まさと

90年代後半生まれ。800字のエッセイに書き上げ、「ダスト・エッセイ」と名付けてまとめ…

まさと

90年代後半生まれ。800字のエッセイに書き上げ、「ダスト・エッセイ」と名付けてまとめています。別媒体で毎週木曜投稿し、noteにランダム転載。内容は、普段の考え事。知っていることや考えていることを書くのではなくて、書くことで知っていき、考えていく、その様を残しています。

マガジン

  • ダスト・エッセイ

    800字を目安に、日頃考えていることを書いています(別媒体からの転載)。

記事一覧

完璧主義者だと言われる:想像読書(ダスト・エッセイ)

完璧主義者だと言われる。 ある時、お世話になっている教員の一人に、研究をサボって、最近は関係のない小説などを読み漁っている、と言った。それに対して教員は、どうせ…

まさと
4日前
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延命治療(ダスト・エッセイ)

YouTubeで哲学者・鷲田清一の講演を観ていた。鷲田の好きな文学部の定義は、なぜ人はいつか死ぬのに生きようとするのかを考える場所、というものらしい。 * 気候変動に…

まさと
11日前

素敵な生き様

『夢をかなえるゾウ』という作品がある。ある日、平凡なサラリーマンの主人公の元に、ガネーシャが現れて、彼が出す課題を毎日こなしていくことで、主人公が”成功”に向か…

まさと
2週間前

やさしくなる方法(ダスト・エッセイ)

一部売り場の世界観を創る作業を初めて担った。悩んでいると、かわいくてキャッチーな備品があったので、これを使おうと試みたが、全然上手くいかない。先輩にそれを言った…

まさと
3週間前

提唱者への提唱(ダスト・エッセイ)

自分が文章を書いても、自分の言葉のように思えないと言う人がいた。なんだかわかる気がした。自分が影響を受けた人の言葉を、つぎはぎにしているに過ぎないように思えてし…

まさと
1か月前

科目の向こうへ(ダスト・エッセイ)

 10年以上前の大学一年生が書いたある文章を読んだ。彼女の高校は大学受験のために1年生のうちから文理選択をしていたと言う。早々に生徒たちは、”いい就職”のための大…

まさと
1か月前
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これからの20年僕はあの子たちのために何が出来るのだろう(ダスト・エッセイ)

 これからの20年、僕はあの子たちのために何が出来るのだろう。地元の図書館で本を読んで、 閉館時間が迫って出ていく時に、4歳くらいの子供たちが、大人用の高さに置かれ…

まさと
1か月前
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黒い手袋(ダスト・エッセイ)

 ホームに降りようと階段へ向かうと、大勢の乗客が下から昇ってくる。電車が着いたばかりで、まだ停車しているかもしれないという期待が膨れ上がる。俯く様に昇ってくる人…

まさと
1か月前
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卒論(ダスト・エッセイ)

 仲間たちと、卒業論文の報告会をすることにした。そこには、もう卒業論文を提出して会社員をしている人もいれば、提出したばかりの学生、現在構想を練っている学生、大学…

まさと
2か月前
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舞い降りる(ダスト・エッセイ)

 これから僕は、郡司ペギオ幸夫の『創造性はどこからやってくるのか』(ちくま新書, 2023年)を読む。本のカバーそでに、アイデアは「ふいに降りてくるものだ」と書かれてい…

まさと
2か月前
1

柱の陰(ダスト・エッセイ)

学生という身分を失って半年以上過ぎた。今でも週に一回大学で仕事をしつつ、授業に潜り込んだり、イベントに参加している。どんだけ大学が好きなんだと、時々苦笑いされる…

まさと
2か月前
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変わらない教室(ダスト・エッセイ)

 2023年4月に開校した関東学院大学横浜・関内キャンパスは、地上17階建で、オフィス街のこのまちでも存在感を放つ。エレベーターとエスカレーターで移動し、ガラス張りの…

まさと
2か月前

パロディ(ダスト・エッセイ)

 知的財産権をテーマにした漫画「それってパクリじゃないですか?」がテレビドラマ化されていたので観ていた。曲がりなりにも研究や創作をする自分の目線でも楽しめた。元…

まさと
2か月前
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JRの小劇場(ダスト・エッセイ)

 職場の先輩から、お守りのような存在だと言われたことが、最近では特に嬉しい言葉だった。日曜の夜、平日なら、仕事帰りの人で満員の東海道線で、開放感を感じながら、横…

まさと
2か月前
1

おじさんとの会話(ダスト・エッセイ)

 戸塚駅近くの飲み屋のカウンターで知り合った60過ぎのおじさんは、行動力も財力もツテもある。でも、一体何者なのかは明かしてくれない。マスターによれば、普段はスーツ…

まさと
2か月前

詩にならねえよ(ダスト・エッセイ)

 のんの「この日々よ歌になれ」を、最近よく聴いている。バンド・忘れらんねえよの柴田隆浩が作詞・作曲したらしい。聴く前にタイトルをみて、気に入った。聴くのは、その…

まさと
2か月前
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完璧主義者だと言われる:想像読書(ダスト・エッセイ)

完璧主義者だと言われる。

ある時、お世話になっている教員の一人に、研究をサボって、最近は関係のない小説などを読み漁っている、と言った。それに対して教員は、どうせあなたのことだから、その本をどのくらいのペースで読もうか目安を立てて、しかも律儀に要約や感想をまとめているんでしょう、と答えた。

図星だった。文学の楽しみ方にすら、読んだものからは何かを得なければいけない、という完璧な読書論を持っている

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延命治療(ダスト・エッセイ)

YouTubeで哲学者・鷲田清一の講演を観ていた。鷲田の好きな文学部の定義は、なぜ人はいつか死ぬのに生きようとするのかを考える場所、というものらしい。



気候変動について同世代と語り合う場に参加した。

ある青年は、気候変動の問題に興味を示し始めた段階だった。彼は、研修医として、今は医療現場で長い時間を過ごしている。特に近い存在は、寿命残りわずかの患者たちであり、その多くがもう意識がない。彼

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素敵な生き様

『夢をかなえるゾウ』という作品がある。ある日、平凡なサラリーマンの主人公の元に、ガネーシャが現れて、彼が出す課題を毎日こなしていくことで、主人公が”成功”に向かっていく。

課題の一つに、「会った人を笑わせる」がある。その場の空気を明るく前向きなものに変えること、つまりその場の人々を笑わすことができる人は、重宝される。その人の周りに、人が集まる。

主人公は試しに職場で冗談を発するが、失敗する。

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やさしくなる方法(ダスト・エッセイ)

一部売り場の世界観を創る作業を初めて担った。悩んでいると、かわいくてキャッチーな備品があったので、これを使おうと試みたが、全然上手くいかない。先輩にそれを言った。

方法が先にあるよりも、まず創りたい世界観を具体的に想像して、そのための方法を探してみる。

それがベストだと教わり、なんとか出来上がった。



ジョージ・ソーンダーズが、所属する大学の卒業式で行ったスピーチの活字版を読んだ。

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提唱者への提唱(ダスト・エッセイ)

自分が文章を書いても、自分の言葉のように思えないと言う人がいた。なんだかわかる気がした。自分が影響を受けた人の言葉を、つぎはぎにしているに過ぎないように思えてしまう時がある。



5年前友人が、最近流行りのMBTI診断のURLを送ってきたので受診した。僕の診断結果は、16タイプのうち、「提唱者」というものだった。

「提唱者(INFJ型)は最もまれな性格タイプですが、社会に大きく影響を与える人

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科目の向こうへ(ダスト・エッセイ)

 10年以上前の大学一年生が書いたある文章を読んだ。彼女の高校は大学受験のために1年生のうちから文理選択をしていたと言う。早々に生徒たちは、”いい就職”のための大学受験のために、必要な科目の選択をはじめ、切り捨てられた科目には興味を持たない。それはどうなんだろうと、つらつら書いていた。



 僕は自分の中学・高校時代を思い出した。5段階評価中、全科目基本「3」、苦手な国語と社会、音楽と美術は時

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これからの20年僕はあの子たちのために何が出来るのだろう(ダスト・エッセイ)

 これからの20年、僕はあの子たちのために何が出来るのだろう。地元の図書館で本を読んで、 閉館時間が迫って出ていく時に、4歳くらいの子供たちが、大人用の高さに置かれた検索用パソコ ンを使って、セルフ貸し出しをしている様子を見た。その帰り道、そんなことを思った。



 僕は同世代を除くと、20歳ほど年上、あるいは2回り上くらいの人たちと関わることが多い。 彼ら彼女らからは、教わることもあるし、相

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黒い手袋(ダスト・エッセイ)

 ホームに降りようと階段へ向かうと、大勢の乗客が下から昇ってくる。電車が着いたばかりで、まだ停車しているかもしれないという期待が膨れ上がる。俯く様に昇ってくる人々にぶつからない様に気をつけながら、小走りで降った。

 きっと、この人の流れの中で誰かが転んでも、その後ろの人は見事に避けて追い抜いて行くのだろう。逆走する僕が転んだら、もっと迷惑がられるだろうと思った。



 大船駅では、事故がなく

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卒論(ダスト・エッセイ)

 仲間たちと、卒業論文の報告会をすることにした。そこには、もう卒業論文を提出して会社員をしている人もいれば、提出したばかりの学生、現在構想を練っている学生、大学院に進学した学生が入り混じる。そして、所属していたゼミも、分野も研究方法も多岐に渡り、雑多な報告会になることが予想される。

 用があって登壇できない人も含め、数人の卒業生が興味を示してくれたことを、はじめは意外に思った。



 卒業論

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舞い降りる(ダスト・エッセイ)

 これから僕は、郡司ペギオ幸夫の『創造性はどこからやってくるのか』(ちくま新書, 2023年)を読む。本のカバーそでに、アイデアは「ふいに降りてくるものだ」と書かれている。

 そういえば数日前、同僚に、なぜそんなユニークな発想を持てるのかと急に尋ねられて、うまく応えることができなかった。



 僕らの街に雪が降った。子供の頃は、もっと降る頻度が高かったように思う。舞い落ちる雪を窓越しに眺めて

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柱の陰(ダスト・エッセイ)

学生という身分を失って半年以上過ぎた。今でも週に一回大学で仕事をしつつ、授業に潜り込んだり、イベントに参加している。どんだけ大学が好きなんだと、時々苦笑いされる。



 大学とは、いわゆる社会人に向かって一方向に進んでいく、行っても行かなくてもいい、小中高の次の段階の一種だと思い、入学した。

 ところがどっこい、大学の公開セミナーの手伝いをすれば、参加者のほとんどが60歳を超えている。海外の

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変わらない教室(ダスト・エッセイ)

 2023年4月に開校した関東学院大学横浜・関内キャンパスは、地上17階建で、オフィス街のこのまちでも存在感を放つ。エレベーターとエスカレーターで移動し、ガラス張りの教室へ入り、ホワイトボードを前に席につく。

 春から夏まで社会人向けに開講中の詩の教室は、この14階で行われている。受講生は僕を含めて十数人、25歳の僕以外は、先生も含め、もう一括りに「おじいちゃんおばあちゃん」と呼ばせてもらう。僕

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パロディ(ダスト・エッセイ)

 知的財産権をテーマにした漫画「それってパクリじゃないですか?」がテレビドラマ化されていたので観ていた。曲がりなりにも研究や創作をする自分の目線でも楽しめた。元ネタに対して愛があればパロディ、リスペクトがあればオマージュ、どちらもなければ、あるいは自分の利益のためだけに模倣するならパクリになると物語の前半に語られる。



 そういえば最近、ふと思い浮かんで、中原中也の「汚れちまった悲しみに」を

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JRの小劇場(ダスト・エッセイ)

 職場の先輩から、お守りのような存在だと言われたことが、最近では特に嬉しい言葉だった。日曜の夜、平日なら、仕事帰りの人で満員の東海道線で、開放感を感じながら、横並びに座る。お世辞を言わない彼女が、お世辞が要らない空間で、ぼそっと言うから、本当に嬉しかった。



 鶴見俊輔がこう言っている。

「言葉に表現されない思想が、言葉に表現される思想との対立を保ちつつ、これを支えるとき、言葉に表現される

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おじさんとの会話(ダスト・エッセイ)

 戸塚駅近くの飲み屋のカウンターで知り合った60過ぎのおじさんは、行動力も財力もツテもある。でも、一体何者なのかは明かしてくれない。マスターによれば、普段はスーツ姿でピシッと決めているらしいが、今日は上下灰色のジャージにクロックスを履いた部屋着で来ている。

 朗らかで威勢の良い正体不明のおじさんは、もう一度昭和の頃のような、地域のつながりを創るには、スーパー銭湯がありゃいい、と言う。互いに孤独者

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詩にならねえよ(ダスト・エッセイ)

 のんの「この日々よ歌になれ」を、最近よく聴いている。バンド・忘れらんねえよの柴田隆浩が作詞・作曲したらしい。聴く前にタイトルをみて、気に入った。聴くのは、その感覚の答え合わせだった。タイトルから先に気に入るのは、珍しい。

 歌になれと思うことはある。それ以外にも、小説になれ、詩になれ、絵になれ、笑いになれ、そう思うことが、時々ある。もう、「それ」でいいはずなのに、「それ」ではないものに昇華され

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