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本とのつきあい

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本に埋もれて生きています。2900冊くらいは書評という形で記録に残しているので、ちびちびとご覧になれるように配備していきます。でもあまりに鮮度のなくなったものはご勘弁。
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記事一覧

『宗教と子ども』(毎日新聞取材班・明石書店)

『宗教と子ども』(毎日新聞取材班・明石書店)

当然、と言ってもよいと思う。2022年7月8日の安倍元首相銃撃事件から、毎日新聞社に、ひとつの取材が始まった。
 
宗教とは何か。これを問うことも始まった。特にその狙撃犯が位置しているという「宗教2世」という存在に、世間が関心をもった。次第にその眼差しは、彼らを被害者だという世論を巻き起こしてゆく。そして、子どもに宗教を教えてはいけない、というような風潮が、「無宗教」を自称する人々により、唯一の正

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『現代思想04 2024vol.52-5 特集・<子ども>を考える』(青土社)

『現代思想04 2024vol.52-5 特集・<子ども>を考える』(青土社)

曲がりなりにも教育を生業としている以上、「子ども」が特集されたら、読まねばなるまい。「現代思想」は、多くの論者の声を集め、内容的にも水準が高い。そして同じことを何人もが述べるのではなく、多角的な視点を紹介してくれる。「こどもの日」ということで、こどもへ眼差しを向けてみよう。
 
確かに多角的だった。全般的な対談に続いては、「家族」「法律」「制度」「学び」「未来」といった概略に沿った形で、論述が進ん

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『説教25 説教塾紀要』(教文館)

『説教25 説教塾紀要』(教文館)

自分の手の届く世界ではなかった。説教のプロたちの営みは、遠い雲の上の世界だった。「説教塾紀要」の存在は知っていたが、自分が読むようなものではない、と思っていた。
 
だが、主宰の加藤常昭先生の最後の説教が掲載されていると聞き、迷わず購入の手続きをとった。2024年3月発行の最新版である。
 
2023年10月8日のその礼拝の末席を私は汚していた。加藤先生と時を共有してその説教を聴くのは、初めてだっ

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『説教ワークブック:豊かな説教のための15講』

『説教ワークブック:豊かな説教のための15講』

(トマス・H・トロウガー;レオノラ・タブス・ティスデール・吉村和雄訳・日本キリスト教団出版局)
 
私にとって3000円+税とは高価な本だ。だが、気になっていた。キリスト教の礼拝説教というものに執着のある私だから、テーマが気になる、というのも事実だ。だが、この共著の一人が、トロウガーであるという点が、どうしても見逃せなかった。『豊かな説教へ 想像力の働き』を読んだからだ。日本の説教塾でも、説教と想

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『「死にたい」と言われたら』(末木新・ちくまプリマー新書)

『「死にたい」と言われたら』(末木新・ちくまプリマー新書)

これは、テーマが重い。サブタイトルが「自殺の心理学」である。いまは「自死」という言い方が広まっており、すでに「自殺」という語が刺激の強すぎる語だと認定されつつある。だが、中高生にこの言葉を突きつけることになる。ちくまプリマー新書は、本来そこをターゲットに据えているからである。恐らく出版社側でも議論があったことだろう。だが、出した。その気概と向き合いたい。
 
著者はもちろん心理学畑の人である。まだ

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『説教の神学』(D.リッチュル・関田寛雄訳・日本基督教団出版局)

『説教の神学』(D.リッチュル・関田寛雄訳・日本基督教団出版局)

原書は1960年であるというが、実はその少し後から、翻訳の話があったのだという。だが、訳者が、青山学院大学の神学科廃止の問題に巻き込まれ、翻訳へ力を注ぐことができないまま、20年が経つ。そこでようやく日の目を見るようになった。私たちに、説教に対する力強い思想がもたらされた。
 
リッチュルは、1929年にスイスのバーゼルで生まれた。と聞くと、やはりカール・バルトとの関係がどうか、というところが気に

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『道徳的人間と非道徳的社会』(ラインホールド・ニーバー:千葉眞訳・岩波文庫)

『道徳的人間と非道徳的社会』(ラインホールド・ニーバー:千葉眞訳・岩波文庫)

岩波文庫から、ニーバーの著作が出る。そのニュースだけで、すぐに注文した。ニーバーといえば、キリスト教の世界でその祈りを知らない人はいないであろう。本書でも、訳者解説の最後の頁で紹介されている。
 
  O God, Give us
  Serenity to accept what cannot be changed,
  Courage to change what should be chan

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『神学でこんなにわかる「村上春樹」』(佐藤優・新潮社)

『神学でこんなにわかる「村上春樹」』(佐藤優・新潮社)

書館でこの本を見つけて、これは読むしかない、とすぐに借りた。佐藤優の本は沢山読んだとは言えないが、その人の経歴やよく言っていることについては、それなりに知るところがある。また、村上春樹は、その多くの作品を読んでいる。このタッグは読まねばならない。そう思って家に帰って開いたら、本書は『騎士団長殺し』のコメンタリーだった。
 
私はそれをまだ読んでいなかった。読む機会がないわけではなかった。読みたがっ

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『天の国の種』(バーバラ・ブラウン・テイラー;平野克己・古本みさ訳;キリスト新聞社)

『天の国の種』(バーバラ・ブラウン・テイラー;平野克己・古本みさ訳;キリスト新聞社)

以前本書をメインに据えて触れたことがあるが、本の内容の紹介はしていなかった。本書に関して再読する機会があったとき、それで発覚した。以前読んでいたのに、このコーナーにまとめていなかったのだ。不覚である。遅ればせながら、ご紹介申し上げる。
 
最初に読んだときも、そのイメージ豊かなメッセージに驚愕した。それは明らかに聖書を逸脱している。だが、いま手許の私たちのいる世界での場面としては、まさにそういうこ

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『現代思想03 2024vol.52-4 特集・人生の意味の哲学』(青土社)

『現代思想03 2024vol.52-4 特集・人生の意味の哲学』(青土社)

なんとも思想らしくないタイトルである。同時に、一般の人が手に取りやすいタイトルである。「人生」を問うことが、哲学であるかのように見なされやすい日本の風土では、こうした誘いは適切であるのかもしれない。
 
だが、実のところ、この問いは、哲学の中では案外疎い分野である。問われて然るべきであるのに、あまり問題にされない。日本人だからこれを問う、というのではなく、もっと原理的に、根柢的に、この問題は扱われ

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『世界はラテン語でできている』(ラテン語さん・SBクリエイティブ)

『世界はラテン語でできている』(ラテン語さん・SBクリエイティブ)

twitter.comで見かけてフォローし、ラテン語を中心とした古代語にまつわる話を日々堪能してきた。誠実な姿勢に好感がもて、またもちろんその専門的な見識に教えられることが多かった。そうした声がひとつの本になる、というので期待した。いろいろあって即購入とは動けなかったが、セールの表示を見て、すぐに動いた。電子書籍で入手した。
 
twitter.comとは異なり、ある程度ボリュームのある記述となる

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『マンガで学ぶ動物倫理』(伊勢田哲治・なつたかマンガ・化学同人)

『マンガで学ぶ動物倫理』(伊勢田哲治・なつたかマンガ・化学同人)

マンガで同じキャラクターたちが問題に挑むストーリーと、その場面毎に、専門家の解説があるという形が繰り返されて、最後まで見せてくれる。マンガのページもまずまずあるので、読み進むのは楽である。しかし、解説のページは決して手を抜いたものではない。むしろ、マンガと相俟って、動物倫理の本質的な問題が掲げられ、しかもマンガのために非常にそれが読みやすくなっている。よい構成だと思う。
 
ストーリーというのは、

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『戦争と平和 田中美知太郎 政治・哲学論集』(田中美知太郎・中公文庫)

『戦争と平和 田中美知太郎 政治・哲学論集』(田中美知太郎・中公文庫)

京都の大学に行きたかったのは、哲学の都だと思ったからだった。そして、田中美知太郎先生への憧れがあったからでもある。プラトンを第一とする予定はなかったが、その研究には、よく分からないまでも、しびれるような感覚を覚えていた。
 
2024年になって、その田中美知太郎の本が出る、という知らせは、私を戸惑わせた。なぜ、いま田中美知太郎なのだろうか。それも、講談社学術文庫ではない。中公文庫からだ。哲学の方面

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『戦争語彙集』(オスタップ・スリヴィンスキー:ロバート・キャンベル訳著)

『戦争語彙集』(オスタップ・スリヴィンスキー:ロバート・キャンベル訳著)

ウクライナがロシアから攻撃を受け始めたのが2022年2月24日。もちろん紛争そのものはずっとあったのだが、大規模な攻撃が、理不尽に開始したというふうに世界は理解した。本書の日本語訳の発行は、それから1年10か月後となる。
 
日本文学者としての訳者は、メディアでもおなじみの人であり、アメリカ出身ではあるが、日本文学についてこの人よりもよく知る日本人は稀有であると言えるであろう。2023年2月、彼は

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