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『働くことの人類学』ー現代社会に疲れた人に読んでほしい良書

『働くことの人類学』ー現代社会に疲れた人に読んでほしい良書

昨年知人が奨めていた、『働くことの人類学』(松村圭一郎、コクヨ野外学習センター 編)[2021.6.29]を読んでみました。良い本でした。

世界中のいろんな民族の働き方について、研究者の対談とかが10個くらい載っています。普段どっぷりつかっている価値観とは全然異なる価値観に触れることができます。彼らはそれを「当たり前」として生活しています。

現代社会がなんか生きづらいとか、息苦しいとか漠然と思

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今さらながらボードリヤールの『消費社会の神話と構造』を読んだら、なかば予想通りとは言えひどい本だった

今さらながらボードリヤールの『消費社会の神話と構造』を読んだら、なかば予想通りとは言えひどい本だった

前々から気になってしょうがなかった本の新装版を見付けたので読んだ。

【タイトル】消費社会の神話と構造 新装版
【著者】ジャン・ボードリヤール
【翻訳】今村仁司、塚原史
【発行日】2015.9.16
【発行所】紀伊国屋書店

フランス語の原著は1970年に出され、邦訳は同じ2人の訳者で1979年に出された。その後今村は2007年に亡くなり、ボードリヤールも偶然同じ年に亡くなっている。「訳者あとがき

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ラドクリフ・ブラウンについての覚書

ラドクリフ・ブラウンについての覚書

 アルフレッド・R・ラドクリフ=ブラウンは、1881年生、1955年没、イギリス生まれの社会人類学者、文化人類学者だ。同時代、マリノフスキーと並んで、機能主義学派のリーダーと目されていた。

アンダマン島民 ヴェブレン『有閑階級の理論』[1899]の第1章「序論」で、単純な社会では有閑階級が発生しないことの例として、アンダマン諸島の部族が挙げられている(※1)。また、英雄的な仕事と日常の労役の区別

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18段階の虚空

18段階の虚空

 ニュージーランドのマオリ族の創造神話では、18段階の虚空が生まれた後、男女が生み出されると言われる。

 チベットの大乗仏教の聖典でも虚空には18段階あると書かれているそうだ。

出所:
ジョゼフ・キャンベル著、平田武靖/浅輪幸夫監訳『千の顔をもつ英雄』下巻[1984]人文書院 p91~92、p233原註二三。

 不思議。

 僕が家を作るときには、階段は18段にしようと思った。階段を上るだけ

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ブランディングは資本主義社会に人間性を回復する(たぶん)

ブランディングは資本主義社会に人間性を回復する(たぶん)

 思いつくままに書いたらやたら長くなってしまいましたが、一言でいうと、

「ブランディングは、資本主義社会に人間性を回復する、新しい価値交換の形を生み出しているんじゃないかしら」

ていうことです。

* * * * *

 資本主義のシステムは現代社会では当たり前の現実であり、それ以外のあり方があろうとは夢にも思われない(数十年前までは、共産主義がその別の「あり方」になり得るのではないか、と夢想

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呪文の役割を現代的に考える~トロブリアンド諸島の呪文を題材に

呪文の役割を現代的に考える~トロブリアンド諸島の呪文を題材に

 呪文というと、現代日本人は次のようなものを思い浮かべる。

 少し古いものだと、

エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、我は求め訴えたり!

とか。最近だとファンタジーによくありそうな、

炎の精霊よ、我にその力を示せ!

とか、そんな感じである。

 しかしこのような呪文はおそらく、「かなり高度に発展した形態」だと思われる。より原始的な形態の呪文は、「イメージトレーニング」に近い形だったの

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「食べるために働く」ということが実は全然当たり前ではないこと〜ポランニー『時代遅れの市場志向』を読んで思ったこと

「食べるために働く」ということが実は全然当たり前ではないこと〜ポランニー『時代遅れの市場志向』を読んで思ったこと

 現代の社会では、働く目的は「食べるためだ」または「金を稼ぐため」というのが当たり前のように考えられている。しかしこれだけでは虚しいから、もう一つの選択肢として「やりたいことをやるため」が挙げられ、これらの間で常に葛藤が生まれているように思われる。実際、僕も初めて就職活動をした20代の頃、「何のために働くのか」と悩んでいたような気がするが、基本的にこの二つの選択肢の間で揺れ動いていた。

 「やり

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【書評】鷲田清一「思考のエシックス 反・方法主義論」

【書評】鷲田清一「思考のエシックス 反・方法主義論」

 前回の投稿に引き続き、またがっかりした本です。しかし、批判的に読むことで「学び」につながったことは間違いない。(そういうわけでハッシュタグに「最近の学び」も追加しました。)なんだかどうも、壮大なタイトルの本はだいたい、内容がタイトルに負けているのではないかと思ってしまう。それでも最後まで読んだのは、山崎正和がこの本を褒めていたからでもある(※)のですが、おかげで僕の中で山崎正和の株も下がってしま

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【書評】「デザイン・マーケティング・ブランドの起源」泉 利治 著

【書評】「デザイン・マーケティング・ブランドの起源」泉 利治 著

 つねづね、「ブランド」とか「ブランディング」という言葉は、なんでこんなに意味のわからないものになってしまったんだろうかと思っている。そのため、その原因の解明に少しでも役立ちそうな本やその他の情報源は、常時探しているというか、いわゆる「アンテナを張った」状態になっている。そこで、この本をネット上でたまたま見付けた時、即座にアマゾンで注文した。

 著者の泉氏はホンダの系列企業で車のデザインを行い、

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「現象学入門」(竹田青嗣)に基づいて〜「知らないものは存在しないのと同じ」の現象学的な意味 その3

このシリーズの最終回です(「その1」、「その2」へのリンクはこのページ末尾を参照)。

この本のエッセンスは「その2」までで言えたと思う。第3章以降は、方法(3章)、「還元」を実際にやってみたいくつかの例(4章)、フッサール以降に現象学を展開した、または影響を受けた哲学者の話(5章)が続く。

さてそのエッセンスは二つあって、一つ目は、フッサールは「主観か客観か」ではなく、全く新しい問いの立て方を

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「現象学入門」(竹田青嗣)に基づいて〜「知らないものは存在しないのと同じ」の現象学的な意味 その1



竹田青嗣[1989]「現象学入門」(日本放送出版協会)の感想とか、それを読んで考えたこととかです。(以下、本の題名は「同著」と書き、特に断りがなければページ番号は同著のものを指す。)

全3回です(2020.12.20追記)。

前書きもう1年ほど前だったか、友達からこの本をもらいました。彼の家には、なんでかその本が2冊あったそうで、僕がそれを欲しいと言ってたのをおぼえていてくれて、ただでもら

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「芸術空間の系譜」(高階秀爾)に基づいて〜ピカソはなんであんな変な絵を描いたのか【最近読んだもの】

「芸術空間の系譜」(高階秀爾)に基づいて〜ピカソはなんであんな変な絵を描いたのか【最近読んだもの】

たまたまタダで手に入ったので読んでみたら、結構面白かった。芸術とその背後のものの見方を、原始時代から現代の抽象画までたどっている。

全9章あるが、第8章「キュビズムの空間意識」をクローズアップして紹介しようと思います。なぜならそうすることで、

「ピカソはなんであんな変な絵を描いたのか」

という問いに、一応の回答を出せそうだからです。

(タイトルの「〜」以下は僕が勝手に付け足したもので、この

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「中世の秋」(ホイジンガ)に基づいて〜聖者と純粋想起など

※この記事は、2020年7月のFacebookへの投稿に加筆訂正したものです。

 高校以来名前だけ知っていて、いつか読みたいと思っていたホイジンガの「中世の秋」を最近ようやく読みました。

 中世末の北フランスとベルギーを中心に、当時の価値観、風俗をこれでもかとばかりに山ほど例を引きながら語った本です。
 仕事にも何の役にもたぶん立ちませんが、あえて何か読むことのメリットを挙げるとすれば、中世人

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