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魔法使いの弟子日記

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服の魔法を使えるようになるために、洋裁学校のことや、その時の気持ちをツラツラ紡ぎます。
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てまひまてまひま

てまひまてまひま

私の悪い癖。
すぐに簡単な方法を模索しようとするところ。

授業時間内に終わらせるために、課題の〆切を守るために、クラスメイトから遅れを取らないために。

「どっちのやり方なら私でも出来ますか…?」
1年生の頃、複数の選択肢が迫った時に、私はこの言葉を何度も使っていた。

リボンの通し方、ポケットの作り方、裾の始末。
その度に、先生は簡単なやり方を教えてくれた。

けれど、どれだけカタチになったと

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だからライバルなんだって

だからライバルなんだって

「まつり縫い大丈夫かな?ってちょっと心配」

いつも通りの屈託のない顔で笑いかける。

分かっていることや、もっと出来たことばかりを
そうやって純度100%の親切心で伝えてくる度に、
心の奥底が、張り裂けそうになる。

だって、私にとって、あなたは永遠のライバルなのだから。

❄︎ ❄︎ ❄︎

ものづくりへの憧れは、母の背中からだった。

ピアノの発表会は、毎年母の作るドレスを着て、
図工や自由

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君のお守りになれるなら

君のお守りになれるなら

強い私になれる服、優しい気持ちになる服、
特別な日のための服、毎日生活するための服。

私はやっぱり「お守りになる服」を作りたい。

服を通して、大好きな人達をそっと包み込む。

大丈夫。離れていても、ちゃんとそばにいるよって伝えられるような。

好きな服を着ているという悦びを、いつまでも、感じ続けられるような。

透ける生地、揺れるリボン、ふわふわの肌触り。

世界中の人が、柔らかい素材を纏えば

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もう二度とよそ見なんてしない

もう二度とよそ見なんてしない

今後一生、服と本気で向き合えなくなるなんて、やっぱり嫌すぎる!二度と、諦めるもんか。

そう思わせてくれたことだけは、君に感謝して
おこうかな。

服やものづくりに携わる仕事がしたいと思って、服飾の専門に再進学してから、一年が経った。

アパレル業界のジレンマや、悪循環を知って、
外側の業界からアプローチしていくのもアリかもなんて思い始めていた矢先に出会ったのが君だった。

大学時代に研究していた

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どんなヴィランだって

どんなヴィランだって

「ほんとうに無理、気持ち悪い、やりたくない」

あぁ、胸を突き刺すこの暴力達もいつかきっと。
だって、そう信じるしか、無いじゃないか。

【来年のプレタ展は芳賀さんの案でいきます】

プレゼンで勝ち抜いた私は、6月に行う展示会の
リーダーを務めることになった。

“人類学の理論を詰め込んだファッションショー”

人類学の持つ「他者への温かい想像力」を醸成
させる服を作っていきたい。

けれど、多数

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ラミパスパターン

ラミパスパターン

あれ、私ってこんなに上手だったんだ。
もう、不出来なんて思い込まなくて大丈夫だよ。

昨日までの私が、にっこり微笑んでくれたから。

❄︎ ❄︎ ❄︎

長かったパターン検定の道がようやく終わった。
この1ヶ月、夢の中でもパターンに追われていた。

昔から、本番前に必ずネガティブになる私。
過度なプレッシャーを自分にかけ過ぎる私。
そして、いつまでたっても自信のない私。

「うーん、微妙。カーブの

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エツの渦中で

エツの渦中で

「簡単に超えられたら困るよ」

あぁ、この子は揺るがない信念を持って、作品に向き合っているんだ。

じゃあ私は?

服飾の専門へ通うようになって、半年ちょっと。

クラスメイトの得意・不得意なんかが、少しずつ
明瞭になってきたように思う。

ものすごく手先が器用で、丁寧かつ完璧な子。
計画性・効率性に長けていて、大変合理的な子。
周りをよく見て、陰でそっと支えてくれる子。

中でも、中学からずっと

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その胸にきゅっとね

その胸にきゅっとね

恋人になってもうすぐ半年。

恋愛における半年間が、こんなにも穏やかなんて
許されて良いのでしょうか。

毎日毎日、つかみ合いの抉り合う喧嘩をしたり、
冷めた関係を見て見ぬ振りしてやり過ごしたり。

いつもの半年って、大体こう破綻してたから。

こうして鍋をつつく幸せそうな横顔を見れて、
夜中に、てくてくお散歩をしてベンチで話して、
お布団の中で頬を寄せて未来を語ったりして。

出会った時から変わ

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灰になってゆこう

灰になってゆこう

あぁ、本当に自分の未熟さに嫌気がさす。

理想と現実のギャップが、私を突き刺して、
いつも背伸びばかりしている気がする。

それでも。

再来週、ついに大好きな人のライブがある。

彼の紡ぐ言葉と音楽が好きで好きでたまらなく、
毎日欠かさず聴いている。

「いつかあなたの曲に合わせて服を作ります」
1年前、生まれて初めて書いたファンレターに、
精一杯の目標を綴った。

“鯨の子”から着想を得たオー

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手のひらサイズの夢を広げて

手のひらサイズの夢を広げて

君となら、いつだって、どんな夢も。

どんなに遠く離れていても、私達は同じ夢へ
向かって、真っ直ぐに突き進む。

「ねぇ、やっぱり一緒に雑貨屋さんしたいよね」

毎月一回、遥々やってきてくれる君へ、前々から
温めていた提案をする。

あたかも、昔から決まっていた様に、自然に。

「え!来月ネパール行くよ!やろうやろう!」

私が出会った人の中で一番行動力のある君。

遠い孤島にも、1人でスイスイ飛

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絶対内定2025???

絶対内定2025???

初めて、就活の本を買った。
なんか強そうな『絶対内定2025』ってやつ。

“就活”という未知のイベントに対する焦りと、
「いっちょやったりますか」なんて挑発的な女。

は〜私、どうなっちゃうんですかね、ほんと。

専門に入学してして、服を作り始めて半年。

まだ一年生だし〜就活なんて来年からやろう〜
とか、すごい舐めた態度で毎日暮らしていた。

「もう後期なのか。大学に換算したら、1/4終わった

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阪急電車の鳴る頃に

阪急電車の鳴る頃に

卒業したら、東京で働くのもアリかもって。

都会はあまり得意じゃないけれど、大阪に住み
慣れた今の私なら、いける気がする。

夏休み、帰省の寄り道で4日だけ東京に泊まった。

みんなとバイバイして、独りで満員電車に揺られていると、猛烈な不安が襲いかかってくる。

知らないおじさん達に箱寿司状態で詰め込まれ、
あれ、私、どこに連れて行かれるんだろうって。

❄︎ ❄︎ ❄︎

羽田に向かう京急線のホ

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フォーエバー・マイヒーロー

フォーエバー・マイヒーロー

「しょうがないな〜もう1枚ずつ作るよ!」

そうそう、そうこなくっちゃ。
いつまでも、ずっと、私のヒーローでいてよね。

半年ぶりに会う母は、想像以上に弱っていた。
ねえ、前は、一緒にスイスイ歩いてたじゃない。

なのに、今は。
気を抜くと、私の何メートルも後ろにいて。
エレベーターのボタンを押していて。
手すりがないと、掛け声がないと、立てなくて。

知らなかった。なんか、嫌だ。

だって、だっ

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穴だらけの、ほつれだらけの、私達、

穴だらけの、ほつれだらけの、私達、

ずっと自分で作った服に自信が持てなかった。

2畳半の小さな作業部屋で、夢中で作っていても、
完成してみると、なんかパッとしない気がして。

誰かに褒めて欲しくて、写真を送りつけても、
いくらみんなにヨシヨシされても、どこか不安。

それは、本当に服が良いから褒めているの?
それとも、頑張っている私へのお情け?慰め?

メンヘラになっちゃうよねぇ。困ったねぇ。

だから、頑張って作った初めてのリメ

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