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自己紹介をば、少々。
はじめまして、万里 一空(ばんり・いっくう)と申します。本名を河鰭 万里(かわばた・ばんり)と言いまして、こちらの名義でもこれまで細々と執筆活動をしてきました。
ざっくりと筆に関する経歴をまとめますと、東工大在学中に文学に溺れ、フランスの作家ル・クレジオについて卒論を書きました。その後、ブラジルにあった日刊邦字紙サンパウロ新聞で日系社会部記者を経験。帰国後、河北新報及び愛媛新聞でコラムを担
ASOBIJOSの珍道中⑯:ファインダイニングの客と給仕たち
”ロマンティックの裏には、必ず、隠された激情がある。”
と、この店一番の古株給仕人のシラガハヤブサが、両眉の上に深いシワを作って、貫くような眼差しをこちらに向けました。
フレンチレストラン『La petite plantation』で給仕補佐になってから、すでに3ヶ月ほどが過ぎ、給仕人たちとも気心が知れてきていました。
中でもこの古株給仕人のシラガハヤブサは、いつもTim Horton
ASOBIJOSの珍道中⑮:百花繚乱、オールドタウン
ジャック=カルティエ広場は、幅の広いゆるやかな斜面で、たおやかなサンローラン川の流れを見下ろし、今日も世界中の観光客を乗せ、虹色の巨大洗濯機のごとく、ごったがえした夢の渦です。左右には赤、紺、緑の大きな天幕を広げたオープンテラスのレストランが並び、蝶ネクタイをした給仕たちが担ぐお盆の上には、黒や金に輝くビールが泡立ち、ワイングラスが重なり合う音が鳴り響きます。
ガラガラガラと、その斜面を転がり
ASOBIJOSの珍道中⑭:夢の街、オールドタウンへ
”荷物もう入れた〜?”
”入れたよ〜”
”おにぎりはぁ?”
”入れた〜!”
”水は?”
”入ってるよ〜!”
”おぉ、あぶねえ、バッテリー忘れるところだったぁ。”
はじめはただ、尺八一管とお扇子一本の身軽さで路上に繰り出していた私たちでしたが、しばらくして、大きなアンプを購入し、アンプを使うためにはマイクとケーブルも必要になり、それを一日中使うためにはバッテリーも持つようになりまし
ASOBIJOSの珍道中⑬:夏、賑わい盛りのモントリオールで路上芸人をば。
”ぬわぁっ。”
”ぬわぁっ!”
”うるさっ。”
”寝言で起こされたんこっちやで。”
”うわぁ、夢の中でも踊っとったわぁ。”
”休みないねえ、Swallows。”
”よっしゃあ、今日も行くかぁ、路上〜ぅぅう〜!”と、あくびを一つ。短い腕と背中をめい一杯伸ばして、MARCOさんのお目覚めです。
レストランでの仕事が夜中まであるため、私たちの起床はだいたい昼前の10時ごろ。カンカン照りの
ASOBIJOSの珍道中⑫:モントリオールで見た、良い仕事
良い仕事とは何でしょう。
その人の靴を見ればわかる。手を見ればわかる。いやいや、話し方、振る舞いを見ればわかる。と言う人もいれば、はたまた、細部にこぼれがないかどうかだ。あるいは、長年の鍛錬によって、その人にしか成し得ない意匠が凝らされているかどうかだ。などなど。
千差万別、十人十色。正直に言って、私にもよくわかりません。
しかし、日本はもちろん、中国や東南アジア、インド、中東、ここ北米を
ASOBIJOSの珍道中⑪:ようやくモントリオールにも春が
コンクリートのビル群が並んだモントリオールの中心街の北側に、あまりに唐突に、近代フランスの香りがむんむんと立ち込める石造りの巨大な門が立ち現れまして、その門をくぐると、急に別世界のように、伸び伸びと育った樹木と芝が生い茂った一面の緑が広がります。その門からは広い舗装道がまっすぐと伸びていて、その左右のベンチに座った大学生たちのうたたねまじりの読書や、健気で不毛な色恋を、ふくふくとした花々の咲き
もっとみるASOBIJOSの珍道中⑨:NY、路上で尺八吹くのは肝試し
ゴトリ、ゴトリ、と揺れる車窓には、早朝の柔らかな陽にとろけたモントリオールのカラフルなビル群が流れ、ジープとキャンピングカーとロッジが並んだ田舎町も二つ、三つ、と流れてゆき、白樺の樹々の間から覗いた巨大な湖の上で、西陽が燃え、いつしかまた、あのニューヨークへ、無作法に、ぶっきらぼうに立ち並んだ高層ビルの窓が輝きひしめき、三日月もせま苦しそうにかかった、夜の大都会に、列車は突き刺さりました。
前
ASOBIJOSの珍道中⑧:NY、7年ぶりに。
”もう二度と飛行機なんて…”とMARCOさんは相変わらず。
今度はニューヨークに下り立ちました。3月下旬のことです。2泊だけの予定で、今回の目的は、尺八でジャズの作曲や演奏をしているザック・ジンガー氏に会いにいくことでした。空港から地下鉄に乗り、予約していたソーホーエリアのホテルへ向かいます。
”切符ってこれでいいんだっけ。”
”なんか、うまくカード決済ができんのやけど〜”
などと、田舎
ASOBIJOSの珍道中⑦(MARCO執筆):モントリオールで拾った月額7,000円の絆たち
モントリオールにきてから2ヶ月経つというのに、私はニートだった。近所のカフェは全部落ちたし、送ったメールは返信が来ないし、そもそも求人は全部フランス語必須と書いてある。ずっと避けていた、e-Mapleという在カナダ日本人向けの掲示板サイトを開くと、キラキラした文面で、日本食レストランの求人が並んでいた。私はそこで、やっとの思いでウェイトレスの仕事を見つける。
変なレストランだった。念仏と神棚
ASOBIJOSの珍道中⑥:ディッシュウォッシャー
”一空、同じ皿はまとめるんだよ。洗い終わった皿もイチイチ運ばなくていいから。ダメダメ、そんなんじゃ遅い。あのね、もっと先を見て仕事するんだよ。どうやってやれば効率よくできるか、考えながら動くの、わかる?どんな仕事だってそうだからね。”
と、マグロの料理長は早口で急かします。私が働くことになったフレンチレストラン『La petite plantation』には、大きなバーカウンターといくつものテ
ASOBIJOSの珍道中⑤:スカンクに追われ
3月初旬、凍りついた街の闇夜を歩いていると、背後からガサゴソと、氷を引っ掻くような音がしました。嫌な予感。ダッと、全力でダッシュをしてみましたが、すぐに追いつかれました。獣。黒い毛にフサフサの白い毛、猫のような鼻。そうです。スカンクです。
両手に食べ物がパンパンに入った買い物袋を持ってゼーハーゼーハーと息を切らす私から、いつでも飛びかかれるほど近い、1メートルくらいのところから、じっと私を睨み
ASOBIJOSの珍道中④:アソビジョーズ、遊びすぎーる。
さて、2月の下旬、モントリオールに到着したばかり。生活を始めるにあたって、まずは家と仕事を探さなければなりません。しかし、そんなもん、なんとかなるやろ、とジャズバーに出かけるのが、愚か者夫婦の私たち、ASOBIJOS(アソビジョーズ)でございます。
モントリオールは夏に大きなジャズフェスティバルが開催されるほど、ジャズが盛んな土地で、毎日ジャズのライブがあるバーも何軒かあります。そのうちの一軒