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死ぬほど帰りたかった故郷への想いを手放すことにした
愛していた相手をあきらめることにしました。
なんて言うと大仰だけれど、一般的な人の感覚で言えばたぶん、生きていたいのに死ぬことを選ぶくらいの一大事だ。
故郷が好きで、好きで、愛していたと思う。18で離れてからの干支一回り、私はずっと「帰りたい」と切望していた。その一方で、故郷秋田県が自分のようなセクシュアルマイノリティーが暮らすには非常に難儀な土地であろうことも理解していた、つもりだった。
帰
ルームシェアではない日々
ああ、マジョリティーのカップルだったらな、と何度か思い、そのたびにそれを打ち消した。恋人とはじめて部屋を借りたときの話だ。
どこのだれともわからない人にわれわれの関係を説明するのが嫌だった。
人をうたがうことをせず(知らないわけではない)、「東京はいいひとが多いね」とにっこりする彼女とちがって、当時の私は「騙されてなるものか」という思いが強かった。頭のかたい人やうわさ好きな人が担当者になっ
はじめて借りた部屋は消えてしまった
うまれて初めてのひとり暮らしは群馬で始まった。10代の若者だった私はロフトというものにひどくあこがれて、8畳間に6畳のロフトがついたアパートを父に借りてもらった。
引越し当日はろくな荷ほどきもせず、床にオーブントースターを置いてグラタンをつくった。もっとかんたんにできるものはいくらでもあったけれど、熱々の何かでおなかを満たしたい気分だった。たぶん、あの年の春は少し寒かったから。
6畳もある
故郷を離れて方舟に乗った日
東京という街で暮らし始めた最初の日のことはよく覚えていない。
代わりに鮮明に覚えているのは、8畳ロフト付きの1Kに住み着いた日のことだ。大学進学のためにうまれ故郷を離れ、群馬のとある街で借りたアパート。大学から2kmほど離れたその部屋は当時のわたしよりもひと回りほど歳上で、窓際に取り付けられたエアコンはガスで動くタイプだった。リモコンは文字が掠れて読めず、そのうえ細く頼りないケーブルでエアコンに