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雑談

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とりとめのない談話。よもやまの話。
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映画「オッペンハイマー」について。(ミネルバの梟は黄昏に飛び立つ)

映画「オッペンハイマー」について。(ミネルバの梟は黄昏に飛び立つ)

昨夜はすることがなかった。ふと友人が、現在公開中の映画「オッペンハイマー」を勧めていたのを思い出して、亀有の映画館へ車を走らせる。上映開始は20時45分だった。

今どき流行らない3時間の大作で、観終わって車に乗り込んだ頃には日付が代わっていた。私は退屈しなかった。クリトファー・ノーラン監督の作品を他に見たことがないので早計かも知れないが、きっとこの人は音の響かせ方に秀でた映画監督だと思う。

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孤児・寡婦・異邦人

孤児・寡婦・異邦人

人は誰しも決定的な影響を受けた人がいる。私の場合、20世紀フランスの哲学者エマニュエル・レヴィナス(1907-1996)が、それにあたる。

影響を受けた範囲が広すぎて、その全容は語ろうにも語れない。それはあたかも、恋する人の好きな所を言い表せないことに似ている。どんなに言葉を尽くしたとしても、あの人の魅力を語り漏らしている気がして、上手い具合にまとまらないのだ。

このような対象について語るには

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革の話。

革の話。

今夜は「革」について雑談をしてみたくなった。ご興味があれば最後まで聞いてくださると良いし、途中で聞くのをやめてくださっても良い。暇つぶしの選択肢に如何だろうと思って話すので、そのつもりで。

私は赤羽という町にかれこれ5年住んでいる。東京の人間ならみんなたいがい知っているだろうが、都外の人間なら知る人と知らない人に分かれるかもしれぬ。この赤羽、英語で言えば、レッドウィング。アメリカの老舗ワークブー

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夢日記_06/08/2023

夢日記_06/08/2023

私と、母と兄と祖母、合わせて四人はインドに飛んだ。インドで何する予定もなかった。

ニューデリーの空港でレンタカーを借りることを思いつき、運転は発案者の私がした。空港からニューデリー市街へ。高速道路を利用した。

車内で母が言う。

ギャランティを私は知らなかったが、ニューデリー市街でギャランティを見つけるという、旅の目的を得たことに安心した。

市街地の適当な所で車を降りると、目の前にギャランテ

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衣食住の話~服の巻~

衣食住の話~服の巻~

衣食住という言葉をインターネットの辞書で引くと、次のように定義されている。

1の定義は「生活を可能にする条件」ということで、2の定義は「生活それ自体」ということである。この文章では基本的に1の意味で用いる。

つねづね不思議に思うのは、衣服と食物と住居が生活の「三大基礎」であることには、なんら異論がないのだけども、「どうしてこの順番なのか」という点である。とくに、衣服が最初に来る理由が気になる。

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衣食住の話~家の巻~

衣食住の話~家の巻~

衣食住への関心が、私の中で年々高まっている。人間だれしも一度は、このテーマに関心を持つのではないかと思うが、私の場合、七年前(二〇一六年)にそれは起こった。

はっきりとしたきっかけがある。父が亡くなった。遺された家族の生活再建のために、生まれ育った家を離れる必要が生じた。まず私は一年がかりで遺産を処分し分割し、私以外の「構成員」が住む場所の選定と、不動産業者との交渉を手がけた。それが終わると己の

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歌はため息まじりの告白

歌はため息まじりの告白

歌とは何か?
あらためて考えてみる。

言葉の意味を考える際は、「AはBでない」という否定表現が有効である。AとBは共通の本質を持っている。しかし、Bが持つ特徴B’をAは持っていないという意味で区別される。そこから、B’という特徴を持たないことが、Aの特徴であると分かる。

歌は文章ではない。お互い「言葉」という共通の本質を持ちながら、その外見と用途がまるで違う。歌にはリズムがありメロディがある。

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フロイト雑感

フロイト雑感

フロイトの「精神分析入門」を読んでいる。これはまったく愉快な読書で、今までどうして読まなかったか、と悔やまれるほどなのだが、本当のことを言うと理由は分かっていて、「読まなかった本にも思い出がある」という考えから、どうにも離れられなくなり、こうしてとりとめのない文章を書くことにした。

中学生から高校生にかけての、文学青年だった頃の私にとって、三島由紀夫と安部公房は最も影響を受けた作家だった。二人が

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読書と翻訳(後編)

読書と翻訳(後編)

(前編はこちらからどうぞ)

槇さんの読解力のお粗末さは、「読書とはそもそも何か?」という問いを、改めて差し向けて来た気がして、しばらく考え込んでしまった。

19世紀ドイツの哲学者ショウペンハウエルは、読書について独特の考えを持っていたようである。岩波文庫に「読書について」という短い本があるが、その中に出てくる次の文章には、目が覚まされる思いがする。

ここで言う「古人の説を反駁するために引用し

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読書と翻訳(前編)

読書と翻訳(前編)

日本最古の医学書「医心方」のことが気になっている。それが縁となって最近、槇佐知子さんのことを知った。槇さんは「医心方」全30巻を翻訳された方なのである。

面白い経歴の人なので軽く紹介したい。槇さんは1933年生まれ、現在も存命で89才になる。静岡に育ち、1953年(20才)に武蔵野美術大学を中退した時点で学歴を終えている。医者でも学者でもない。しかも、瀧井孝作に師事して、小説を少なくとも数作は発

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亡霊考(政治家の死)

亡霊考(政治家の死)

源氏物語における霊の現れ方には、ある単純な法則がある。抑圧された感情が一定の閾値を超えた時に、「これ以上は我慢しかねる」といった風に出現するということだ。

六条御息所の霊は二度、光源氏の前に現れている。一度目は最初の妻・葵の上が光源氏の子を出産する場面で。二度目は紫の上の病床で。一度目は、葵祭の観覧席をめぐって、いわゆる「車争い」となり、葵の上が六条御息所の車を押しのけたことを屈辱に感じたことが

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うつわの話

うつわの話

1.青山で見た「マテ壺」7月18日の昼3時。私は、東京青山の表通りから少しだけ脇に入った道を歩いていた。「うつわ」を買いに来たのである。店の名前を「うつわ大福」と云う。まるで、これから「うつわ」を買う喜びや目出度さを表しているかのようだ。

ねらいはすでに汁椀に絞られている。国産の天然木を贅沢に使った「うつわ大福」の汁椀は、そんじょそこいらの商店やスーパーマーケットで見られる木肌の汁椀とは、重厚感

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文章の考え方

文章の考え方

タイトルにもあるように、今から書くのは、「文章というものをどのように考えているか」についての、個人的な、とりとめもない雑談です。

良い文章を書きたいという方は他をあたってください。私は自分のことを良い文章の書き手とは思っていないからです。とはいえ、何も書かないのは不親切なので一言だけ言えば、良い文章を書きたければ、良い文章を書くと思う人の書くものをよく鑑賞する、そして真似てみる、ということに尽き

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