夕遊

信州生まれ。現在、大阪暮らし。仕事は書くこと、教えること。著書は『誰も知らない『西遊記…

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信州生まれ。現在、大阪暮らし。仕事は書くこと、教えること。著書は『誰も知らない『西遊記』―玄奘三蔵の遺骨をめぐる東アジア戦後史』(龍渓書舎)ほか。https://amzn.to/478Widn いつも、旅したい場所、読みたい本やマンガ、見たい映画をさがしています。

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記事一覧

南の島の生命力と詞の世界。『雨の島』呉明益(及川茜訳)

台湾の呉明益さんの小説は、日本語訳がいくつかあります。現実とフィクション、現在と過去が行き来する独特の文体と世界観で、私が好きなのは『自転車泥棒』。台湾原住民の…

夕遊
1日前
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歩いてみたくなる古都の風景『台湾の歴史と文化』大東和重

最近、台湾について読みやすくて専門的な本が入手しやすくなりました。読者としては単純にうれしいです。そして、大東先生の本もまた、そんなすばらしい読書体験でした。サ…

夕遊
4日前
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大好きな人たちと見たい映画『バジュランギおじさんと、小さな迷子』2015年、インド。

数年前にものすごく評判がよかったので名前は知っていたけれど、劇場に行く時間がなくて未見だったインド映画。今週末から1ヶ月くらいの間、日本各地で再上映されることに…

夕遊
13日前
28

とうもろこしも神様。特別展『古代メキシコ マヤ、アステカ、テオティワカン』

子どもの頃に見た、アニメ『アンデス少年ペペロの冒険』。「黄金のコンドルよ~♪」のオープニングソングと、ラストの黄金のとうもろこしエピソードは、なぜか強烈に印象に…

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2週間前
28

「14億分の10憶」のリアル『中国農村の現在』田原史起

読む前から、間違いなく田原先生の本なら面白いだろうなと期待させられる本。そして、実際隅から隅まで面白かったです。タイトルは、シンプルですが、サブタイトルは習近平…

夕遊
3週間前
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耽美をめぐる社会情勢と魅力『BLと中国』周密

以前から興味を持っていた分野なので、すごく読みたかった本ですが、発売前から重版がかかるほどとは。ドラマ『陳情令』の原作『魔道祖師』や『天官賜福』の作者・墨香銅臭…

夕遊
1か月前
52

台湾の伝奇ミステリー『守娘』小峱峱

表紙の美麗さに、迷うことなく入手した台湾のコミック。水墨画のようで、ちゃんとマンガだけど、アーティスティックな線描写がとてもステキです。時代は清朝。日本でいうと…

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1か月前
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【鳥取】はわい温泉を堪能する

怒涛のお仕事月間で、疲れ果てる年度末。本当なら帰省して、故郷の温泉に浸かりたいのですが、今の状態で長距離移動は無理。そんなわけで、近所の銭湯をはしごしつつ、昨年…

夕遊
1か月前
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『東洋の至宝を世界に売った美術商ーハウス・オブ・ヤマナカ』朽木ゆり子

京都の泉屋博古館にいくと、とんでもなく古い青銅器がたくさんあって、しかもそのうちのいくつかは、世界で2つか3つのうちの1つだとか学芸員さんに教えてもらって腰を抜…

夕遊
1か月前
25

金沢の「和」を堪能する女子旅

今、旅行をするなら、やはり金沢。阪神淡路大震災体験者としては、些少なりとも復興支援に協力したいし、サンダーバードは金沢まで行けるもの最後になるし、和菓子大好きだ…

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1か月前
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春を呼ぶ鯛めし

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2か月前
27

ノスタルジー上海。『長恨歌』王安憶(飯塚容訳)

予備知識ゼロで手に取った、王安憶の長編『長恨歌』。白居易の『長恨歌』と同じ名前の現代小説なんて、一体どんなだろうと読み始めたのですが、独特な文体にあっという間に…

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2か月前
34

ホームドラマみたいなドキュメンタリー映画『◯月◯日、区長になる女』2024年。

たまたまSNSで宣伝見つけて、家族で見に行きました。久しぶりの大阪十三の第七藝術劇場は、別の映画の監督さんの舞台挨拶があったせいか、エレベーターフロアに人だかりで…

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2か月前
31

知らなかった日本のタイル文化。『和製マジョリカタイル―憧れの連鎖』INAXライブミュージアム

先日、台湾の彩色タイルの本を買って、ちょっとづつ楽しみながらパラパラめくって読んでいたら、ふと似たようなタイトルの本が目にとまりました。それが、本書『和製マジョ…

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2か月前
42

【香港島】天官賜福。筲箕湾の道教寺院(廟祠)めぐり。

2023年夏、仕事ででかけた香港島。せっかくの機会に、飛行機までの半日を観光しないわけにはいきません。早朝から、トラムに乗って香港島を横断して、終着点の筲箕湾の道教…

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3か月前
35

日露戦争に人生を狂わされた男たちの物語。映画『ゴールデンカムイ』2024年

オープニングのすさまじい二〇三高地のシーンから、主人公の杉元とアシㇼパが出会い、困難を乗り越えて相棒(バディ)を組むまで。この映画は、壮大な物語の「序章」です。…

夕遊
3か月前
50
南の島の生命力と詞の世界。『雨の島』呉明益(及川茜訳)

南の島の生命力と詞の世界。『雨の島』呉明益(及川茜訳)

台湾の呉明益さんの小説は、日本語訳がいくつかあります。現実とフィクション、現在と過去が行き来する独特の文体と世界観で、私が好きなのは『自転車泥棒』。台湾原住民の言い伝えと、日本植民地時代の銀輪部隊の歴史、現代台湾の自転車王国状況が入り混じった、不思議な小説です。

『雨の島』は事前情報がなくて、時間があれば……という程度で読み始めたら止まらなくなりました。なんせ、台湾の自然描写がすごい。木や植物、

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歩いてみたくなる古都の風景『台湾の歴史と文化』大東和重

歩いてみたくなる古都の風景『台湾の歴史と文化』大東和重

最近、台湾について読みやすくて専門的な本が入手しやすくなりました。読者としては単純にうれしいです。そして、大東先生の本もまた、そんなすばらしい読書体験でした。サブタイトルの「6つの時代」ってなんだろう?と思いましたが、なるほどの構成です。

九州ほどの面積に、関西2府4県ほどの人口が住む台湾。このフレーズが全6章のそれぞれで繰り返されるので、日本の読者はイメージしやすいです。そして、台湾の基礎知識

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大好きな人たちと見たい映画『バジュランギおじさんと、小さな迷子』2015年、インド。

大好きな人たちと見たい映画『バジュランギおじさんと、小さな迷子』2015年、インド。

数年前にものすごく評判がよかったので名前は知っていたけれど、劇場に行く時間がなくて未見だったインド映画。今週末から1ヶ月くらいの間、日本各地で再上映されることになったようなのですが、フォローしている映画詳しいアカウントから一斉に、「絶対見て!」メッセージであふれてきたので、久しぶりに夫と映画館デートしてきました。

ストーリーの基本は単純。迷子の女の子を、お人好しのおじさんが送り届ける話。予告編だ

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とうもろこしも神様。特別展『古代メキシコ マヤ、アステカ、テオティワカン』

とうもろこしも神様。特別展『古代メキシコ マヤ、アステカ、テオティワカン』

子どもの頃に見た、アニメ『アンデス少年ペペロの冒険』。「黄金のコンドルよ~♪」のオープニングソングと、ラストの黄金のとうもろこしエピソードは、なぜか強烈に印象に残っています。特別展『古代メキシコ』。ようやく行くことができました。

とはいえ、今のメキシコっぽいイメージは、大好きな岩本ナオさんの『マロニエ王国の七人の騎士』の動物の国。ここでジャガー王と対面できる期待に、わくわくして出かけました。

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「14億分の10憶」のリアル『中国農村の現在』田原史起

「14億分の10憶」のリアル『中国農村の現在』田原史起

読む前から、間違いなく田原先生の本なら面白いだろうなと期待させられる本。そして、実際隅から隅まで面白かったです。タイトルは、シンプルですが、サブタイトルは習近平を書いた、こちらの本を意識したものですね。

田原先生が中国関係の仕事を初めた頃、中国は8割が農民人口だと言われた発展途上国。今では都市化率60%以上とも言われますが、都会に住んでいても実家や戸籍が農村にある人は70%くらいでざっと10憶人

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耽美をめぐる社会情勢と魅力『BLと中国』周密

耽美をめぐる社会情勢と魅力『BLと中国』周密

以前から興味を持っていた分野なので、すごく読みたかった本ですが、発売前から重版がかかるほどとは。ドラマ『陳情令』の原作『魔道祖師』や『天官賜福』の作者・墨香銅臭さんのインタビューが掲載されていた『すばる』2003年6月号もすごかったですから、当然といえば当然なのかも。

さて、周密さんの『BLと中国』は、日本でいわゆる「BL」とされる物語が、中国では「耽美」(Danmei)と呼ばれている、その語源

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台湾の伝奇ミステリー『守娘』小峱峱

台湾の伝奇ミステリー『守娘』小峱峱

表紙の美麗さに、迷うことなく入手した台湾のコミック。水墨画のようで、ちゃんとマンガだけど、アーティスティックな線描写がとてもステキです。時代は清朝。日本でいうと、江戸時代。日本の植民地になる前のお話。

台南の杜家の娘・潔娘(ゲリョン)はやさしい兄に可愛がられて育ちました。当時としてはめずらしく、読み書きができて、纏足をしない。これだけ聞くと客家っぽいですが、周りの親戚はそれをよく思っていないのが

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【鳥取】はわい温泉を堪能する

【鳥取】はわい温泉を堪能する

怒涛のお仕事月間で、疲れ果てる年度末。本当なら帰省して、故郷の温泉に浸かりたいのですが、今の状態で長距離移動は無理。そんなわけで、近所の銭湯をはしごしつつ、昨年9月のはわい温泉の写真で自分を慰めようと思います。

倉吉からはわい温泉行きの路線バスに乗って、民宿鯉の湯さんへ。冬のお料理が有名みたいですが、9月だったので季節外れかな?と思った私は、朝食のみで予約。秘湯のジュリエッタさんの記事をマネて、

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『東洋の至宝を世界に売った美術商ーハウス・オブ・ヤマナカ』朽木ゆり子

『東洋の至宝を世界に売った美術商ーハウス・オブ・ヤマナカ』朽木ゆり子

京都の泉屋博古館にいくと、とんでもなく古い青銅器がたくさんあって、しかもそのうちのいくつかは、世界で2つか3つのうちの1つだとか学芸員さんに教えてもらって腰を抜かします。そんなものが、なんで日本にあるのかと驚くのですが、よくよく考えると清朝末期に多くの国宝が流出したことは映画『ラスト・エンペラー』でも、陳舜臣さんの直木賞を受賞した小説『青玉獅子香炉』でもおなじみでした。

あとは、何気なく読んでい

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金沢の「和」を堪能する女子旅

金沢の「和」を堪能する女子旅

今、旅行をするなら、やはり金沢。阪神淡路大震災体験者としては、些少なりとも復興支援に協力したいし、サンダーバードは金沢まで行けるもの最後になるし、和菓子大好きだし。ということで、2月下旬、友だち&娘の3人で「古都」を堪能してきました。

さて、私のおめあては菓子木型美術館。行ってみると、和菓子の加賀藩御用菓子司森八さんの2階にあって、かなりプライベート空間なことにびっくり。でも、ものすごく見応えあ

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ノスタルジー上海。『長恨歌』王安憶(飯塚容訳)

ノスタルジー上海。『長恨歌』王安憶(飯塚容訳)

予備知識ゼロで手に取った、王安憶の長編『長恨歌』。白居易の『長恨歌』と同じ名前の現代小説なんて、一体どんなだろうと読み始めたのですが、独特な文体にあっという間に引き込まれました。彼女の文体は、中国で「評論叙事文体」と名付けられたそうです。

凝った表現や、美麗な修辞でもなくて、一文、一文はシンプルで短いのに、それが一つ、また一つと連ねられると、他の誰とも違う雰囲気を醸し出す不思議。例えば、冒頭はこ

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ホームドラマみたいなドキュメンタリー映画『◯月◯日、区長になる女』2024年。

ホームドラマみたいなドキュメンタリー映画『◯月◯日、区長になる女』2024年。

たまたまSNSで宣伝見つけて、家族で見に行きました。久しぶりの大阪十三の第七藝術劇場は、別の映画の監督さんの舞台挨拶があったせいか、エレベーターフロアに人だかりで身動きとれないほど。『夢見る給食』のオオタヴィン監督の舞台挨拶だったそうです。

そういえば、日本のだし文化と、素材を生かした料理のすばらしさを撮ったドキュメンタリー映画『千年の一滴』もこの映画館で見たんでしたっけ。

さて、この『◯月◯

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知らなかった日本のタイル文化。『和製マジョリカタイル―憧れの連鎖』INAXライブミュージアム

知らなかった日本のタイル文化。『和製マジョリカタイル―憧れの連鎖』INAXライブミュージアム

先日、台湾の彩色タイルの本を買って、ちょっとづつ楽しみながらパラパラめくって読んでいたら、ふと似たようなタイトルの本が目にとまりました。それが、本書『和製マジョリカタイル――憧れの連鎖』。愛知県常滑にあるINAXライブミュージアムというところが出版したもので、本というより博物館の展示の図録に近いです。

「和製マジョリカタイル」というのは、大正初めから昭和10年代に日本で生産された多彩色タイルのこ

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【香港島】天官賜福。筲箕湾の道教寺院(廟祠)めぐり。

【香港島】天官賜福。筲箕湾の道教寺院(廟祠)めぐり。

2023年夏、仕事ででかけた香港島。せっかくの機会に、飛行機までの半日を観光しないわけにはいきません。早朝から、トラムに乗って香港島を横断して、終着点の筲箕湾の道教の廟めぐりをしてきました。目的はなく、単純にトラムにのって散策したかったので。

ちょっと想定外だったのは、地下鉄に比べて(当たり前だけど)2階建ての路面電車トラムはゆっくりだったこと。ほぼ西端からスタートしたので、反対側の終点まで1時

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日露戦争に人生を狂わされた男たちの物語。映画『ゴールデンカムイ』2024年

日露戦争に人生を狂わされた男たちの物語。映画『ゴールデンカムイ』2024年

オープニングのすさまじい二〇三高地のシーンから、主人公の杉元とアシㇼパが出会い、困難を乗り越えて相棒(バディ)を組むまで。この映画は、壮大な物語の「序章」です。内容は原作のテイストそのままですが、なんといっても生身の俳優さんたちがくりひろげるアクションシーンがすばらしい。そして、合間、合間に広がる試される大地、北海道の雄大な景色。映画ならではの表現で、原作の世界を存分に表現しています。

タイトル

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