記事一覧
【歴史本の山を崩せ#041】『元老』伊藤之雄
≪大日本帝国を動かした真の権力者たち≫
昭和初期頃までの日本で総理大臣が辞職するたびに天皇に次の総理大臣候補を推薦する元老。
天皇が彼らの推薦を拒否することがなかったため事実上、総理大臣という政府のリーダーを決めるという絶大な権能を持っていた存在です。
それだけの政治権力を持ちながらも、その資格や運用、権限について明確な成文法がない。
驚くべきことに法的根拠を持たないオフィシャルではないという極
【歴史本の山を崩せ#040】『聖断』半藤一利
≪終戦を成し遂げた鬼貫太郎の歴史ドキュメンタリー≫
主人公は鈴木貫太郎。
鈴木は海軍軍人として日清・日露戦争に参加、「鬼貫太郎」として勇名を馳せました。
『老子』を愛読し、政治に関わることを嫌いながら、天皇に対する忠誠は至誠そのもの。
侍従長として昭和天皇に仕え絶大な信頼を得る。
その後、内閣総理大臣としてアジア太平洋戦争終結の大役を果たした人物です。
学校の教科書で知っているだけだと、茫洋とし
【歴史本の山を崩せ#039】『未完のファシズム』片山杜秀
≪「持たざる国」はファシズムにもなれなかった≫
第一次世界大戦以降、国家間の戦争は総力戦体制と変化しました。
資源、労働力といったリソースの寡多が勝敗を決する決定的な要因となる。
大戦後、大国のひとつに数えられるようになっても、島国・日本はそういったリソースを「持たざる国」でした。
「持たざる国」が「持てる国」と対峙していくにはどうしたらよいのか?
そのひとつの解として現れたのが、日本民族の不屈
【歴史本の山を崩せ#038】『日本のいちばん長い日 決定版』半藤一利
≪終戦ドキュメンタリーの定番書≫
オリジナル版の初版は1965年。
当初は営業上の理由からジャーナリスト・大宅壮一の名義で出されたもの。
後に名義を本来の半藤一利に戻し、補訂・改訂を施した決定版が、現在、文春文庫に入っているものです。
この本を原案として1967年と2015年に映画化もされました。
時は太平洋戦争最末期。
聖断によって降伏が決定された1945年8月14日正午から、玉音放送がなさ
【歴史本の山を崩せ#037】『関ケ原合戦と石田三成』矢部健太郎
≪秀吉が目指した支配秩序がもたらした合戦≫
敗者の立場から日本史を読み直そうという吉川弘文館のシリーズの1冊。
もう10年以上前にはじまり、すでに完結したシリーズです。
「関ケ原もの」は秀吉の死後から語り起こされることが多いですが、本書は秀吉絶頂期から筆を起こします。
秀吉が支配秩序として重視したのが「家格」。
個人に対して与えられる「官位」ではなく、家に対して加えられる「家格」によって豊臣宗
【歴史本の山を崩せ#036】『世説新語』井波律子(訳注)
≪井波解説が白眉の世説新語全訳≫
『世説新語』は後漢末から東晋期の貴族・人士たちの逸話集です。
脚色や伝承・伝説の類も多く、歴史史料としての信憑性は高くないものの、当時の世相や貴族たちの雰囲気を知るには良い漢籍。
何よりも多士済々・海千山千が遺したエピソードの数々は読み物としても十分面白いです。
後漢末期から三国時代も登場するので三国志ファンもニヤリとするような人物も出てきます。
権力奪取に燃え
【歴史本の山を崩せ#033】『劉備と諸葛亮』柿沼陽平
≪カネを切り口に語る三国志は成功したか?≫
副題はカネ勘定の『三国志』。
中国貨幣史などの単著を出している柿沼さんらしい三国志本です。
英雄史観ではなく、現実的な経済・財政という側面から三国志…
特にタイトルにあるとおり劉備と諸葛亮を中心に据えた新書です。
歴史の業績をイメージが先行している英雄のキャラクターに帰属させてしまうことに待ったをかけようという本書の姿勢は大いに評価できます。
また、
【歴史本の山を崩せ#029】『昭和天皇と鰻茶漬』谷部金次郎
《天皇の料理番が見た聖上の顔》
杉本久英の小説『天皇の料理番』のモデルである秋山徳蔵に採用され、昭和39年から約四半世紀の間、宮内庁の大膳課で昭和天皇の料理番として奉職した谷部金次郎が当時を振り返った本です。
谷部は天皇の日常の料理や様々な宮中行事で和食を担当。
著者が宮内庁に入ったのはすでに戦後20年を迎えようとした頃です。
大膳という職務を通じてその人柄に触れたことで昭和天皇を使えるべき唯
【歴史本の山を崩せ#028】『王安石』小林義廣
《頑固一徹に己を貫こうとした改革者》
王安石は中国北宋時代の宰相。
山川世界史リブレット人の一冊です。
とにかく頑固一徹で我が強い。
自分が正しいと思えば相手が誰であろうと決して譲らない。
その性格が故に、数々の批判を受けながらも新法と呼ばれる革新的な諸政策を断固として推進できたといえるでしょう。
同時に多くの政敵を作ってしまったのもまた事実。
徐々に求心力を失い、政治の中枢から離れると彼が心