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スキが100を超えたもの

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スキが100を超えたものだけ集めました。皆さんが読んでくれたこと、ほんとうに嬉しいです。(ほぼ100もいれちゃう)
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記事一覧

大人になんかなるなよ、死ぬなよ、

大人になんかなるなよ、死ぬなよ、

「大人にならなくていいのに」そう悲しそうに、何気なく先生は言った。少し暑くなった病室に、静かな風が吹く。春の終わりの匂いがした。



昨日、初めてのメンタルクリニックへ行った。東京から引っ越したせいで、新しい病院を探していたからだ。「3ヶ月後になっちゃうんですけど…」予約時にそう言われた時は絶望したけれど、なんとか騙し騙しこの日を迎えた。精神科は、ほんとうに空いていない。今日死にたいのに!今日

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"もし僕らの言葉がウイスキーであったなら"

"もし僕らの言葉がウイスキーであったなら"

「これはね、村上春樹が愛したお酒なんだ」そう言って、ウイスキーグラスに注いでくれるカティサーク。帆船に黄色のラベルが目印、ブレンデッドウイスキーと呼ばれるそれをひと口。胸が熱くなって、どきどきするのはお酒のせい?それとも、なんて想いながら見つめ合う瞬間。そんな夜を、愛していた。



昨日は越してきて初めて、夜の街へ出かけた。地元のお洒落な場所なんて行き尽くしたと思っていた高校時代。大人になって

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永遠なんてなくても

永遠なんてなくても

さよならを告げたのは、春風が吹くあたたかな夜だった。

つい先日、大好きなひとと離婚した。理由は"方向性の違い"ってやつ。我が家は解散、再結成は未定のまま。どんなバンドも、大体最後には方向性の違いで解散してしまう。昔から不思議でしょうがなかったこの言葉が、今となってはよくわかる。たくさん悩んで、たくさんぶつかって、その先に出た答えはやっぱり"方向性の違い"。

世界で一番、愛していたひとだった。二

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火曜日、ほうれん草と愛を買った

火曜日、ほうれん草と愛を買った

澄んだ冬の青、まばゆい光が瞳を照らす。このお店に来ると、いつも緊張してしまう。「こ、こんにちは!」裏返りそうな声で声をかけると、いらっしゃいとおばあちゃんが微笑んでくれる。穏やかな冬の日、春の匂いがした。

近所の野菜直売所は、農家さんがやっているちいさなお店だ。普段はスーパーで買い物するけれど、時々このお店に寄る。大体野菜が100円〜200円。品数は少ないけれど、お目当ての野菜がある時はラッキー

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結婚したわたし、恋をはじめます

結婚したわたし、恋をはじめます

【わたしはゆるいポリアモリーになりたい】

「病める時も、健やかなる時も、愛し、慈しむと誓いますか?」

結婚して一年過ぎたわたしが、これを呪いの言葉だと思うようになったのは、最近のことだ。愛する、ということについて考えるたびに、わたしはこの社会が定義する"愛し方"に違和感を覚えるようになった。その象徴がこの誓いの言葉だ。病める時も、健やかなる時も。そんな愛なんて存在しない。だって、ひとは完璧じゃ

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あの子は天使

あの子は天使

蒼く染まる空、白い湯気がもうもうと立ち込め、わたしたちはまるで幻想の中。ちいさなすっぱだかの天使が「おねえちゃん、かわいいねえ」と微笑む。まるで天国のような場所に、1泊2日の旅をしてきた。



ひとりでお酒を抱え乗り込んだのは、その名の通り「ロマンス」を乗せて箱根に向かう列車、ロマンスカー。向かい合わせで4人座ることもでき、飲食も自由。まさに旅人たちのための列車だ。おばあちゃんたちがキャッキャ

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36度の体温

36度の体温

ノルウェーから、赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。知らない言葉が溢れる雑踏から「こちら気温は2度、手が冷たいよ」とささやくボイスメッセージ。旅をしている友人から届いた、遠い国から伝わるその声に、36度の熱を感じてあたたかくなる。街の空気がまるごと真空パックに詰められたような音は、わたしのこころにちゃんと届いてるよ、と伝えたくなった。



こちらは夜、深夜0時を過ぎたところ。スーパーで月見団子を見

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午前3時のティータイム

午前3時のティータイム

午前3時のティータイム。お気に入りの音楽をかけながら踊る夜。紅茶からはローズとカモミールの香りがして、その隣にはアルフォート。たった100円で幸せになれるなら、安いもんだとかじりつく。

世の中には「幸せになる方法」が溢れてる。痩せること、可愛くなること、素敵な男を捕まえること、お金持ちになること。毎日SNSにはそんなメソッドが流れてきては、わたしたちを狂わせる。濁ってしまう目つき、乾いてゆくここ

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金木犀が香る頃、君と別れ

金木犀が香る頃、君と別れ

秋晴れの清々しい空、肌寒い風が涙をさらう。金木犀が香りはじめた季節、パートナーは旅立っていった。遠い国へと。



2年の単身赴任へ、海外に旅立つ彼。最後の思い出をつくろう!と前日に羽田空港に泊まることにしたわたしたち。羽田を朝まで散歩しようよ、なんて笑いながら向かう。

家を出ると、なんだかいつもより空が綺麗だ。オレンジ色の西陽が差す街は、美しく光っている。思わず涙ぐんでしまって、「眩しいから

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生きてるうちに、好きと言え

生きてるうちに、好きと言え

夜中のコンビニ、スウェットですっぴん眼鏡も慣れたものだ。
びゅーびゅーと吹く風が、火照りを冷ますから、子犬のように身を寄せ合って歩く。
冬は君の手をポケットにお招きできるからいい、とバンプが歌っていたな、と思い出しながら、彼のポケットに手を突っ込む。
あたたかいおでんと一年ぶりに再会して、彼は「柚子胡椒をつけるとうまいんだよ、しってる?」と笑う。
安い缶チューハイに、暖かい部屋で食べると最高なアイ

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泣きながらご飯を食べた事があるひとは生きていけます

泣きながらご飯を食べた事があるひとは生きていけます

生きることは食べること。
食べることは生きること。



こないだの未遂騒動からしばらく、わたしは何も口にできなかった。何を食べても戻してしまうし、食べることに全然前向きになれなかった。だって、食べたら生きてしまうもの。

3日ぶりに口にしたのは、あたたかいうどんだった。わたしは讃岐のにんげんで、うどん県と呼ばれる地で生まれた生粋のうどん好きだ。そんなわたしがうどんですら食べられなかった3日、ま

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初恋の待ち合わせはいつも踊り場で。【同和問題】

初恋の待ち合わせはいつも踊り場で。【同和問題】

私には、一度だけ告白をされた経験がある。
告白と言っても罪を告白する訳ではなく、いわゆる「ラブ」というやつだ。

小学生の頃引っ越してきた私は、転校生として小さな田舎町で過ごした。
娯楽といえば駄菓子屋でお菓子を買うくらいのレベル。

当然、みんなそれなりにグレた。
やることがないからだ。

同級生の一部は、普通に万引きしていたし、授業中はみんな机の下でゲームをしていた。
特にグレていたのが私のニ

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あのひとの香水は、大人の香りがした

あのひとの香水は、大人の香りがした

サングラスを頭にのせて、髪をかきあげながらそのひとはやってくる。かっこいい車に乗って、都会の風をまとうそのひとは、わたしにいつもトキメキを教えてくれるひとだった。

そのひとは母の友だちで、お日さまの香りの代わりに、いつも花の香りを纏っていた。うちでは嗅ぐことのないその香りがわたしはだいすきで、母に「あの香りにして!」と駄々をこねては怒られていた。今思えばきっと高い香水だったのだろう、わたしも!と

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飛び込む中央線、存在の耐えられない軽さ【日記】

飛び込む中央線、存在の耐えられない軽さ【日記】

小林私を聴きながら、一人夜明けを待っている。こんな夜にぴったりのメロディが私の心を躍らせる。最近Spotifyは私の好みを熟知してるみたい。次の曲はクリープハイプだったから。東京の街にぴったりの音楽たちが、ネオンと排水の明暗をぎらぎらさせる。

風が冷たくなって、重ね着ができる季節になった。お洒落な人はみんなレイヤードが得意らしいけど、私がやるとなんだかゴチャゴチャしてるだけで助けてくれ〜〜〜とい

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