マガジンのカバー画像

小説

10
自作の掌編や短編をまとめております。
運営しているクリエイター

記事一覧

掌編『だから、さようなら』

掌編『だから、さようなら』

だから、さようなら著者
小野 大介

 高校の卒業式の終わりに、幼なじみの彼女から告白された彼は、家出を決意した。

 彼女に出逢ったのは幼稚園の頃だった。真向いの家に引っ越してきたのだ。

 同い年だった二人は、性別は違えども妙に馬が合い、いつも一緒だった。親同士の仲も良かったので、家族ぐるみの関係をずっと続けてきた。

 卒業式には両方の親が参加し、自分の子でもないのにしっかりカメラを回して、

もっとみる
掌編『凍りついたメッセージ』

掌編『凍りついたメッセージ』

凍りついたメッセージ著者
小野 大介

 これより音声記録を開始する。

 私は第二次救助隊のメンバーである。

 我々は今、南極点付近に設置した基地にいる。

 基地との連絡が途絶えて、すでに半年が経過している。先行した第一次救助隊との連絡は一切取れていない。

 猛吹雪のせいで飛べず、今になってようやく来られた。

 皆、生きていると願いたい。

 食料の貯蓄は充分にあるだろうから、その点は心

もっとみる
掌編『母上様とお雛様』

掌編『母上様とお雛様』

母上様とお雛様著者
小野 大介

 母が、一人で雛人形を飾っている。

 その様子を離れたところから見ている、私。

 この光景を見るのは、これで何回目だろう?

 あの雛人形は私が生まれたときからあるけど、覚えているのは四つか五つだから、十回も無いはずだ。

 母が幼い頃に買ってもらったという豪華な雛人形。飾るときはいつも自分一人でするぐらい大切にしている。つまり宝物だ。

 それを私は、この後

もっとみる
掌編『プレゼント』

掌編『プレゼント』

プレゼント著者
小野 大介

 鈴の音が聞こえた気がして、彼は目を開けました。眠ったふりをしていたのです。

 毛布から抜け出してベッドを下り、ドアに近づいてそっと開けて、こっそりと廊下を覗いてみると、リビングに人の気配がありました。

 お父さんでもお母さんでもない、誰かの足音が聞こえます。

「サンタさん……?」

 ガラス戸を通してリビングの様子をうかがうと、電飾が消されたクリスマスツリーの

もっとみる
ジャックの奇跡(いたずら)

ジャックの奇跡(いたずら)

 放課後の図書室。

 趣味の読書を楽しんでいた彼は、最終下校時刻を知らせるチャイムが鳴ったのに気づき、ふと顔を上げた。

「あれ、もうそんな時間?」

 受付の奥の壁に掛けられたレトロ調な時計を確認した彼。本を読むのに邪魔だと閉めきっていたカーテンの隙間から夕陽が漏れているのに気づき、しまったと思った。

「今日は特に遅いな。どうせ没頭して忘れてんだろうけど……」

 小さな溜め息をこぼすと、本

もっとみる
掌編『すれちがい』

掌編『すれちがい』

すれちがい著者
小野 大介

 耳障りに思えた蝉の鳴き声や、うだるような暑さがちょっぴり懐かしくなってきた昨今、いかがお過ごしでしょうか。

 すっかり涼しくなりまして、日課の散歩も面倒に思えなくなり、容赦なく肌を焼く太陽への憎しみもどこかへ行ってしまいました。これで鬱陶しい天敵の蚊さえいなければ、本当に暮らしやすい季節なのですが。

 さて、私は近頃、人間観察を始めまして、大事なお勤めのかたわら

もっとみる
掌編『鬼の事情』

掌編『鬼の事情』

鬼の事情著者
小野 大介

 このところ、どうも調子が悪い。

 仕事はうまくいかないし、隣人とも騒音の問題で揉めるし、スマホは水没するし、サイフは落とすし、さっきなんか犬のフンを踏むし、頼んだシェイクにストローがついていないし……。

 どうしてこう嫌な目にばかり遭うんだろう。なにをしても裏目に出る。神様に嫌われるようなことでもしたんだろうか。

 ああ、嫌だ嫌だ。うんざりだ。もうなにもしたくな

もっとみる
掌編『白い熊と黒い熊』

掌編『白い熊と黒い熊』

白い熊と黒い熊著者
小野 大介

 ある森に、白い熊と黒い熊がいました。

 白い熊は穏やかで、森に住む他の動物たちに優しくて親切です。

 リスたちが葉っぱを一枚一枚めくって木の実を探しているのを見かければ、彼らのためにと両手にあふれるぐらいに集めて、挨拶をしながらゆっくり歩み寄ります。けれども、怖がらせてはいけないので自分から積極的に近づこうとはせず、木の実を地面に置いたらゆっくり離れて、リス

もっとみる
掌編『ぼくはカカシ』

掌編『ぼくはカカシ』

ぼくはカカシ著者
小野 大介

 ぼくはカカシ。

 でもね、実は魔物なんだ。

 魔王様に作られた。

 もうずっと前のことさ。

 人間を殺すのが、ぼくの使命。

 でも、嫌なんだ。

 そんな恐ろしいことはしたくない。

 だって、人間は優しいんだ。

 道に捨てられていたぼくを拾ってくれた。

 手入れをしてくれて、

 新しい服を着せてくれて、

 見晴らしの良い畑に立ててくれた。

 

もっとみる
掌編『彼女と石巨人』

掌編『彼女と石巨人』



彼女と石巨人
著者
小野 大介

 太古の昔、とある山中の奥深くに巨人が住まう都があった。

 巨大な都に、巨大な住人。

 石のように頑丈な身体と、石のように強固な意志と、石のように冷たい心を持った巨人。

 石で築かれ、石によって囲われた、難攻不落の石の要塞。

 だが、潰えてもう久しい。

 遺跡と化した都にはもう、巨人の姿は無い。

 至宝を守る番人として造られた、一体の石巨人を除いて

もっとみる