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或る若者の思索

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私が日常生活の中で感じた何気ないことを、日記よりちょっとだけ推敲して書いてます。
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#日記

「待てど暮らせど」の「ドゥクラッセ」の部分

「待てど暮らせど」の「ドゥクラッセ」の部分

 真空ジェシカのラジオを聴いていたら、「待てど暮らせど」の"暮らせど"の部分について言及しているシーンがあった。
 待つのはわかるとして、暮らすまでいってしまうとこれは完全に変質者である。そういえばこち亀で、月面に置いていかれた両さんが迎えを待ちながら月を開拓していって、しまいには普通に月で暮らしを始める話があったが、これは完全に変質者である。月面調査隊が残した食料をもとにそれを培養するだけでは飽

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死を想え、取り急ぎ

死を想え、取り急ぎ

 今生きている人間、みんな死んだことないので、死のニワカでしかない。でも、死というものを少しでも理解するためには自分が実際に死ぬしか方法がないので、生きてる人間だけでこれ以上議論をするのは全くもって不毛である。閉廷。死後裁かれよう。

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 今、私がこうやって生きていることはこれ以上ないくらいに幸運なことである。というのも、日常のあらゆるシーンに漫然と"死"は潜んでいて、私たちは緩慢とそれらと付

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ドレッシング全然かかってへんで

ドレッシング全然かかってへんで

 バターがしみ込んで真ん中がしっとりへこんでいる薄切りの食パンを、私はさも愛おしそうに食べている。休日の喫茶店のモーニング、ひとりでコーヒーをすする私をさしおいて、常連客たちや店員さんは目まぐるしく動き回る。漫才を日常に落とし込んだような会話をBGMに、湯気の立つコーヒーに砂糖をひとつ落とす。
 そして目の前にはこんがり焼き色のついたトーストがある。こんなことを言ってはなんだが、トーストなんて味は

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スマブラは持ってないやつのほうが上手い

スマブラは持ってないやつのほうが上手い

 そいつは運動から勉強までひととおり何でも器用にこなす、たまに鼻にかかる奴だった。私はというと運動はてんでダメで、特に球技は壊滅的、しかし走るのと泳ぐのだけは問題なかった。勉強は苦手ではなかったけど、中の上あたりをずっと徘徊していたと思う。
 そいつは明朗快活な奴で、いわゆるヤンキーとも仲が良く、対照的にオタク連中とも親和性の高い、水と油の両方を性質を持ったような奴だった。私はというと、ヤンキーに

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白湯(さゆ)じゃなくてお湯だろうが

白湯(さゆ)じゃなくてお湯だろうが

 ただの熱い水に何個も名称をつけるんじゃない。お湯はお湯、ひいては熱湯であろう。最近のガキャは何でもすぐにこうやってオシャレに言い換えようとする。ベロアじゃなくてコーデュロイ、援助交際じゃなくてパパ活みたいに。

「優雅にお湯をわかしてコーヒー飲むのよ」

 温度が高いお水はお湯である。これは紛れもない事実で、たとえば浴槽を満たすときも「お湯張りをします」というアナウンスが流れるし、チェーン店のウ

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関西人は「せやねん!」と「よ〜いドン!」を軸に行動している

関西人は「せやねん!」と「よ〜いドン!」を軸に行動している

 ふとテレビをつけると、お茶の間を瞬く間に演芸ホールへと変えてしまうような、おちゃらけた声。お笑いコンビ「かつみ❤さゆり」の❤さゆりが食品メーカーの広報の人に雑な絡みをして、それにかつみ❤が派手にツッコんでズッコケる。関西人なら誰しもが一度は見たであろう朝の情景。もはやこれを当たり前に見られることがありがたい。

 実際、せやねん!のコーナーでかつみ❤さゆりがメーカーの商品を取り上げることの広告効

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レモンチューハイ500円は高いだろ普通に

レモンチューハイ500円は高いだろ普通に

 友人に今夜飲む店の手配を任せておいたら連れてこられた「創作居酒屋Dining -蒼(あお)-」みたいなノリの店。嫌な予感とともにメニューを開くと、オレンジ色のウネウネ手書きフォントでびっしり埋められている時点でもう既にしんどいのだが、極め付きに一番安いお酒がレモン酎ハイが500円(税別)だったりしたら、しょっぱいお通し(こちらも当然有料)に出てこられる前に、私はすぐにでも帰り支度を始めるだろう。

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俺たちは現代の参勤交代をしている

俺たちは現代の参勤交代をしている

 電車の中で見かけるくたびれたサラリーマンがスマホで十中八九プレイしている、クソほどつまんなさそうな謎のカラフルなパズルゲームは一体なんなのか。しかもよくよく見てみると、全員が同じゲームをやっているようで全員やってるゲームが微妙に違う。アメリカの激甘糖質爆弾ケーキ並の異様な原色カラーリングであることだけは共通しているが、その他は一体なんの違いがあるのか、皆目検討もつかない。そんな謎のパズルゲームを

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月が変わって、お見知り置きを

月が変わって、お見知り置きを

 "1ヶ月が12回来ると1年が終わる"という不可抗力的サイクルが出来上がっているせいで、なまじ1年間のカウントダウンを自然に設定する習慣がついてしまっている。さらにいうと、1日が約30回来ると1ヶ月が終わるというシステムが構築されているせいで、私たちはその意志とは裏腹に、日々無限に設定されるデッドラインを死ぬまでかろうじて掻い潜り続けるような生活を強いられているのだ。

 9月になったまさにその瞬

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リンク切れの街で

リンク切れの街で

 あの交差点の角にあった喫茶店はいつの間にか、ずっとシャッターが下りているようになった。可愛らしい看板は店頭に置かれたままになっているが、ランプの明かりは灯っていないし、軒下のプランターに咲いていたはずの大きな花はとうに枯れ果てていて、もはや見る影もない。
 薄汚れた窓にはレースの白いカーテンがかけてあって、中の様子は全く見えない。穏やかな街の一角、まるでここだけリンクが切れてしまったようだ。それ

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望郷初期症状

望郷初期症状

 一人暮らしの住居から実家に帰る電車の終電の時間を調べてみると、意外と遅い時間までセーフであることがわかった。その気になればすぐにでも帰れる。この安心感こそが、この望郷初期症状なのかもしれない。

 灯台もと暗しと言うように、親元を離れて暮らしていても、実家までの距離が近すぎると逆にあまり帰省しなくなる。これはある種のイタズラ心のようなもので、大人になっても抜けきらない反抗期の残り香でもある。
 

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満員電車の所有欲

満員電車の所有欲

 満員電車に乗り始めて今年で7年目になる。毎朝毎夕こんな現代の奴隷船みたいな乗り物に詰め込まれていることが、7年のキャリアを積み重ねた今でも阿呆らしい。実に罪深い、早くなんとかしてほしい。
 満員電車に乗り始めた当初は「何が大量輸送だ、いいから早く目的地に着いてくれ」と崇拝もしていない神様に毎朝必死に嘆願していたものだ。
 しかし5年も6年もこれに乗っていると、悲しいことにこの過酷な環境に慣れてし

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解像度の低いこの街は淀み

解像度の低いこの街は淀み

 アジカンの或る街の群青を聴きながら歩いていると、この淀んだ汚い街の植物が、建物が、空気が、すべてのものが嫌に鮮明になったような気がしてくる。裏路地にぼうっと立つすすけた看板でさえ、まるで大繁盛店であるかのように見えるし、軒下の暗い雑草でさえ、大地にしっかりと息づく生命の力強さというものを感じさせる。この街が確かに生きているということを感じさせる。
 陽が落ちて、街が群青色の空に覆われる。まるで丁

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三途の川の渡し賃くらいチャージしておけ

三途の川の渡し賃くらいチャージしておけ

 私の交通系電子マネーカードには、常にわずかな金額しか入っていない。死の間際、信玄袋の中に小石や聖書などしか持っていなかったという田中正造くらい、ポッケナイナイである。
 「どうせすぐ使って無くなるんだから、多めにチャージしとけばええやん」とよく言われる。
 確かに。鉄道大正義社会に住んでいるので、それなりの金額をチャージしたとしても、確実に数日でなくなると私も思うし、何より駅の改札前でまごつくこ

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