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出版社を辞めた僕はキャバクラで黒服をすることになった。 #6(完結編)

出版社を辞めた僕はキャバクラで黒服をすることになった。 #6(完結編)

(前回)

かつて勤めていた出版社は、決して悪い職場ではなかった。
大手企業で給与も十分、人間関係も良好だった。

それでも退職しようと思ったのは、自分の居場所ではないと思ったからだ。
物書きとしての夢を追うため、もっと相応しい居場所があると信じた。

出版社を退職して1年後、僕はキャバクラで黒服をすることになった。
汚い場末のキャバクラだが、出版社にいた頃とは別の楽しさを感じていた。
執筆業と両

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出版社を辞めた僕はキャバクラで黒服をすることになった。 #5

出版社を辞めた僕はキャバクラで黒服をすることになった。 #5

(前回)

「事件」が起こったのは9月初旬のことだった。

当時、店では新しいキャストが勤務を始めていた。
ナノハという源氏名で、地雷系ビジュアルの可愛い女の子だ。昨年度までは浅草方面の店で働いていたらしい。引っ越しに伴い、知人の紹介もあってこの店に入店することになった。
それだけならよくある話だが、このナノハはちょっと特別だった。何しろ恐ろしいほどの太客を連れてきたのだ。

その太客というのはミ

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出版社を辞めた僕はキャバクラで黒服をすることになった。 #4

出版社を辞めた僕はキャバクラで黒服をすることになった。 #4

(前回)

出版社に勤めていた頃は、毎日同じ社員と顔を合わせるだけの日々だった。
コロナ禍によって自宅でのリモートワークがメインになってからは、誰とも会わない時期が続いた。

人と話すのが好きな僕には、正直つまらなかった。

僕の世界が一変したのは、キャバクラの黒服を始めてからだ。場末のキャバクラとはいえ、いつも違った顔ぶれの客と出会える刺激に勝るものはなかったのだ。

僕が勤めていた店では、客層

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出版社を辞めた僕はキャバクラで黒服をすることになった。 #3

出版社を辞めた僕はキャバクラで黒服をすることになった。 #3

(前回)

中野区のさびれたキャバクラに勤務して1か月が経っていた。
薄給で衛生面も良くない、場末感のただようバイト先。

ゴミだめのような環境で僕が辞めずにいられたのには理由がある。
不思議なことに、可愛い女の子が多かったのである。

特に僕のお気に入りだったのはリタという源氏名の女の子だ。
モデルのように背が高く、日本人形のように黒髪を伸ばした清楚系だった(水商売に従事している時点で清楚系もへ

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出版社を辞めた僕はキャバクラで黒服をすることになった。 #2

出版社を辞めた僕はキャバクラで黒服をすることになった。 #2

(前回)

「さっそく今日から入れる? 初日は『体験入店』だから時給1000円だけど」

面接後、白髪の男から声をかけられた。
平常時の時給ですら求人情報より300円も安くしておいて、なんと初日は時給1000円。あまりのケチ具合に呆れるが、僕は「はい、いけます!」と笑顔で元気よく答えた。

バカだと思わせておいて損はない。こちらもネタ探しに来ているのだから。

僕が水商売の初心者であることは店側も

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出版社を辞めた僕はキャバクラで黒服をすることになった。 #1

出版社を辞めた僕はキャバクラで黒服をすることになった。 #1

「そういうことならいいお店を紹介してあげる」

と、マッチングアプリで付き合いのあったキャバ嬢が教えてくれた。

6月初旬、僕は金とネタに飢えていた。

前年の春、2年間勤めた出版社を退職した。ライターとして独立するというかねてからの夢を叶えるためだった。

しかし執筆業の依頼など、ほとんど回ってこないまま1年が過ぎていた。時間はあっても金がない。電気代が払えないため、電気の止まった部屋で一週間生

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怪しげなホストのスカウトについていったらペンネームができた話 #3(完結編)

怪しげなホストのスカウトについていったらペンネームができた話 #3(完結編)

(前回)

「お兄さん、めっちゃかっこいいですね」

胡散臭いスカウトマン(通称シド)におだてられ、僕は歌舞伎町の奥の奥にある雑居ビルの中に招き入れられた。
そこで待ち構えていたのは、夜の蝶たちがゆらゆらと飛び交う、眩くも汗臭い世界だった……。

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怪しげなホストのスカウトについていったらペンネームができた話 #2

怪しげなホストのスカウトについていったらペンネームができた話 #2

(前回)

「お兄さん、めっちゃかっこいいですね」

胡散臭いスカウトマン(通称シド)におだてられ、僕は歌舞伎町の奥の奥にある雑居ビルの中に招き入れられた。
そこで待ち構えていたのは、夜の蝶たちがゆらゆらと飛び交う、眩くも汗臭い世界だった……。

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京大卒で大手入社したらコンビニ店員になった話 #3

京大卒で大手入社したらコンビニ店員になった話 #3

(前回)

配属ガチャから抜け出すために

長時間の立ち仕事や多忙な勤務スケジュールなど、コンビニ店員という職業は楽なものではない。にも関わらず、都内某所のファミリーマートで見かけたA氏は、今日も穏やかな表情で働いていた。

「あと数年したら希望の部署に配属されるかもしれない。それだけを希望に働いてます。ただ、自分の市場価値が下がっているのも実感しています。だからこそ保険で資格の勉強をしています」

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京大卒で大手入社したらコンビニ店員になった話 #2

京大卒で大手入社したらコンビニ店員になった話 #2

(前回)

この会社にいること自体がリスクなのか?

「ゆるブラック企業」とは、長時間労働や過剰な責任、精神的ストレスがない代わりに、仕事に対する意欲ややりがいを感じられない企業を指す。近年、ブラック企業の減少にともない、このような環境で働くことに不満を抱く人が増えてきている。
A氏もその一人である。彼にとって、年を取ってもスキルアップができないという現実が将来への不安材料になっているようだ。

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京大卒で大手入社したらコンビニ店員になった話 #1

京大卒で大手入社したらコンビニ店員になった話 #1

早朝のコンビニは騒がしい。客が入ってくるチャイムの音、店内を歩き回る音、コーヒーマシンの音、飲み物の補充音、全てが混ざり合う。コンビニでは、音を拾いながら動くことが大事だとA氏はいう。

今回話を聞かせてくれたA氏は京都大学を卒業後、大手インフラ企業に就職。1年目から駅ナカ事業(駅の中や周辺施設におけるビジネス展開)を担当する部署に配属され、駅構内での小売店の売上促進を担当している。

字面として

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怪しげなホストのスカウトについていったらペンネームができた話 #1

怪しげなホストのスカウトについていったらペンネームができた話 #1

「お兄さん、めっちゃかっこいいですね」

紀伊国屋を冷やかしに行くため新宿駅東口を歩いていると、地上に出てすぐのところで、見知らぬ男性に声をかけられた。

――なんだ? 俺に言っているのか? だとしたら馬鹿にしているのか?

自慢ではないが、これまでの人生で「かっこいい」だなんて言われたことは一度もない。
いや、地元のお弁当屋さんのおばちゃんには何度か言われたことがあったかもしれないが、こちとら自

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ルポ・大企業人事~20代で年収1000万超え、勝ち組確定の企業を辞めます~

ルポ・大企業人事~20代で年収1000万超え、勝ち組確定の企業を辞めます~

「大企業で幸せに働くには、人の心を捨てる必要があります」
大手IT企業に人事として入社しながらも数年で退職、現在は小さな出版社で編集者として勤務するAさんはこう語る。

今回は、将来を約束されたはずの若者が、とある大企業から退職に追い込まれるまでの苦悩の日々を追った。

管理職候補として入社

Aさんの会社員人生は順風満帆に始まった。都内の有名私立大を卒業したのち、大手IT企業へと入社。就職人気ラ

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ルポ・通信社記者~朝起きると、家の前にヤクザが立っていたんです~

ルポ・通信社記者~朝起きると、家の前にヤクザが立っていたんです~

夜討ち朝駆けを繰り返す、刺激的な日々

通信社記者の日常は、想像を絶するほどにハードだ。
朝4時に起床、会社が手配してくれるハイヤーに乗り込み、警察・検察の要職の自宅へと向かう。彼らが出勤のために自宅を出る瞬間を待ち構えて話を聞くのだ。
運が良ければ、出勤のお供を許される。オフィスに到着するまでの限られた時間のなかで、口が固い官僚たちからどれだけ有益な情報が入手できるかが勝負だ。
その後、新聞各社

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