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スキつけた後も、結局何回も読み直してるnoteを集めました。無断で入れてますので、差し支えある場合は教えてください。
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【掌編小説】幻葬の夏

【掌編小説】幻葬の夏

 夢で明美を見たのは半月前。高校の同級生で親友だった明美は、高校時代の頃のまま、屈託なく笑っていた。
 卒業後些細なことで喧嘩し、それ以降疎遠になっていたが、殺人的な激務に忙殺され心も擦り切れていた私には、懐かしさから穏やかな気持ちを取り戻してくれるものだった。
 ようやく一段落した仕事だったが、それは束の間で、次の業務が打ち寄せる前の大波として既に見えていた。それを考えると憂鬱になる。
 好きで

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短編小説「空色の線」

短編小説「空色の線」

 筆に十分な水を含ませ、パレットに出した水色のアクリル絵の具と絡ませる。使い込まれた様子のないパレットは、着色していた色が移る心配もない。そうして完成した空色の絵の具。傾斜のつけられたキャンバスの、僅かな凹凸上を空色の筆先が左から右へ撫でる。キャンバスの左辺から右辺へ横断する線は、それだけで十分すぎるほど雄弁であった。その成果に、筆を持つ少年は満足そうな表情を浮かべる。

 しかし、暫くするとキャ

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【短編小説】転がる石

【短編小説】転がる石

 名前も不確かな程度の関係性。そんな女が裸で寝てたって、ベッドルームの窓に目を向ければレースカーテン越しに空が薄く青く広がっているから、不健全でも健康的な朝だよなってあいみょんでも聴きたくなる。隣で寝息を立てる女を起こさないようにベッドから抜け出して、人のことは笑えない俺も全裸で、リビングに出る。そんな間抜けな姿でベランダに繋がる窓際に立って伸びをする。光を文字通り肌に浴びる。河川敷沿いのマンショ

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短編小説『あの夏の兄弟』

短編小説『あの夏の兄弟』

 私たち兄弟は、明日、海底探査へと向かう。地球最後のフロンティアと呼ばれる深海。地球上で唯一、人間が到達したことがない場所であり、宇宙よりもたどり着くのが難しい場所だと言われている。人類未踏の地、というより人類未踏の海という方が正しいかもしれない。そんな冷たい世界に私たち兄弟は、明日、旅立つのである。私たちの長年の夢がかなう。ついにだ。

 明日の準備を終え、パソコンで音楽を聴く。椎名林檎の『長

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堕ちた先で、這い上がれないことだってある。

堕ちた先で、這い上がれないことだってある。

「あー、やっと同じところまで堕ちてきてくれたのに。」

それが、ナギちゃんの本心だと分かったから、ただ黙って耳を傾けることしかできなかった。

「コロナ禍になって、正直ホッとしたんです。
こんなこと言っちゃいけないかもしれないけど。

私ね、障がいを持ってから、ずっと世界から置いてきぼりにされたような気がしていたの。

下半身の感覚は全くないから、ずっと車椅子で過ごす。気軽に外に出られない。
排泄

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「年齢」と「生き方」の社会通念はトレンドだということ

「年齢」と「生き方」の社会通念はトレンドだということ

「30までにと、うるさくて」というabema配信のドラマが、好評を受けて期間限定で無料配信をしていたので観た。元々私はドラマがそう好きではなく、とりわけ恋愛ドラマを見ることは殆どないまま生きてきた。だからこのドラマの出来がどうなのかについては意見できない。ただ、全編見て、2つ大きく感じたことがあったので、備忘録としてまとめておく。

年齢の社会通念はトレンドである

このドラマを簡単にいうと、女性

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才能と人から評価されることについての話

 昔は「すごい」とか「天才」とか言われると、それだけで舞い上がっていた。嬉しくなって、にこにこして「ありがとうございます」と大げさに感謝した。

 今、才能のことで褒められると、私は素直に受け取れない。表面では微笑んで頭を下げるが、内心では舌打ちをしている。
「君には才能がある」
「あなたはきっと大成する」
 そんなことを言われるたびに、私は喉の奥がぎゅっと掴まれるような、嫌な感じに襲われる。才能

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ツイッター歴8年

ツイッター歴8年

ツイッターのプロフィール欄を見たら「2013年6月からTwitterを利用しています」と書いてあった。僕はそろそろツイッター歴8年を迎えるらしい。

僕はいま25歳だ。人生のだいたい三分の一というと、その時間の長さにおどろいてしまう。それと同時に、どれだけの時間を無駄に過ごしてきたのだろうと不安になる。僕がツイッターをはじめたタイミングで産まれた子どもがこの春小学三年生になったと考えると、その重さ

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詩)いつかの週末に

昔はここにおもちゃ屋があったよな
ここに来ると誰かがいて
ミニ四駆のパーツ買ったり
コースを走らせたりしてさ
普段はたいして話さない奴も
馬鹿みたいに熱く語ったりしてたな

ここの中古本屋で初めて漫画買ったわ
6巻だけなくてさ
わざわざそれだけ新品で買ったわ

たいして旨くもないタコ焼き屋覚えてる?
みんなで小銭集めて買ったよな
こんな上手いタコ焼き、他にないよって
馬鹿みたいにはしゃいだな

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エッセイって何だろう?

エッセイって何だろう?

 エッセイを書こうとしたときに最初にぶつかる壁は、エッセイとはどういうものか、よくわからないということではないでしょうか。少なくともわたしはそうでした。今までいろいろなエッセイを読んできたはずなのに、いざ自分が書こうとするとわからないのです。辞書を引いてみても「自由な形式で意見・感想などを述べた散文。随筆。随想」と書いてあるだけで、これってつまり、何でもありだといってるだけじゃないか、と途方に暮れ

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「花束みたいな恋をした」と「ドライフラワー」における、花と恋と20代。

「花束みたいな恋をした」と「ドライフラワー」における、花と恋と20代。

映画「花束みたいな恋をした」を観た。

タイトルが"花束"なので、花束そのものがこの物語のキーとなるのかと思いきや、相手に花束どうぞするシーンなど全く出てこなかった。もちろん、卒業式にサプライズで花束を渡す所をTikTokに載せるシーンもなければ、真っ赤なバラの花束100本でプロポーズするシーンもない。

だからこの映画は、観た人に、この恋がどう「花束みたい」なのかを考えさせる作品なのだと勝手に受

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漕ぎだす

漕ぎだす

昔からどうにもならないときはよく水辺に行った。

海から遠いところに暮らしていたので浜辺に憧れはあっても実際やっぱり遠くて、川や湖が多かった。
なにをするでもなくただぼうっと水面のゆれるのを見たり、遠くの景色を眺めたりする。長い間そうしてひとりでたたずんで、とくべつなことはなにもなく、帰る。

ときどきは泊まる。水辺に宿をとって陽の巡りとともに色を変える水の色を見る。空の移り変わりと。木々の落とす

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どもる私と、どもらない私。

どもる私と、どもらない私。

誰かと喋る時、思うように言葉が出てこないことや、気がついたら自分でも意味のわからないことを言うことが多々ある。なんだか一歩つまづくと、もう急降下していく感覚がある。

今日も、午前中、ふいに先輩に声を掛けてもらい話している時、「わたしも1年目の時締め切りのギリギリに出して大変でした〜」と言いたかったのが、“1年目”を“1年前”に間違えて、「わたしも1年前…あ、違う、あ、1年目の時に締め切りの時間に

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母の話。

母の話。

母は、24歳になるわたしを、まだまだよくわからない掴めない、扱いにくい娘だと思っているんだろうなぁ、とよく思う。

実家に居座る身分で言えた話でもないが、よくお風呂に長すぎるほど入っていたり、急に薄給の中10万叩いてiPadを買ってきたり、毎日そう忙しそうにもないのに帰りが遅かったり。よく掴めないと思っているんだろうなぁと思っている。

それは毎日noteを書く生活をしていて、お風呂という一人にな

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