけど…」予約時にそう言われた時は絶望したけれど、なんとか騙し騙しこの日を迎えた。精神科は、ほんとうに空いていない。今日死にたいのに!今日

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桜が降る夜に、永遠を想う

桜が降る夜に、永遠を想う

桜が降る街、雨の音は深く胸の中まで降り注ぐ。春は美しく、世界中が活気づいて見える。芽吹くたくさんの命の香りにクラクラしては、自分の生を実感させられるそんな日々。孤独な生きものとして生まれた人間たちは、ただ愛を求めて彷徨う。こんな穏やかな春の日は、そんな自分の孤独と切なさを感じて涙がこぼれ落ちる。

桜は咲いている時より、散っている方が好きだ。歩けば桜の絨毯、舞い落ちる花びらはわたしの肩で微笑みかけ

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星やどりの恋人

星やどりの恋人

恋人は、夏の星座をからだに宿している。光って見えるちいさな黒子は、わたしだけが知る秘密。抱きしめられた腕の中でこっそり願いをかける。「永遠に隣にいられますように」星に願いを、彼の瞳を見つめながら。

恋人と出会ったのは、本当にありきたりなもの。離婚して、興味本位でいれたマッチングアプリで初日に出会ったのが彼だった。なんとなくお互いのいいねで始まる現代的なラブストーリー。メッセージを何回かやり取りし

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いつか思い出になる前に

いつか思い出になる前に

「わたし、神様に抗議する!」そう泣きながら言うその顔が、愛おしくて切なくて、それでいてどうしようもなく可笑しい。二人で泣き笑いの夜、おばあちゃんとハグした今晩の月は今まででいちばん美しかった。

わたしが不妊症だと告げられたのは、数ヶ月前のこと。時間が経つにつれて、自分なりに咀嚼して、理解して、納得した。友人たちは愛と励ましを送ってくれたし、わたしはもう平気!と力強く思っていた。離婚届けが受理され

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【お知らせ】ZINEフェスに出展します📚

【お知らせ】ZINEフェスに出展します📚

【お知らせ】3/23(土)、吉祥寺PARCOにて行われるZINE(自主制作の本)フェスに参加します🕊️

最近noteを更新できてなくて、寂しい気持ちがありながらも、とにかくイベントのための入稿作業で死にかけていました。こころを込めてたくさん頭を悩ませて作った本が、あなたのもとに届くことを夢見ています。

こういったイベントに参加するのは初めてのことでド緊張かつワクワクしています…!よければ遊び

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知らないひと、きっと顔を見ることは一生ないひと。そんなひとたちがnoteを更新していて、人生を覗かせてくれる。街行くあのひとはもしかしたらフォロワーさんで、すれ違ったあの人にも物語があって。noteがすきだと、シンプルに思う。追い切れてないけれど読ませていただいてます、みんなすき

"もし僕らの言葉がウイスキーであったなら"

"もし僕らの言葉がウイスキーであったなら"

「これはね、村上春樹が愛したお酒なんだ」そう言って、ウイスキーグラスに注いでくれるカティサーク。帆船に黄色のラベルが目印、ブレンデッドウイスキーと呼ばれるそれをひと口。胸が熱くなって、どきどきするのはお酒のせい?それとも、なんて想いながら見つめ合う瞬間。そんな夜を、愛していた。



昨日は越してきて初めて、夜の街へ出かけた。地元のお洒落な場所なんて行き尽くしたと思っていた高校時代。大人になって

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絶望の夜、抱きしめた憂鬱

絶望の夜、抱きしめた憂鬱

暗闇が手招きしている。やさしい黒は、わたしのことをどこまでも引き込んで、いつのまにか溺れてしまう。苦しみを言葉にするたびに、どうにか息が吸える気がする。鬱は今日も絶好調、治ることなんてありえないんじゃない?と笑えるほど。素敵な言葉ばかりを紡ぎたいのに、そんな風に上手くはいかない。人生ってたぶんこんなもん。憂鬱な夜ばかりを過ごすことにいつまで経っても慣れなくて、毎回新鮮な気持ちで堕ちてしまう。馬鹿み

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birthday

birthday

今日、ひとつ、歳をとった。

立派なアラサー、20代ももうすぐ終わり。「若いねえ」と言われなくなる日はもうすぐだ。ずっと、生き急いできたような気がする。なんでも欲しがり、なんでも捨てた。欲は無限の使い捨て、若さをもてあますうちに消費してしまう。大人が言う「今を大事にね」なんて、聞こえないふりして走ってきた。

けれど、今になるとよく分かる。自分が若さを無駄遣いしていたことや、向こう見ずだったこと。

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永遠なんてなくても

永遠なんてなくても

さよならを告げたのは、春風が吹くあたたかな夜だった。

つい先日、大好きなひとと離婚した。理由は"方向性の違い"ってやつ。我が家は解散、再結成は未定のまま。どんなバンドも、大体最後には方向性の違いで解散してしまう。昔から不思議でしょうがなかったこの言葉が、今となってはよくわかる。たくさん悩んで、たくさんぶつかって、その先に出た答えはやっぱり"方向性の違い"。

世界で一番、愛していたひとだった。二

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お引越しは旅の予感

お引越しは旅の予感

旅がはじまる予感のビートは、胸が高鳴る音がした。



愛する友達が手伝いに来てくれた引越し。3泊4日のちょっとした小旅行だ。東京と呼べない片田舎の街に、彼女はわざわざ来てくれた。たぶんわたしの引越しがなければ一生聞くこともなかった街だろう。飛行機とバス、電車を乗り継いで着いた"過去の"我が家は、なんだか知らない家みたいだった。

たくさんの想い出が詰まったこの家を出てゆく。そう思うと、切なさと

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さよなら、東京

さよなら、東京

東京を捨てた。

懐かしい空港に降り立った瞬間、冷たい風が吹いて前髪を揺らす。きらめく滑走路とは正反対の闇に沈む町。虫の声さえ聞こえない、しんとした静かな夜。「この町で、生きてゆく」そう小さくつぶやいて、夜空を見上げた。冬の大三角が、眩しいくらいに光っていた。



この町にはなにもない、ずっとそう思っていた。どこへ行くにも車が必要で、行き先は大体イオン。友達と遊ぶのも初デートも、お洒落して出か

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