記事一覧
記憶が記録を凌駕する時―映画 Anatomie d’une chute(落下の解剖学)について―
But isn't the truth the simplest way?Claus van Bulow in “Reversal of Fortune”
先週だったか(2024年4月25日)、性的暴行や嫌がらせで牢屋に入った元映画王のハーヴィー・ワインスティーンに対する(民事、刑事の)あまたある裁判のうち2020年にニューヨークで行ったものが、証言のあり方が不適切だったとされ、その判決が破棄さ
「前衛」の暮れ方―二十世紀芸術の音楽を中心にした覚書―
最近「戦後」や「大戦間」という言葉を会話の中で使って果たしてとくに今の人に通じるのかと疑い始めている。それぐらい第一次世界大戦(1914年〜1918年)はもちろんのこと第二次世界大戦(1939年もしくは1941年から始まる、あるいは日本にとって日中戦争を第二次世界大戦の始めと考えるならば1937年から始まり1945年が終戦)も遠くなり「大戦間」からはほぼ一世紀経ち、また「戦後」といってもどの戦後と
もっとみるフランスの暴動 bis
今回の若者の暴動の原因というべき背景を書いた記事。 La chronique politique de Jean-Michel Aphatie : "Un fossé, douloureux comme une plaie, qui porte un prénom : Nahel"
https://www.lamontagne.fr/paris-75000/actualites/la-chroni
Et tu, Zelensky ?(ゼレンスキー、お前もか)
ゼレンスキー及びその周辺が燃料費のためにアメリカから援助されたお金4億ドルを横領していたというツイッターに遭遇したので、おお、国民とともに戦火に燃える母国に残り勇敢に指揮を執る英雄もとうとう化けの皮がはがれたかと思うと同時に様々な虚偽情報が流れている今回の戦争のまたウクライナを貶める陽動作戦の一つなのか、と慎重になり情報源を探したら、なんとあのSeymour Hershだった。
Seymour
ダミアン・シャゼルの文法―条件法、空想の過去への誘い、『バビロン』を見て
計算されたバーレスク
最近の流行りなのか、上映が始まっても監督名、配役が出ず、さらに映画の題もなかなか表示されない中スクリーン上ではタイトルにふさわしい放埓なバーレスクなシーンが続くので上映されているのはダミアン・シャゼル(Damien Chazelle)*の『バビロン』”Babylon”(2022)であることを確信する。ただし瞳を凝らしてよく見てみるとそのバーレスクはあまりにも計算され過ぎて
西欧へ憧れて―加賀乙彦を偲ぶ―
作家の加賀乙彦が2023年1月12日に亡くなったことを一昨々日知りました。初めて読んだ作品は大学一年だった1985年の夏マレーシア、クアラルンプールにいる親元に行った時、親父の本棚にあった自伝的小説『頭医者青春記』。親父と彼は同級生だったのでそのよしみで好奇心が高じ買ってみたのか。というのはのちに分かったのだが前編の『頭医者事始』に貧困者を助けるセツルメント運動に加賀乙彦と一緒に参加した人物が「結
もっとみる軽快さと絶望―Kripke試論―
クリプキと僕
ソール・クリプキ(Saul Kripke)が今年2022年の九月の十五日に亡くなった。言及するにはいささか旧聞に付すが、僕にとっては重要な哲学者であったので、時宜がズレていてもちょっとこだわって彼について書いてみたい。
おそらく1980年代に大学生だった僕の世代は雑誌『群像』に連載されていた柄谷行人の哲学試論の『探究』で言及されたいたのを読んで彼の名を初めて知ったのではなかろう
亜紀菩薩、八代亜紀の崇高性について
先週の金曜日、2022年10月21日に友達に誘われてパリの日本文化会館になんと八代亜紀を聴きに行って来ました。僕を昔から知っている人からしたら、洋楽しか聞かない―特に大人になってからはあんちょくな「解決」なんて欺瞞だとシェーンベルクだのを聴いたり、バッハこそが人間の心なんて下らんものを排除した音楽だ!と息まいていて—のを知っているので意外と思われるかもしれませんが、実は幼稚園の頃から彼女のことは
もっとみるカーペンターズのどこがいいの?
僕は典型的な青二才で、思春期に夢中になったものを大人になってよく「超えた」とうぬぼれて、全否定することをよくしていた。丸山真男をフランス現代思想を読みながらバカにしたり、丸谷才一を保守反動などと揶揄してみたり。
The Carpentersもしかり。1970年代にとんでもなく夢中になり、ほとんどの歌が歌えるのに、ティーンになる頃から自らがまだ子供であったにもかかわらず深みのない子供用のポップス
安倍さんとそのバロックなウェストミンスター型政治
安倍政治の本質
先週の木曜で、奇しくもちょうどフランスの隣の国の君主が亡くなった日だが、安倍さんが暗殺されて二か月になる。反社会的宗教団体との関係どころか癒着がとんでもないレヴェルまで至っていたことがその間テレビや週刊誌で明らかになり、またそれを受けて、当初は歯切れが悪かった岸田首相もその団体との関係を断つと宣言。暗殺が一つの時代を終わらせるが如くオリンピックの汚職など安倍政権時代にできた膿が吹き
まったく幸福ではない「幸福」という映画について
ツイッターのフランス語圏の人たちが貶してんだから褒めんてんだかわかんないAgnès Warda のLe Bonheur(1965年) は評判通りとんでもない映画で閲覧中開いた口が塞がらなかった。もしかしたら今年見た映画で一番衝撃があったかもしれない。ルノワールを彷彿させる豊かな画面、モーツァルトの暖かいクラリネットの音、それらを背景に戯れるかわいい子供たち、愛し合う微笑ましい夫婦。それこそ幸せと
もっとみる人文学冬の時代は万国共通?The Chairを見て
去年の今頃プチ話題になったネットフリックスのThe Chairを見る。Grey's Anatomyで有名になってその後も面白い役を演じ続けているSandra Ohが主役で、伝統ある大学の英語学部の初のアジア人女性として学部長になり、人文学の低迷、男尊女卑、過剰なポリティカルコレクトネス、すなわち現代に翻弄される姿を時にはコミカルに描いている。サンドラ・オーは相変わらずきめ細かい演技をしていて安心
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