杜崎まさかず【掌編刑務所】

小説の練習と称して、友人にLINEで送り付けていた掌編小説や短文に罪を償ってもらうため…

杜崎まさかず【掌編刑務所】

小説の練習と称して、友人にLINEで送り付けていた掌編小説や短文に罪を償ってもらうためのアカウントです。 毎週土曜日、刑務所にぶち込みます。 コメントをいただけますと、刑期が軽くなります。

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  • 【短編小説収容所】1万字前後の猛悪凶徒

    文字数1万字前後に渡り、非道を極め尽くした『短編小説』どもを収容するための監獄です。 筆者も力作だと戯言を申しております。

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固定された記事

挨拶とアカウントの説明

はじめまして、小説執筆を趣味にしている 杜崎まさかずと申します。 カレーライスなどを食べながら生きています。 突然ですが、このアカウントは刑務所です。 今まで、友…

【小説】ねむるどろ

 泥のように眠ったら、泥になってしまった。  昨日の寝入りはまるで気絶だった。僕とシフトが入れ替えになるはずだった同じ工場の同じラインの貫田さんが電話応答でき…

杜崎です。1ヶ月程小説の収監が滞りすみません🙇理由は家庭事情でもなく体調でもなく、単に作品が書き上がらなかったからです。面目無い…
然し今夜は収監します🖋新作です。noteにしては長いです(約2.6万字。前後編に分ける予定はありません。力作、と自分で言ってみます。宜しくです!

【掌編小説】宮野山の神様

【『シロクマ文芸部 お題:始まりは』参加作品です】  始まりは、山肌に大海のように生い茂る桜の花の向こうから「おーい」と声が聞こえたことからだった。  桜の絢爛…

【掌編小説】作文『発見したこと』

 ぼくはよく、物をなくします。  教科書やノートはなくさないのですが、ゲームやマンガはしょっちゅうなくしてしまいます。なので、お父さんとお母さんにそのことで怒ら…

【掌編小説】悲劇 奇癖

 まだ電気を知らない頃の時代に、とある小さな村があった。近くにはとある小さな山があり、頂上には村を治めるとある殿のとある小さな城があった。  村の政治は一風変わ…

【掌編小説】ワンタンブルース

 最後の晩餐は松仲飯店のワンタンにしようと決めたのは、俺が死ぬ決心を固める遥か前だった。  20年前。その頃、大手小売店の青果部門で俺は朝から晩まで野菜とにらめっ…

【掌編小説】食い意地

「どうするかな、明日から」  スギキはしゃがれた声でそう言って、家の外で折れた煙草をくわえながら寝そべる男の額に『回覧板』を放った。しわくちゃの紙に乱雑な字で書…

【掌編小説】クローバーの妖精

 ある土曜日の晴れた午後。  盲目の老人は、白杖と手すりを頼りに展望台広場へ続くなだらかで長い階段を上り終えると、誰かの気配を感じた。 「先客がいましたか」  そ…

【掌編小説】夢から醒めたら逢いましょう

「今バイトの休憩中だから、また今度ね。……うん、いいけど、今月はもう埋まってて」  夏、痛い日照りを我慢して、清美は大学からの帰路で彼氏と通話をしていた。突然の…

【掌編小説】スノウスコール

 東京では五年ぶりの豪雪だそうだ。  上京して初めて、僕はこの大都会の積雪にくるぶしまで埋めた。  念のため、車のタイヤをスタッドレスに替えておいて良かった。今日…

【短編小説】治安の悪い街

【一】  全てのものには、意思が宿っている。父の教えだ。  生まれたらからには皆幸せになりたいのだから、皆の幸せを願いなさい。これは母の教え。  要するに、両親の…

【短編小説】ポリごんの手口

 目前を快速電車が線路を蹴るような乱暴な音を立てて通り過ぎていく。  この荒々しさにして、快速、などという涼し気でスタイリッシュな単語は図に乗っていると思わざる…

【掌編小説】のびるチーズの話

今日は家族で楽しいピザパーティー。 お父さんの食べたピザのチーズが、伸びる伸びる。 それを見て、お母さんと息子、大笑い。 息子と手を繋いで、伸びたチーズの下をくぐ…

【掌編小説】ワカサギ釣り

 青年は凍った湖の上を、滑らないようつま先まで力を入れながら、慎重に歩いていた。アイスドリルに釣り道具、天ぷらキットと大荷物を持参して氷上を歩くのはなかなか体が…

【掌編小説】日の出のアクター

 海沿いのコンビニを出るとすぐに、防寒具から僅かに露出した肌を滑って潮風が入り込 んで来た。立ったままうずくまり、今買った紙コップのコーヒーを両手で包んでカイロ…

挨拶とアカウントの説明

挨拶とアカウントの説明

はじめまして、小説執筆を趣味にしている
杜崎まさかずと申します。
カレーライスなどを食べながら生きています。

突然ですが、このアカウントは刑務所です。
今まで、友人との和気あいあいとした平和一色のLINEに幾度となく忍び込み、
傍若無人に暴れ回り、
贅の限りを尽くし、
女子供を余すことなく泣かせてきた
『掌編や短文』に
この刑務所にて罪を償ってもらいます。

軽犯罪のチンピラから、
重罪の凶悪犯

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【小説】ねむるどろ

【小説】ねむるどろ



 泥のように眠ったら、泥になってしまった。
 昨日の寝入りはまるで気絶だった。僕とシフトが入れ替えになるはずだった同じ工場の同じラインの貫田さんが電話応答できないほど体調を崩したとかで、急遽穴埋めをする羽目になったのだ。おかげで、ベルトコンベアに乗って流れてくるパックに、長ネギとツナを塩だれで和えただけの惣菜を詰めること十六時間。労働基準の治外法権である閉鎖的な工場で、ひたすらに配膳し続けた。

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杜崎です。1ヶ月程小説の収監が滞りすみません🙇理由は家庭事情でもなく体調でもなく、単に作品が書き上がらなかったからです。面目無い…
然し今夜は収監します🖋新作です。noteにしては長いです(約2.6万字。前後編に分ける予定はありません。力作、と自分で言ってみます。宜しくです!

【掌編小説】宮野山の神様

【掌編小説】宮野山の神様

【『シロクマ文芸部 お題:始まりは』参加作品です】

 始まりは、山肌に大海のように生い茂る桜の花の向こうから「おーい」と声が聞こえたことからだった。
 桜の絢爛さとは不釣り合いな、しゃがれた、潰れたような、それでいて腹の奥から捻り出したような男の声。
 当時、小学生だった僕は『山には神様がいる』という伝説を信じ切っていて、その声の主を神様だと思った。初めてひとりで外に遊びに出かけたのが、その宮野

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【掌編小説】作文『発見したこと』

【掌編小説】作文『発見したこと』

 ぼくはよく、物をなくします。
 教科書やノートはなくさないのですが、ゲームやマンガはしょっちゅうなくしてしまいます。なので、お父さんとお母さんにそのことで怒られることが多いです。
 ぼくは誕生日にゲームソフトの『ボケットモンスター ちほう・にんち』の『ちほう』の方を買ってもらったのですが、それもなくしてしまいました。とても大事にしていたし、クリアまでもう少しだったので、かなしかったです。
 なく

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【掌編小説】悲劇 奇癖

【掌編小説】悲劇 奇癖

 まだ電気を知らない頃の時代に、とある小さな村があった。近くにはとある小さな山があり、頂上には村を治めるとある殿のとある小さな城があった。
 村の政治は一風変わっていた。村を治める代価として、採れた作物等を農民が殿に納める……というのがこの時代によくある政治だが、この村では月に一度、農民に魚介類を納めさせていた。海まで六十里ほどあるところに位置する村だが、殿に逆らい、村全体で野たれ死ぬという末路を

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【掌編小説】ワンタンブルース

【掌編小説】ワンタンブルース

 最後の晩餐は松仲飯店のワンタンにしようと決めたのは、俺が死ぬ決心を固める遥か前だった。

 20年前。その頃、大手小売店の青果部門で俺は朝から晩まで野菜とにらめっこしていた。若かったこともあり、キャベツや白菜が隙間なく詰まった段ボール箱を日に何十箱も運搬し、売り場に出せば大声で売り込みをするフィジカルな仕事を毎日こなしていた。
 年中ほぼ休みなく働いていた。シフト上で俺が休みでも、店は365日休

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【掌編小説】食い意地

【掌編小説】食い意地

「どうするかな、明日から」
 スギキはしゃがれた声でそう言って、家の外で折れた煙草をくわえながら寝そべる男の額に『回覧板』を放った。しわくちゃの紙に乱雑な字で書かれた回覧板を、風で飛ばされないよう男は自分の顔に押さえつける。
 この河川敷のホームレス界隈には回覧板を回す習慣がある。内容は、仲間の誰かが川に流されて行方不明なったこととか、大型スーパーが建った影響で懇意にしてくれていたパン屋が潰れたと

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【掌編小説】クローバーの妖精

【掌編小説】クローバーの妖精

 ある土曜日の晴れた午後。
 盲目の老人は、白杖と手すりを頼りに展望台広場へ続くなだらかで長い階段を上り終えると、誰かの気配を感じた。
「先客がいましたか」
 その柔らかい声に、広場の真ん中のベンチに腰かけている初老の女性が、ニつに縛った栗色の髪を揺らして振り返る。彼女はさびた小さな赤いお菓子の缶をひざの上に載せている。
 老人は自分の目の代わりに、女性から見えるものを尋ねた。
「どうですか、ここ

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【掌編小説】夢から醒めたら逢いましょう

【掌編小説】夢から醒めたら逢いましょう

「今バイトの休憩中だから、また今度ね。……うん、いいけど、今月はもう埋まってて」
 夏、痛い日照りを我慢して、清美は大学からの帰路で彼氏と通話をしていた。突然の休講で帰宅時間が早くなり、彼女の気分はいつになく晴れやかだったが、彼氏からの電話がそれを台無しにしていた。更に、その間も日光は美に注がれ続ける。清美の苛立ちは募るばかりだ。
 清美の彼氏は、彼女の今求めているものを何も持っていなかった。危険

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【掌編小説】スノウスコール

【掌編小説】スノウスコール

 東京では五年ぶりの豪雪だそうだ。
 上京して初めて、僕はこの大都会の積雪にくるぶしまで埋めた。
 念のため、車のタイヤをスタッドレスに替えておいて良かった。今日、明日に取材撮影 は入っていないが、何せここまでの大雪を纏った東京だ。カメラに収めない手はない、と 息巻いていた。そうだ、息巻いていたーーはずだった。
 合成皮ごしに触れる雪の温度は、防寒靴をものともしない。締め付けるような足の寒さから、

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【短編小説】治安の悪い街

【短編小説】治安の悪い街

【一】

 全てのものには、意思が宿っている。父の教えだ。
 生まれたらからには皆幸せになりたいのだから、皆の幸せを願いなさい。これは母の教え。
 要するに、両親の考えを合わせたら「この世のもの全ての幸せを願え」ということだ。
 人間にも、犬にも、猫にも、木にも、土にも、風にも、意思があってそのどれもが幸せになりたがっているという。
 だったら、この寒風は何を想って、僕の冷や汗を引っ掻くように吹き

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【短編小説】ポリごんの手口

【短編小説】ポリごんの手口

 目前を快速電車が線路を蹴るような乱暴な音を立てて通り過ぎていく。
 この荒々しさにして、快速、などという涼し気でスタイリッシュな単語は図に乗っていると思わざるを得ない。速、はまだいい。快、はない。音だけなら暴走列車と聞き違えるほどの武骨なけたたましさでありながら、自分を快いと名乗るのは買い被りすぎだろう。
 そうだ。何よりも、この線路を向こう側でせっせと生きるホームレスたちを軽蔑している。
 全

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【掌編小説】のびるチーズの話

【掌編小説】のびるチーズの話

今日は家族で楽しいピザパーティー。
お父さんの食べたピザのチーズが、伸びる伸びる。
それを見て、お母さんと息子、大笑い。
息子と手を繋いで、伸びたチーズの下をくぐったりしたら、それはもう家が揺れるほどの笑いが起きた。
味をしめたお父さん、チーズを伸ばし続けて、そのまま朝を迎える。
伸びたチーズを口に咥えたお父さんが「ほはひょう(おはよう)」。
家族、またもや大笑い。
お父さん、チーズを咥えていたら

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【掌編小説】ワカサギ釣り

【掌編小説】ワカサギ釣り

 青年は凍った湖の上を、滑らないようつま先まで力を入れながら、慎重に歩いていた。アイスドリルに釣り道具、天ぷらキットと大荷物を持参して氷上を歩くのはなかなか体が凝る。それも、宿から全てレンタルした道具だから、雑に扱うわけにもいかず、うっかり落としてしまわないようにと気も張っていた。
 古宿でワカサギ釣りの穴場と聞いてやってきた湖には、誰もいなかった。本当に穴場らしい。それとも幾つもある水場を間違え

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【掌編小説】日の出のアクター

【掌編小説】日の出のアクター

 海沿いのコンビニを出るとすぐに、防寒具から僅かに露出した肌を滑って潮風が入り込 んで来た。立ったままうずくまり、今買った紙コップのコーヒーを両手で包んでカイロ代 わりにする。しかし、厚い手袋越しだとなかなか熱が伝わらず、もどかしくなって、頬に紙コップを密着させた。これはこれで熱くて耐えられない。
 暖を取るのに四苦八苦する俺をしり目に、涼恵はコンビニ袋を前後に遊ばせながら、夜明け前の青みがかった

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