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短編小説・読切小説集

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自作の一回読切の小説や、数回で完結する短編小説を集めています。基本的にハッピーエンドな青春時代を描いています。
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記事一覧

運の悪い男(小説初挑戦)

運の悪い男(小説初挑戦)

第一楽章俺は元々くじ運が悪い。

くじ運だけじゃない、ジャンケン運も女運も悪い。

極端なことを言えば結婚運だって悪かった。

女運が悪い俺に、やっと彼女が出来た時は喜んだが、この子を逃したら結婚出来ないと考えた俺は、結婚へと焦り過ぎた。

その結果が、毎月のお小遣いは必要がある時に恐る恐る申請するシステムの導入だったり、俺が入った保険の満期が来たのに、満期金を勝手に代理人と称して奪い取り、何に使

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DIVE INTO THE BATHROOM

DIVE INTO THE BATHROOM

「今日も1日暑くて長かったな…疲れたぁ…」

俺は、職場の古くて殆ど効いてないエアコンをリモコンでオフにし、照明を全て消し、玄関に鍵を掛けて機械警備システムをセットしてから、駐車場へと向かう。

丸1日炎天下に晒されたマイカーのドアを開けると、一体車内は何度まで上がっていたのかという熱気が一気に解放され、俺を襲ってくる。

すぐ車内に身を滑り込ませるのは危険だ。

俺はエンジンをかけ、カーエアコン

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読切小説「初恋相手」

読切小説「初恋相手」

1俺は受付へと足を進めた。

「あっ、長谷川君じゃない!久しぶり~」

「あ、その声は…善岡さん?」

と声を掛けてくれたのは、善岡美穂だった。

今日は中学校の同窓会だった。卒業25周年を記念して、一度盛大に集まろうという案内があり、東京へ転勤になっていて音信不通に近かった俺にも、幹事のお陰で辛うじて案内が届いたのだった。

「わー、嬉しい。覚えててくれた?今は善岡じゃなくて、和田っていう苗字な

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読切小説「ファーストキス」

読切小説「ファーストキス」

序章伊藤正樹は、迷いに迷った挙句、結婚式の招待状には「欠席」で返事をすることにした。

「それでいいの?本当は出席したいんじゃないの?」

伊藤の妻、咲江は言った。

「ううん、いいんだ。あの人のことは、思い出の中で綺麗なままで保存しておきたいんだ。結婚披露宴に出て、あの人のウェディングドレス姿とか、相手の男性を見ちゃったら、俺、ジッとしていられないと思うから…」

「うふっ、そんなところ、昔から

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短編小説「バレンタインデー」前編

短編小説「バレンタインデー」前編

序章「お母さーん、友チョコ作りが間に合わないから手伝ってよー」

今年高校受験を控えているというのに、ウチの一人娘、伊藤真美は受験勉強より、バレンタインのチョコ作りに熱心だ。

「もう、どこが間に合わないの?」

「全然お湯の中で溶けてくれないんだもん!」

「そりゃそうよ、こんなでっかい塊をそのままお湯に浸けてても、すぐ溶けるわけないよ。もっと細かく切り刻まないと…。一回外へ出して、包丁で細かく

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短編小説「バレンタインデー」中編

短編小説「バレンタインデー」中編

前編はコチラ ↓

3「夏休み合宿」咲江の大学の軽音楽部では、夏休みの8月上旬に、大学のセミナーハウスを借りて、3泊4日の合宿を行うことになっている。
基本的には昼間は各バンドで練習して、夜は各バンドの発表会になっている。

大学のセミナーハウスと言っても、箱根にある結構立派な宿舎で、ほかの音楽系サークルも利用できるよう、防音の広いスタジオルームも完備されている他、箱根の観光名所を割引で利用出来る

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短編小説「バレンタインデー」後編

短編小説「バレンタインデー」後編

前回はコチラ ↓

5「大学祭前」夏合宿が終わり、そのまま軽音楽部は大学後期が始まるまで、開店休業となった。

大学の後期が始まるのは10月だが、その前の9月を目一杯使っての、前期期末試験が行われるので、この時期だけは勉強に専念せねばならない。
更に伊藤は試験後、アパートに引っ越さねばならないのもあって、落ち着かない日々を過ごしていた。

最も野球等のスポーツ推薦で特待生扱いの極一部の学生は、試験

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読切小説「真美の初恋」

読切小説「真美の初恋」

1「バレンタイン前夜」「真美、友チョコの数は合ってるの?」

「えっとー、同じクラスの女子が18人でしょ、別のクラスの仲良しの女子が5人、部活の同期が8人、お父さんへの義理が1個、合計32個!ピッタシカンカンだよ、お母さん!」

「この32個のうち、真美の力だけで作ったのって・・・」

「ははあっ、母上、大変かたじけない!」

真美は母の咲江に向かって土下座をした。

「アハハッ、そこまでしろなん

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ラブレター(読切小説)

ラブレター(読切小説)

1,初めての恋中学校の卒業式の2日前、小坂智子は親友の井本沙織に、手紙の文面を見せた。

「ねぇ、これで上手く彼に思いが届くかな…」

「そうね…。まあ、悪くないと思うよ!ちゃんとトモちゃんご自慢の綺麗な字でこんな思いを書かれたら、あの彼じゃなくても、イチコロだと思うよ。自信もって!」

「うん…ありがと」

小坂智子は、卒業式の前日に、3年間片思いし続けた同じクラスの男子、井村純一へラブレターを

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【読切小説】幸せになって下さい

【読切小説】幸せになって下さい

「おはようございます!…え?これ何饅頭?」

6月の週明けの月曜日、いつものように出勤したら、課の職員全員の机の上に紅白饅頭が置いてあった。

「あ、おはよう、井上くん。その饅頭はアタシから。昨日、結納を交わしたの。そのご報告を兼ねて…」

「えっ、あっ、そ、そうなんですか!?朝木さん、おめでとうございます…」

朝木さんは、俺の1つ年上の女子の先輩だ。
新人の俺に一から仕事を教えてくれ、俺が仕事

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【読切小説】ガラスのPALM TREE

【読切小説】ガラスのPALM TREE

「もう…あたし達はダメなのかな…」

知子が助手席でそう呟いた。

「俺は…知子次第だと思ってる」

「もうっ、正志君のバカッ…」

夜の首都高の大黒パーキングエリアに停めた車の中で、俺達は最後かもしれない話し合いをしていた。

2人の中がギクシャクし出したのはいつだろう。

夏に海で出会った頃には、互いが互いを必要としていた。

必然的に俺達は惹かれ合い、どちらからともなく告白し合い、付き合うよ

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【短期集中連載小説】保護者の兄とブラコン妹(第1回)

【短期集中連載小説】保護者の兄とブラコン妹(第1回)

1「えっ?転勤?」

父からの突然の言葉に俺が驚いたのも、ある意味当然だろう。
俺は大学2年生の伊藤正樹。今の大学は滑り止めで受けた私立大学で、いまだに第一志望の国立大に未練が残っている。
だが、家計を気にして浪人は出来ないと思いやむを得ず通うことにしたのと、バイトも色々掛け持ちしているので、なかなか授業にも身が入らなかった。

家計を気にする理由には、3歳下の妹の存在があった。
伊藤由美、高校2

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【読切小説】初戀

【読切小説】初戀

1「今度、映画に行こうよ。俺と、三井と、田川さんと井上さんで」

「え?4人で?」

「そうそう。最近、三井と田川さんが上手くいってないみたいでさ、三井から相談を受けたんだ。じゃ、2人で解決出来ないなら、俺が一肌脱いでやるって言ってね。でも俺が1人加わるだけじゃ、ちょっと…ね」

「それで、アタシを誘ってくれたの?」

「うん…。ダメかな」

「ううん、いいよ。アタシで役に立てるなら」

「本当に

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【短期集中連載小説】保護者の兄とブラコン妹(第2回)

【短期集中連載小説】保護者の兄とブラコン妹(第2回)

<前回はコチラ>

4俺と由美は、いずみ野のアパートでの役割分担を、パスタ専門店で夕飯を食べつつ、色々話しながら決めていた。

簡単に言えば、先に帰った方が炊事、洗濯、風呂の準備といった家事をやるとことになったが、俺が木曜から日曜まで居酒屋でバイト、火曜は家庭教師のバイトをしているので、木曜から日曜までの夕飯は、由美が俺のバイト先の居酒屋へ夕飯を食べに来ることになった。

「水泳部って、何時までな

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