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和歌(短歌)と散文

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Art of Life I:生きるための遺書 第一部 前編

Art of Life I:生きるための遺書 第一部 前編

これは、ある数奇な運命を課せられた一人の男の、魂の遍歴の物語である。それは果たして架空のものであるか、はたまた作者自身の実体験であるのか、その判断は読者の慧眼に委ねたい。

作者として私がただひたすらに願うのは、この物語が一個の独立した芸術作品として美的に享受せられ、もって読者の胸の内に、私に対する理解と愛が育まれる一助となることに他ならない。

第一部序章 別れの秋

源氏物語における最も重要な

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雑草と呼ばるる命ひとつびとつ名を確かめつためらひて摘む/五十嵐創

昨年発表した作品です。
https://note.com/soh_igarashi/n/nfe5a25206b7e

緑がいっせいに濃さを増すこの季節、「手入れの行き届いた」庭園を見る度に、こうした複雑な気持ちに駆られます。

【短歌】春風となって

【短歌】春風となって

きみだけに姿の見える春風となってあなたを抱き締めにゆく

昨年のちょうど今日、同じような桜の季節に、生暖かい春の風に誘われるようにして、空想のつばさを広げて詠みました。

推敲し切れていない感じがあり、どうまとめようか決めかねているうちに一年経ってしまいました。今は、一度詠んだものなのであえてこれ以上手は入れなくて良いかなと思うようになりました。

ふわふわと落ち着かない、春特有のそんな気分から生

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【短歌】花の雨こそあはれなりけれ

【短歌】花の雨こそあはれなりけれ

妖気みつ春の心をなぐさむる花の雨こそあはれなりけれ

(不穏な気配に充ちた春の落ち着かない心を和らげてくれる、そんな桜の季節に降る雨こそは本当に趣深い)

今日は久しぶりに雨が降りました。この歌は昨春のちょうどこのような雨の朝に詠みました。

私は元々古語で詠む和歌の世界に強く憧れ続けていました。現代口語で短歌を作るようになったのはつい最近のことです。

この歌が厳密に和歌と呼べるものであるかどう

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【短歌】ぼくの泪を誰も知らない—令和6年春の自撰—

【短歌】ぼくの泪を誰も知らない—令和6年春の自撰—

奪われしもののあまりに多かりき盛りを知れず朽ちてゆく花

あたたかい手もほお寄せる肌もなく泪は枯れてため息ばかり

冷えきった氷の壁が厚過ぎて未だに浮上できないクジラ

ちょうど良い関わり方が分からない愛してもらえたことがないから

今日もまだ起き上がれない今日もまだ自殺はしないのと引き換えに

遺言が書き終わらないそれだけで死でない方に居続けてゐる

良い子でいなければ生きられなかったぼくの泪を

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【自選短歌】令和五年の創

【自選短歌】令和五年の創

三首連作『音楽』を含む今年の自選短歌五首と、それに準ずる自選五首。

これがおれの令和五年です。

どうしても弾きたい曲があったんだそれからでいい死を思うのは 

この曲をきちんと弾けたそのときが本当の人生のはじまり

弾いている今は生きてるたとえ明日自死を余儀なくされるとしても

迷いない心のつばさで翔んでゆく私の空はどこまでも澄む

見たことのない大空へ駆けてゆく恋をしているような速さで

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月

クリスマスの夜。今年中にどうしてもやり遂げたかった大切な仕事を終え、久しぶりの外食を楽しんだ帰り道、乗換えの途中でふと見上げた渋谷の空に、師走の十三夜月が浮かんでいた。

いつもは努めて避ける繁華街にそびえ立つ高層ビルの狭間でこうこうと光るその月は、おれには何か象徴的なものに見えた。

都心の空にも月はあるんだ——。

そんな思いを胸に一人家路を急いだ。

【短歌とエセー】令和五年の夏―見たことのない大空へ― 前編

【短歌とエセー】令和五年の夏―見たことのない大空へ― 前編

飛ぶことを知らぬ小鳥は独り泣くすべて自傷のような半生

安らかな闇は消されて厭わしいほどに眩しい日がまた昇る

私にはそこから飛び立つ他にない崖に向かってアクセルを踏む

一心に鍵盤を押す夏の午後己の命を奏でるように

見たことのない大空へ駆けてゆく恋をしているような速さで

補遺
それだけが私の名だと知るやうにあなたはいつも下の名で呼ぶ

昼下がり都心のビルのクリニック窓の向こうに赤 百日紅

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日記と短歌「日がまた昇る」

日記と短歌「日がまた昇る」

先月と今月に、実際に経験したことです。元々は自分の心を少しでも穏やかにするため、自分自身のために書いた文章であり、対外的に発表する作品として書いたものではありません。

あまりにも辛いこと、苦しいことは表に出したくない。特に、大切な人に対してほど、救いようなく傷んでいる自分は、様々な意味で見せたくない。

しかし同時にそれは、大切に思う人にほど、どうか知って欲しい、分かって欲しいと、切実に願わずに

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【かわいい短歌】令和5年6月22日

【かわいい短歌】令和5年6月22日

うなされてまぶたを開ければ傍らのスヌーピーはいつも笑顔で

昼下がり起き上がれないいつもよりスヌーピーをたくさん撫でる

愛犬を枕に芝生に寝転んで『論語』を読んでるチャーリー・ブラウン

食いしん坊101ぶんの1ぴきが「楽に行こうよ」気負ったぼくに

この「かわいい短歌」は、私が自身の創作の中でも特別な愛着を感じているシリーズです。

幼い頃からずっと、かわいいものが大好きでした。動物などの無垢

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【今日の短歌】令和5年6月21日

【今日の短歌】令和5年6月21日

あなたなら優しく教えてくれそうでふたりがちゃんと消える方法

どうしたらいいの私は慕わしい人は誰しも自殺ばかりで

いずれも技巧を用いて意識的に作ったものではなく、抱え続けた思いが心からそのまま歌となってあふれ出たような、自然に生まれた作品です。

第一首は、決して自暴自棄に陥った不健康な歌ではありません。絶望ではなく希望の、死ぬためではなく生きるための歌です。

これは、様々の意味で限りある

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【今日の短歌】令和5年6月19日

【今日の短歌】令和5年6月19日

変化することのやまない人の世で変わらぬものを抱きしめている

9日の歌と同じ初句をお題として作った歌です。

生い立ちの呪いに由来する、ずっと私を去ることのない苦しみに、言い様なくひどく襲われる中、少しでも自分を救いたいという思いで詠みました。

人は生きれば生きるほどに悪くなってゆく――。

このあまりに悲劇的な実感は、私から離れたことがありません。むしろ強まり続け、ときに生きることを不可

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【今日の短歌】令和5年6月15日

【今日の短歌】令和5年6月15日

完璧な歌を詠んだらサヨウナラもう人間ではいられないから

お題として与えられた初句を用いて詠みました。

主に知性によって作ったという意味で、数学の歌(6月9日)やお姫様の歌(6月11日)と同じ系統に属するということができます。

完璧という概念について私の中に色濃く存在し続けている心象を端的に描くことを試みました。

日常生活の中で完璧という言葉を用いることは、私は基本的にしません。

【今日の短歌】令和5年6月11日

【今日の短歌】令和5年6月11日

ほほ笑みの奥に涙の光る見ゆ姫たることは秘めて在ること

「姫」と「秘め」という言葉の組み合わせを偶然目にしたとき、パズルのピースがうまくはまったような感じがしました。そんなひらめきに基づき、基本的に知性を使って作りました。

お姫様という身分の方に実際にお目にかかった経験はまだなく、想像力によって詠んだ歌ですが、内容は決して的外れではないと思っています。

前回の記事(短歌とエセー)が中々の力作

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